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さぬちゃんの麻酔科医生活


麻酔科医としての「一人前」を考える

麻酔科専門医という資格を取得すれば、一人前なのか?

 

まずは、これから考えてみたい。

医師としての「一人前」とは、どのような状態を指すのだろうか。この問いに明確な答えを出すのは難しく、一人前の定義は非常に曖昧である。しかし、多くの医師がこの目標に向かって努力している中で、麻酔科専門医の資格取得が一人前の基準の一つとみなされることが多い。本稿では、麻酔科専門医資格の意義と、それが本当に「一人前」を意味するのかについて考えてみたい。

麻酔科専門医とは

現在、日本で麻酔科専門医資格を取得するには、厳しい条件をクリアする必要がある。日本専門医機構による麻酔科専門医研修プログラムで 4年以上の研修を修了し、以下の基準を満たすことが求められる。

  • 臨床経験の充実
    特定の症例経験数が求められる。例えば、小児麻酔25例、心臓血管手術麻酔25例など、多岐にわたる分野で経験を積む必要がある。

  • 知識と技術の検証
    筆記試験、口頭試問、実技試験の全てに合格しなければならない。

  • その他の条件
    研究実績やACLSのプロバイダーカード取得も必要である。

これらをすべて達成し、麻酔科専門医資格を取得できるのは最短で卒後7年目。これは決して簡単な道のりではない。

一人前を測る尺度としての麻酔科専門医

麻酔科専門医は、「一人前」を証明する資格と見なされることがある。それもそのはず、この資格を持つ医師は一定の知識と技術を有することが保証されているからである。しかし、果たして資格取得だけで一人前と認められるのだろうか。

麻酔科専門医の実力は一律ではない。「専門医資格を持つ=一人前」と断定するのは早計である。一人前とは、単なる知識や技術だけではなく、臨床での判断力やチームとの連携、自立した働きぶりなど、多面的な要素を含んでいると考えるべきである。

麻酔科専門医という資格は一人前を判断する材料のひとつにすぎない!

 

麻酔科医の「一人前」とは

麻酔科医は、手術室での責任を一人で背負う場面が多い職種である。そのため、「一人前」とされるには、技術だけではなく、的確な判断力と自信を持って対応できる精神力も必要である。これは、単に資格では測りきれない要素である。

「一人前」とは、周囲から信頼され、どんな状況でも冷静に対応できる存在であること。知識・技術に加え、患者やチームと円滑にコミュニケーションを取る能力が求められる。

麻酔科専門医の資格を目指すあなたへ

麻酔科専門医は、確かに「一人前」を目指す重要な一歩である。しかし、その資格をゴールとするのではなく、それを土台にさらなる成長を目指してほしい。資格取得後こそが本当のスタートラインである。経験を重ね、日々学び続けることで、本当の意味での「一人前」に近づくことができる。

「一人前」とは、曖昧なようでいて、実はとても奥深い目標である。

 

麻酔科専門医申請資格

(1) 医師臨床研修終了後,申請する年の 3 月 31 日までに満 3 年以上の機構が定める麻酔科

専門医研修プログラムを修了すること.また,麻酔科専門医研修プログラムで修練して

いる間は,麻酔科関連業務に専従していること.

※ただし 2017 年度開始の研修プログラムは学会認定プログラムのため,(1)の要件を(A)とする.

(A) 医師臨床研修終了後,申請する年の 3 月 31 日までに 満 4 年以上の学会が定める麻酔科

専門医研修プログラムを修了すること.また,麻酔科専門医研修プログラムで修練して

いる間は,麻酔科関連業務に専従していること.

(2) 申請する年の日本麻酔科学会(以下,学会)の会費を完納していること

(3) 申請する年の 3 月 31 日までに 600 例以上の麻酔科管理症例(局所麻酔を含む)を担当医と

して経験し,下記の経験症例数を満たすこと.医師臨床研修期間中に研修プログラム所属機

関で実施した症例についても経験症例として含めることができる.なお,小児と心臓について

は 1 症例の担当医を 2 人までとするが,その他の麻酔症例では 1 症例の担当を主たる担

当医 1 名とする.また,1 症例を重複して申請することは認めない.

