こんにちは、さぬちゃんです。
麻酔科医なら誰でも一度は思ったことがあるはず。
「非観血血圧(NIBP)、5分ごとって……ちょっと間隔あきすぎじゃない?」
だったら測定間隔を半分の2.5分にすれば、低血圧をもっと早く見つけて、もっと減らせるんじゃないの?──この素朴な疑問に、ドイツ・ハンブルクのSaugelらのグループがRCTで答えを出しました。結論から言うと「減らなかった」。
……ただし、ここで話を終わらせると大事なものを見落とします。
この試験が見ているのは、あくまで「麻酔維持期」の低血圧なんです。
麻酔で血圧がいちばん荒れる局面はどこか。多くの先生が肌感覚でわかっているとおり、それは導入直後ですよね。今日はこの「維持期 vs 導入期」という切り口で、測定間隔と血圧監視の話を根本から考え直してみます。
まず今回の試験:「2.5分 vs 5分」は何を見たのか
試験の概要(Kouzら, Anesthesiology 2026)
- デザイン: 単施設・ランダム化比較試験(参加者盲検)
- 対象: 全身麻酔下で待機的に非心臓手術を受ける患者 264例(低〜中リスク中心)
- 介入: 上腕カフのオシロメトリ血圧を、術中に 2.5分ごと に測る群 vs 5分ごと に測る群
- 評価の裏側: 両群とも、盲検化した フィンガーカフ連続血圧 を回して“真の血圧”を記録
- 主要評価項目: 手術中のMAP<65mmHgの時間加重平均(TWA)
ここで太字にした「手術中」がキモです。この試験の主要評価は、執刀開始後=麻酔維持期の血圧を見ています。導入直後の“いちばん荒れる時間帯”は、主要評価の主戦場ではないんですね。
用語をひとつ。TWA(時間加重平均)=「どれくらい深く×どれくらい長く」低血圧だったかを手術時間で割って“ならした”指標。閾値(65mmHg)を下回った“面積”を時間で標準化したものとイメージしてください
結果は前回お伝えしたとおり、見事に差なし
- 主要評価(MAP<65のTWA): 2.5分群も5分群も中央値 0.00 mmHg、P=0.27
- 深い低血圧(MAP<50が1分以上): 2.5分群5.3% vs 5分群9.9%(数では半分だが P=0.24で有意差なし)
- ノルアドレナリン累積量: 両群差なし
要するに「低〜中リスクの待機手術で、ノルアドで血圧をタイトに管理していれば、維持期の低血圧はそもそもほぼゼロ。だから測定間隔を詰めても減らしようがなかった」。フロア(下限)効果ですね。満点の答案は、それ以上良くできないってこと。
「維持期で差がない=導入期でも差がない」ではない
さて、ここが今日の本題です。
維持期で差が出なかったからといって、「じゃあ測定間隔なんてどうでもいい」と一般化してしまうと、危ない!
なぜなら、導入期は維持期とまったく別の血行動態イベントだからです。
同じハンブルクのグループが、実はこの点を以前からきっちり分けて研究しています。
Südfeldら(BJA 2017)は、術中低血圧を発生する“局面”ごとに分けて解析しました。
- 導入後低血圧(PIH): 麻酔導入後20分以内の低血圧
- 早期術中低血圧(eIOH): 執刀開始後30分以内の低血圧
そのうえで「この2つは、背後にあるメカニズムが違うのだから、分けて考えるべきだ」と主張しています。実際、導入後低血圧のリスク因子として、導入前の収縮期血圧・年齢・緊急手術が独立して関連していました。
なぜ局面で分ける必要があるのか。ざっくり言えば──
- 導入期: 麻酔薬(プロポフォールなど)による血管拡張・心抑制が、手術侵襲という“血圧を上げる刺激”がまだ来ていないタイミングで一気に効く。だから血圧が“ストン”と落ちる。しかも執刀前で手術操作もなく、外科医もまだ手を出していない“空白地帯”。
- 維持期: 手術侵襲による交感神経刺激と麻酔薬のバランスがある程度取れてくる。出血や体位変換といった“イベント”がなければ、血圧は比較的安定して推移する。
つまり導入期は、「下げる力(麻酔薬)」だけが先行して「上げる力(手術刺激)」が不在という、構造的に低血圧が起きやすい時間帯なんです。
そして導入期こそ、間欠測定の弱点が最大化する
ここで“測定間隔”の話に戻ってきます。
導入期の血圧低下は、速くて急峻です。プロポフォール投与から数十秒〜数分で、MAPが一気に下がることがある。この局面で「5分ごと」の間欠測定をしていると、何が起きるか。