・小児(6 歳未満)の麻酔 25 症例

帝王切開術の麻酔 10 症例

・心臓血管手術の麻酔 25 症例 (胸部大動脈手術を含む)

・胸部外科手術の麻酔 25 症例

脳神経外科の麻酔 25 症例

(4) 申請する年の 5 年前の 4 月 1 日から申請する年の 3 月 31 日までの間に,所定の実績(10

単位)があること

(5) 申請する年の 5 年前の 4 月 1 日から申請する年の 3 月 31 日までの間に,AHA-ACLS,ま

たは AHA-PALS プロバイダーコースを受講し,実技試験申請時にプロバイダーカードを取得

していること

http://www.anesth.or.jp/info/certification/pdf/nintei/senmon-new-ikou.pdf

 

麻酔科専門医の矜持

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若い頃のさぬちゃん

麻酔科専門医の先は、どうする?という問いに、みなさんはどう答えるだろうか。

この問いの意味をどうとらえるかによって、その人が、資格に対してどの様に考えているかがわかる。

若い先生に話をするときに、「麻酔科専門医の先は、どうする?」と聞くことにしている。

次の資格取得が大切と考える先生は、次は●●専門医をとりますと答える。では、その先はと問うと、次は●●専門医をという答えが返ってくる。

身の振り方について問うていると思っている先生は、次は、研究や論文を頑張りますとか、指導を頑張りますとか(手術室の麻酔/ICU/ペインクリニック/緩和やもう少し細かい仕事など)をやっていきたいと考えてるいう答えが返る。

仕事内容の充実、スキルを上達させることだととらえている先生は、次は●●の管理ができる様にしますとか、次は●●に関する仕事ができるようになりたいと思いますとかいう答えである。もうすこし、デキる答えは、○○を極めたい!!と具体的に極めたいことを言うのである。

資格を取得することが悪いと言ってるのではなく、麻酔科専門医の取得をゴールだと考えている先生がいるのではないかという老婆心からである。

 

専門医というのはスタートであって、ゴールではない!

 

医師免許の取得と同じで、専門医取得もスタートであってゴールではない。

麻酔科専門医を100人並べれば100段階のレベルの違いがある!専門医というのはとった時点では同じ資格であるが、その後の磨き方でどの程度スキルが上がるか大切である(ドラクエで学ぶw)。

どの方面を伸ばしたいかは、本人の興味や経験症例などによって変わってくるのだが、先の目標なしにやっていると、同学年でもスキルにかなりの差が出てくることに気づかされる(私は気づく)。麻酔科専門医の矜持とは、時間がたっても専門医レベルを維持し続けることである。

専門医といえるレベルでない、(資格上の)麻酔科専門医ほど惨めなものはない。

 

麻酔科専門医のレベルとは

 

専門医のレベルをわかりやすく説明するために麻酔科医の仕事を手術室内での仕事に限定する。

一言で言うと「讃岐塾10ヵ条」 1) を実践できる麻酔科医である。

 

讃岐塾10ヵ条

①目の前の症例に対して、ベストを尽くすこと(守りには回らないこと)

②常に1つの方法だけではなく、複数の選択枝を持つこと

③自分の行っていることに自信を持つこと、その姿勢を貫くこと

④他科の医師やコメデイカルに対して絶対的な信頼を得ること

⑤患者、患者家族、外科医、メディカルスタッフに対して満足が得られるように常に努

力すること、その姿勢が見てとれること

⑥自分の専門領域の状況判断は、緊急事態以外では、すべて1人で行えること

⑦緊急事態の手に負えない症例については、躊躇せず他の医師を呼ぶことがで

きること、その判断に従えること

③新しいことには、患者の安全を確保した上で常に挑戦すること

⑨専門領域の世の動向についての勉強とスキルの維持。向上を継続すること

⑩自分の仕事についての理解が得られるよう、仕事環境を整えるために麻酔科

の仕事を広く啓蒙すること

 

文献

1)やさしくわかる!麻酔科研修 改訂第2版 P.280

 

麻酔科医になる!

麻酔科に入って、卒後1年目の秋に大学病院からはじめて一般病院に赴任した。30年以上も前の話である。当時は、現在のように2年間の初期臨床研修が義務づけられていなかったので、卒後1年目から専門科を決めて働くことができた。しかし、卒後1年目は麻酔科医と正式に名乗ることはできなかった。では、何科と言われても麻酔科に勤務している医師(麻酔科修練中)としか言いようがない。正式に麻酔科医と名乗るには、規定の麻酔科研修を行い、麻酔科標榜許可という厚生労働大臣からの資格が必要であるからだ。この、麻酔科標榜許可はいまでも変わっていないので、医師免許を得た後、 麻酔の実施に関して十分な修練を行うことのできる医療機関で、麻酔科指導医のもとで、2 年以上専ら麻酔の実施に関する修練を受けることが必要である。

気管挿管しかできない医者はいらん!

麻酔科の修練を続けていた、ある日、麻酔科の上司から「気管挿管しかできない医者はいらん!」と言われてハッと気づかされた。その頃は、挿管楽しい、動脈ライン楽しい、中心静脈楽しい、硬膜外穿刺楽しいなど、手技に目がいきがちであった。

気管挿管しかできない医者はいらん!」が、どういう意味なのかを考えはじめて、麻酔科医は何をすべきかがみえてきた。要するに、麻酔はなぜ行う必要があるのかがわかっていなかったのだ。手術をするために麻酔が必要なこと。麻酔をかけると何が起こるかと言うこと。手術や麻酔の後には何が起きるかと言うこと。それについて考えなければ麻酔科の存在意義はないということだったのだ。麻酔は、患者さんがうまく回復してはじめて評価されるということ。患者ファーストを考えて麻酔管理を行う。どんな手術であるかを理解せずに麻酔はできないと言うことである。気管挿管などの手技はできて当たり前、それも、うまくできなければ麻酔が患者の足を引っ張る。それ以上に、患者の状態の把握と良好な麻酔状態の維持、さらには上手な覚醒、快適な術後、社会生活へのすみやかな復帰が麻酔科医の担当すべき範囲(仕事)であろう。これに、早いうちに気づかせてくれた先輩麻酔科医に感謝している。


今思い返せば、このころ、私の麻酔科医としてのアイデンティティーが確立したと思う。そして、行うべき課題、勉強すべき課題の多いことに気づかされた麻酔科修練1年目であった。麻酔科医になるというのは、厚生労働大臣から麻酔科標榜許可をもらうということではなく、麻酔科医としての一人前の考えや仕事ができるという意味であることは言うまでもない。

標榜許可に必要な基準

厚生労働大臣は、医師が次のいずれかの 基準に適合しているときに許可を与える。

【基準1】医師免許を得た後、 麻酔の実施に関して十分な修練を行うことのできる医療機関※において、十分な指導を行う医師のもとで、2 年以上専ら麻酔の実施に関する修練を受けていること。


【基準2】医師免許を得た後、 2 年以上麻酔の業務に従事し、かつ、 気管挿管による全身麻酔を主な麻酔担当医として300 症例以上実施した経験を有していること。


※麻酔の実施に関して十分な修練を行うことのできる医療機関


1.麻酔部門の責任者として、十分な指導を行う医師が常時勤務していること
2 麻酔科医が管理する麻酔症例が年間 200 症例以上であること
3 安全な麻酔を行うための手術室、 半閉鎖回路麻酔器などの施設、設備が整備されていること


(有効な修練と認める基準)
2年以上の「麻酔科」での専従経験
①上記「麻酔科」での専従経験に該当する勤務条件は、「手術において行う麻酔に関する業務」に週30 時間以上従事していること。集中治療やペインクリニックに従事し、手術麻酔に関する業務が週 30 時間未満の期間は、同一医療機関における勤務であっても、修練期間に含まれない。
②1ヶ月未満の修練期間については、修練期間に含めない。
③麻酔科に所属しない期間が2年以上ある場合、それ以前の「修練期間」および「経験症例数」については、原則有効としない。


https://www.wam.go.jp/wamappl/bb13gs40.nsf/0/49256fe9001ac4c749256f930028e37a/$FILE/siryou.pdf

 

 

 

 

 

 

さぬちゃん本202409

 

 

 

 

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ロボット麻酔に何を期待するのか

ロボット麻酔という言葉が一人歩きしている。

ロボットが麻酔をする?ロボット手術の麻酔?いずれでもない。

ロボット麻酔とは、Robotic Anesthesiaを日本語表記したものである。

 

Robotic Anesthesia – A Vision for the Future of Anesthesia - PMC (nih.gov)