カフが膨らんで、しぼんで、値が出る。その次の測定まで最大5分。その5分のあいだに、血圧が谷を作って、また戻っているかもしれない。モニターは前の値を平然と表示し続け、臨床医は“谷”の存在に気づかないまま導入が進む。
維持期の「なだらかな血圧推移」を5分ごとに追いかけるのと、導入期の「急峻な谷」を5分ごとに追いかけるのとでは、見逃しのリスクがまるで違う。変化が速い局面ほど、測定間隔の“空白”が致命的になるわけです。
これを実証したのが、同じグループの2つのRCTです。
AWAKE試験(Kouzら, BJA 2022) 動脈カテーテル(Aライン)による連続測定を、導入前から使う群と、間欠オシロメトリ群を比較。導入後15分間のMAP<65の面積が、連続測定群で67%減少しました。著者らの実務的な示唆が秀逸で、「Aラインを入れる予定の患者なら、導入後ではなく導入前に入れたら?」と。
DETECT試験(Kouzら, Anesthesiology 2023) 今度は侵襲的なAラインではなく、フィンガーカフの連続測定で検証。連続測定群では、導入後15分の低血圧(MAP<65の面積の中央値 7 vs 19 mmHg×分)も、手術中の低血圧も、いずれも有意に減少しました。
さらに遡ると、Maheshwariら(Anesth Analg 2018)も、フィンガーカフ連続測定で術中低血圧がほぼ半減することを示しています(ただし「臨床的意義はまだ不確か」と慎重)。
3つの試験を並べると、全体が見えてくる
ここまでの流れを整理しましょう。同じ研究グループが、実は一貫したストーリーを描いています。
| 試験 | 何を比較 | 主な局面 | 結果 |
|---|---|---|---|
| AWAKE (2022) | 連続Aライン vs 間欠 | 導入期 | 導入時低血圧が67%減少 |
| DETECT (2023) | 連続フィンガーカフ vs 間欠 | 導入期+維持期 | 両方で有意に減少 |
| 今回 (2026) | 間欠2.5分 vs 間欠5分 | 維持期 | 差なし |
この3つを並べると、冒頭の問い:「連続測定が効くのは、常時見えているからか、単に測定頻度が上がったからか?」への答えが見えてきます。
- 連続測定 → 低血圧が減る(AWAKE, DETECT)
- 間欠の頻度を2倍にしただけ → 減らない(今回、少なくとも維持期・低リスクでは)
素直に読めば、「間欠測定の頻度を上げるだけでは、連続測定の代わりにはならない」。連続測定の価値は、単なる測定回数ではなく、リアルタイムに、トレンドとして、切れ目なく血圧が見えることにある。とくに導入期のような“急峻な谷”が起きる局面では、2.5分の間隔でもまだ谷を取りこぼしうる。
そしてなぜ今回の維持期RCTで差が出なかったかも、導入期と維持期を場合わけすることで、スッキリ理解できます。維持期は、そもそも血圧が急変しにくい“おだやかな局面”だから。おだやかな局面では、間欠2.5分でも5分でも、拾える情報にたいした差がなかったというわけです。
なぜ「低血圧を減らす」ことにこだわるのか
念のため、そもそもの動機も押さえておきましょう。術中低血圧(IOH)が術後の臓器障害と関連することは繰り返し示されています。
- Salmasiら(Anesthesiology 2017): MAP 65mmHg未満、あるいはベースラインから20%以上の低下が、急性腎障害(AKI)と心筋障害の両方に段階的に関連。低い血圧に長くさらされるほどオッズが上がる。
- Wesselinkらのシステマティックレビュー(BJA 2018): 42研究をまとめ、MAP 80mmHg未満が10分以上続くと臓器障害リスクが上がりはじめ、血圧が下がるほどリスクが増していく。
「低血圧は、深さ×時間の“面積”で効く」というのが共通の理解。だからこそ、深さ×時間の面積が生まれやすい導入期をどう守るかが、臨床的にはとりわけ重要になるわけです。
さぬちゃん的まとめ
局面ごとに整理すると、こうなります。
- 維持期(おだやかな局面)
低〜中リスクの待機手術で、低血圧を見つけたら躊躇なく昇圧する──この管理ができていれば、間欠5分でも十分戦える、という一つの根拠。「なんとなく不安だから2.5分」に神経質になりすぎなくてよい。ただしこれは「低血圧が既にほぼ無い集団」での話であって、「5分がベスト」という意味ではありません!