 

journals.lww.com

麻酔をするロボットといわれて簡単に思いつくのは、麻酔薬を自動投与してくれるもの、気管挿管をするロボットであるが、前者はPhermacological Robots、後者はManual Robotsと呼ばれる。今回、日本光電社がライセンス販売を開始したのは、前者に相当するもので、closed-loopシステムにもとづくPhermacological Robotsのソフトウェアである。ここで、???となるのだが、なぜソフトウェアなのか。機械はなくても動くのかということである。答えはNOである。

必要なハードウェアは、ソフトウェアをインストールして動かすためのPC(Windows)、シリンジポンプ(テルモ社製スマートポンプ限定)3台、日本光電社製生体情報モニター(BISモニター、筋弛緩モニター含む機種限定)とそれぞれを接続するケーブルが必要である(これらは別途に用意する必要がある)。使用する薬剤は、プロポフォール、レミフェンタニル、ロクロニウムが必要で、それぞれシリンジポンプに載せて持続投与する。現在のところ、この3つの薬剤の組み合わせ以外は使用できない。

薬剤のコントロールは、筋弛緩薬ロクロニウムの効果を筋弛緩モニター(日本光電社製)でモニタリングしてclosed-loop制御で投与量を調節する。プロポフォールやレミフェンタニルはBISが45となるように決められたアルゴリズム(closed-loop制御)で調節をおこなうものである。つまり、麻酔中の鎮静度、筋弛緩状態のデータをフィードバックすることで筋弛緩薬、鎮静薬、鎮痛薬の投与量を自動調節する。

しかし、血圧や脈拍、呼吸数や換気量、SpO2、EtCO2、気道内圧、体温などは、生体情報モニターに表示はしているが何の保障もない。また、出血、尿量、術野の状況なども考慮されていない。したがって、患者状態をコントロールするためには、このシステムに慣れた麻酔科医がその場にいて介入する必要がある。自動車で言えば、高速道路を安定走行しているときのオートクルーズボタンと思えば良い。車を運転できる能力が必要である。もっと言えば、オートクルーズがはずれたときに、自分で運転できない人は使えない。

www.nihonkohden.co.jp

www.nikkei.com

 

自動運転にもレベル0からレベル5までの段階がある。レベル1とレベル2は人が主体で、運転支援といわれるもの、レベル3からレベル5が車が主体で、程度の差はあれ自動運転と呼べるものである。

jidounten-lab.com

https://www.mlit.go.jp/common/001226541.pdf

今回のシステムは、自動運転のレベル1か2だと考えられるため、運転支援のレベルと言える。

 

さて、次に気になるのは、誰がこのシステムを操作できるのかということである。

日本麻酔科学会の全身麻酔用医薬品投与制御プログラムに関する適正使用指針<2023年3月制定>

に、その答えがある。

 

「使用可能な医師の条件」として

(1)日本麻酔科学会あるいは日本専門医機構の麻酔科専門医、日本麻酔科学会の麻酔科指導医で、過去にTIVA管理症例が300例以上あることが証明できる医師

かつ

(2)この製品プログラムのレーニングコースを修了している医師

である。

 

「使用可能な施設」にも以下の3つの条件がそろっている必要がある

(1)日本麻酔科学会の麻酔科認定病院として認定されていること。

(2)日本麻酔科学会の年次報告で過去 3 年間の麻酔科全身麻酔管理症例の 50%以上あるいは年間 600 例以上の全静脈麻酔(TIVA)管理症例があること。

(3)日常的に使用する全手術室に脳波モニターおよび筋弛緩モニター(神経刺激装置は不可)が常備されていること。

 

また、「使用できる患者」にも

ASA-PS 分類 2 以下の成人患者(低体温療法での手術、心臓血管外科の手術、妊娠中の患者を除く)という制限がある。

 

さらに、本システムを使用している間は、「使用可能な医師の条件」を満たす麻酔科医師が当該手術室内に常駐すること。いかなる理由があっても、医師以外のメディカルスタ ッフに麻酔管理を担当させないこと(全身麻酔の導入から麻酔を行う本システムによ る麻酔は絶対的医行為と見なされるため)。

 

いかがだろうか。

経験のある麻酔科医がプロの道具として使うとき、その真価が発揮されると考える。

 

せっかくの夢のあるシステムも正しい条件下で使用しなければ、その先はない。

 

これまでに、Sadasys(R)なども米国では発売されたが、鎮静を仕事にする麻酔看護師が使わない作戦を展開して売れずに製造が中止された経緯がある。

日本では、どの様な反応が起きるのだろうか。

まさか、これで麻酔科医が不要と考える人はいないと思うが、このシステムを導入して十分に使いこなせない人に麻酔を担当させ麻酔事故をおこすことは断じて許さない。

 

www.huffingtonpost.jp

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

このシステムがSedasysの様にならないように、うまく発展させて麻酔科医の味方につけたいと思っている。

 

チバ類

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ミズチバの話題が再燃している。ミズチバとは、アルチバ(レミフェンタニル)を溶解するのを忘れて、溶解液のみを注射器に詰めて用意することをさす。

アルチバの入った注射器であると思っていたら溶解液だけだったという場合、すなわち、水をアルチバと思って投与することから作られた造語である。これは、全国区の言葉である。

これと同様の造語に、ユカチバがある。ユカチバはアルチバの注射器をシリンジポンプにセットして、輸液ラインに接続し忘れてポンプのスタートボタン押したときに床にポタポタと落ちる様を表す言葉である。また、アルチバを溶解した後に、注射器内の空気を取り除こうとして勢い余って床にアルチバがこぼれて様子を表すこともある。

https://www.medica.co.jp/topcontents/pdf/sanuchan/vol01.pdf

 

それ以外に、

ウスチバ、ユルチバ、トメチバ、ヤメチバ、ウソチバ、カラチバなどの言葉も使われている。

ウスチバというのもある。これは意図的に行われることが多い。アルチバを溶かす際に、こぼしてしまったため、さらに溶解液で希釈してシリンジポンプにセットしている状態を指す。これは、「今日のアルチバは効きにくい」と指導医が言葉を発したときに、希釈した者がその真相を明かさなければ決してばれない。希釈現場を目撃されている場合は、話は別である。

ユルチバもユカチバと同様の意味だが、シリンジとエクステンションチューブあるいは輸液ルートとの接続が緩んでいて、アルチバが漏れている状態を指す。ロックつきでない注射器にエクステンションチューブを使用していると起こりやすいが、ロック付きを使っていてもきちんと閉めないとおきることがある。

トメチバというのは、エクステンションにクランプがついているモノや3方活栓を使っている場合に起こりうる。クランプをはずさすに注入を開始するか3方活栓を開けずに注入を開始した場合に起きる。この場合には、シリンジポンプのアラームが鳴って気づく。また、アルチバの効果が強く出て、シリンジポンプを一時停止した場合に、止めていたことを忘れている場合にも使う言葉である。シリンジポンプは、2分間停止しているとアラームが鳴るのであるが、たまたま、そのとき周りが騒々しくて音が聞こえない場合、さらに長時間停止していることに気づかないこともある。

ウソチバというのは、ガンマ計算(管理人はガンマは口語であると思うのだが、テルモのシリンジポンプには堂々と表記してある。)つきのポンプで投与した場合、1mg/mlの希釈数値以外、あるいは体重kgを誤って入れた場合に起きる投与速度の誤りである。たとえば、体重80kgを8kgと入力した場合、投与速度はガンマの値を信用して入力すれば1/10の投与速度になってしまう。

カラチバというのは、ミズチバとと同じ意味を表すこともあるが、別の意味もある。シリンジ混入した空気をきちんと追い出さずにポンプにセットした場合、最後は空気を押していることになる。大抵はエクステンションチューブ内で空気は止まるので患者には入らないが、その後が問題である。次のアルチバをセットするときに、エクステンション内の空気を抜くのに時間がかかり、手間取ることが多い。ご存じの通り、アルチバの半減期は短いため、すぐに血中濃度が下がっていく。ぎりぎりの濃度で麻酔をしている場合には、慌てることになる。トラブルが起きるからといって不必要に高濃度で行うのも問題ではあるが。。。。

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さらに

コイチバ、ハヤチバ、オオチバ、コチバ、ギザチバ、ナイチバ、ヤメチバなど

もつかわれている。

コイチバというのは、思いがけず一本の注射器に2本のアルチバを溶かしてしまうことをさす。よくあるのは、一本しているときに、誰かに話しかけられてもう一本希釈してしまう状況である。また、意図的に通常(100μg/mL)の2倍の濃度にする場合にも使われる。「これ、コイチバだからいつもの半分の速度で投与しています」などとつかう。