- 導入期(荒れる局面)
ここは維持期の結論を持ち込んではいけません。導入期は構造的に低血圧が起きやすく、しかも変化が速い。間欠測定の弱点が最大化する局面です。
- Südfeldのリスク因子(導入前の低血圧・高齢・緊急手術)に当てはまる患者では、導入時低血圧を予測して先手を打つ。
- Aラインを入れる予定の症例なら、AWAKEの教訓どおり導入前に入れて連続測定を立ち上げることを検討。
- 導入期の“谷”が怖い症例では、フィンガーカフなどの連続非観血モニタも選択肢。
- 「頻回」と「連続」は別物
間欠の間隔を詰めることと、連続で見ることは、得られるものが質的に違う。血圧が動く局面では、間隔短縮よりも連続化のほうが効く可能性が高い。
- ネガティブスタディこそ、条件を読むべき
「2.5分でも差がなかった」を額面どおり受け取らず、“どの局面で・どんな患者で・どんな管理下で差がなかったのか”をセットで理解する。今回で言えば「維持期・低リスク・タイトな昇圧管理下」という限定条件が本質でした。
今回の試験の面白さは、「差がなかった」という結果そのものよりも、それが“どの局面の話なのか”を意識させてくれるところにあります。
維持期は、間欠5分でも案外守れる。でも導入期は別物で、そこでは“連続で見る”ことに明確な価値がある。同じ「血圧監視」でも、局面が変われば最適解が変わる──この当たり前のようで見落としがちな事実を、ハンブルクグループの一連の研究は美しく描き出しています。
「血圧、5分ごとで大丈夫?」の答えは、「維持期なら、たぶん大丈夫。でも導入の谷だけは、間欠測定に任せきりにしないで」。
これが今日の結論です!
それではまた。
参考文献
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Kouz K, Sierzputowski P, Turan A, et al. Intervals for Oscillometric Arterial Pressure Monitoring during Noncardiac Surgery: The "2.5-Minute versus 5-Minute" Randomized Clinical Trial. Anesthesiology. 2026;145(2):291–299. DOI
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Südfeld S, Brechnitz S, Wagner JY, et al. Post-induction hypotension and early intraoperative hypotension associated with general anaesthesia. Br J Anaesth. 2017;119(1):57–64. DOI
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Kouz K, Wegge M, Flick M, et al. Continuous intra-arterial versus intermittent oscillometric arterial pressure monitoring and hypotension during induction of anaesthesia: the AWAKE randomised trial. Br J Anaesth. 2022;129(4):478–486. DOI
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Kouz K, Weidemann F, Naebian A, et al. Continuous Finger-cuff versus Intermittent Oscillometric Arterial Pressure Monitoring and Hypotension during Induction of Anesthesia and Noncardiac Surgery: The DETECT Randomized Trial. Anesthesiology. 2023;139(3):298–308. DOI
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Maheshwari K, Khanna S, Bajracharya GR, et al. A Randomized Trial of Continuous Noninvasive Blood Pressure Monitoring During Noncardiac Surgery. Anesth Analg. 2018;127(2):424–431. DOI
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Salmasi V, Maheshwari K, Yang D, et al. Relationship between Intraoperative Hypotension, Defined by Either Reduction from Baseline or Absolute Thresholds, and Acute Kidney and Myocardial Injury after Noncardiac Surgery: A Retrospective Cohort Analysis. Anesthesiology. 2017;126(1):47–65. DOI
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Wesselink EM, Kappen TH, Torn HM, et al. Intraoperative hypotension and the risk of postoperative adverse outcomes: a systematic review. Br J Anaesth. 2018;121(4):706–721. DOI