オオチバというのは、意味が2つある。ひとつはアルチバの投与速度が速いことをさし、「それ、オオチバじゃない?」という。この場合には、ハヤチバともいう。「それ、ハヤチバだろう。そんなにいる?」などとつかう。もう一つの意味は、大きいアルチバ=5mgのアルチバをさす言葉である。「うちのはオオチバだから、50ccに希釈してね」などとつかう。この意味で使われる言葉にデカチバもある。

コチバというのは、オオチバの反対で2mgのアルチバのことである。チビチバともいう。

ギザチバというのは、アルチバの速度を頻回に変更して使っていることを言う。血圧が上がればアルチバの投与速度を上げ、血圧が下がればアルチバの投与速度を下げるような状況が延々と続いていることを示す言葉である。どちらかというとアルチバの使い方が下手なことを意味する。

ナイチバというのは、全身麻酔を覚醒させる際にアルチバの血中濃度(効果部位濃度)をゼロにする(効果が無視できるほど下げる)ことをいう。「はやめにナイチバにして、呼吸をだしてから覚醒させなさい」などと使う。この場合、早めにやめることを指してヤメチバともいう。

 

いろいろ、チバ類を紹介したが、ミズチバは麻酔科医には最も恐れられているものである。

ミズチバをひきおこすと、とても不幸な結果となるため、予防が大切であることは言うまでもない。

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第38回日本麻酔・集中治療テクノロジー学会と第17 回麻酔科学サマーセミナーは別日程で開催します!

麻酔科学サマーセミナー2020

麻酔科学サマーセミナー2020


2021年6月25日(金)〜27日(日)に沖縄県名護市の万国津梁館第17 回麻酔科学サマーセミナーを開催します。本来は、2020年6月25日〜27日に第38回日本麻酔・集中治療テクノロジー学会に引き続き開催する予定でしたが、第17 回麻酔科学サマーセミナーは2021年6月25日〜27日に延期いたします。第38回日本麻酔・集中治療テクノロジー学会は、同時開催ではなく2021年2月25日(木)〜26日(金)に日程を変更いたしました。

第17 回麻酔科学サマーセミナーの2021年6月25日のイブニングセミナーでは、いつも盛り上がるi-gelのセミナーが、最終日の6月27日のモーニングセミナーでは、意識下挿管のセミナーが決定しています。恒例企画であるバトルオンセミナー(6月26日)のテーマとして「2台持ち時代のビデオ喉頭鏡」に3社以上の参加が予定されています。一般演題は、研修医セッション(平成28年度以降に卒業の医師対象)と一般セッション(医師およびコメディカル対象)に分けて募集しますが、いずれも6月27日夕方の発表となっています。それぞれ優秀演題には賞状および副賞が贈られます。

 

第38回日本麻酔・集中治療テクノロジー学会では、2月25日のイブニングバトル「麻酔効果のモニタリング」では、筋弛緩モニター/術中処理脳波モニター  4-5社が共催して行うテクノロジーまたは臨床応用に関するセミナー(バトル)が予定されています。モーニングシンポジウム(2月26日)「自動麻酔記録から自動麻酔へ」では、現実的になりつつある自動麻酔に関する期待や問題点について、本音で討論いただきます。同日のランチョンセミナーでは、全身麻酔中の侵害受容刺激反応レベルのモニタリングに関する講演を予定しています。午後からは、麻酔科医療に役立つウェアラブルコンピューティングをテーマに、ウェアラブルの伝道師である塚本昌彦先生に基調講演をお願いしています。引き続き、公募シンポジウムを行います。一般演題(口演)と機器展示ブースでのラウンドセッション(機器展示ブースを巡りショートプレゼンを聴く全員参加ツアー)も6月26日に行われます。一般演題のポスターセッションは、中止し、すべて口演とします。一般演題では優秀演題が選出されます。機器展示ブースでのラウンドセッションでも、最優秀プレゼンテーションには、賞状と副賞が贈呈されます。それ以外にも、会長または審査員が学会会期内に際立った能力を認めた場合には、特別賞として賞状および副賞を贈呈します。

 

テクノロジー学会は、すでに早期参加登録を開始し2020年11月9日(月)までがお得です。いずれの学会の参加登録を完了した場合にもお得な価格でブセナテラスの宿泊予約を提供する予定です。

 

宿泊と飛行機の予約をお早めに!