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さぬちゃんの麻酔科医生活

ZoteroからEndNoteへ文献データを渡す方法 〜共著者がEndNote派でも大丈夫〜

こんにちは、さぬちゃんです。

 

EndNoteからZoteroへの引っ越し記事を書いたら、今度は逆方向の質問が来た。

「自分はZoteroに移ったんですが、共著者がEndNoteなんです。文献データを渡せますか」

あるあるである。

 

母艦をZoteroにしても、共同研究の相手や医局の標準がEndNoteという状況はしばらく続く。

結論から言うと、渡せる。

RIS形式というファイルを介するだけだ。

 

ただし、つまずきポイントが3つあるので、手順と一緒に書いておく。

基本手順

Zotero側(書き出し)

  1. 渡したい文献を選ぶ。論文1本分ならそのコレクション(フォルダ)を右クリック、全部ならライブラリを右クリック
  2. 「コレクションを書き出す」を選ぶ
  3. フォーマットは RIS を選択
  4. 必要に応じてチェックを入れる:「ノートを書き出す」「ファイルを書き出す」(後述)
  5. 保存すると .ris ファイル(+添付フォルダ)ができる

EndNote側(読み込み)

  1. File → Import → File
  2. Import Option(フィルタ)で Reference Manager (RIS) を選ぶ
  3. Text Translation を Unicode (UTF-8) にする(超重要。後述)
  4. Import を押す

これで書誌情報がEndNoteライブラリに入る。基本はこれだけである。

つまずきポイント3つ

その1: 日本語が化ける → 文字コードをUTF-8に

一番多い事故がこれ。EndNoteのインポート画面でText Translationが初期値のままだと、和文文献の著者名やタイトルが文字化けすることがある。ZoteroのRISはUTF-8で出てくるので、EndNote側でも、Importで開いたダイアログの左下にあるShow  Optionsを開いて、Text translation:のところを Unicode (UTF-8) を選ぶ。万が一、これを忘れて化けた状態で取り込んでしまったら、直すより消してやり直す方が早い。

その2: PDFも一緒に渡したい → 「ファイルを書き出す」+セットで渡す

書き出し時に「ファイルを書き出す」にチェックを入れると、.ris と同じ場所に添付PDFのフォルダが作られ、RISの中に相対パスで記録される。この .ris とフォルダを同じ階層に置いたまま(ZIPで丸ごと渡すのが確実)渡す。解凍した後、○○.risファイルをEndNoteでインポート(Unicode (UTF-8) を選ぶのを忘れずに)すれば、PDFのありかがNotesに書かれているので、インポートされたそのフォルダを開いて、File Attchments+で一つずつファイルを選択すると取り込まれる。少し手間であるが、できないことはない。

最悪、書誌さえ渡ればPDFはDOIから再取得できるので、致命傷にはならない。

その3: フォルダ分けは運ばれない → 単位ごとに書き出す

RISにはコレクション(フォルダ)の情報が入らない。ライブラリを丸ごと1つのRISにすると、EndNote側では全部が1つの山になる。整理を保ちたければ、コレクション単位で書き出して、EndNote側で対応するグループに順番にインポートする。EndNote→Zoteroのときと同じ地道な作業だが、論文1本分の受け渡しなら、むしろコレクション1個で済むので楽だ。

移るもの・移らないもの

項目 移る?
著者・タイトル・雑誌名・年・DOIなど 移る
タグ 移る(EndNoteのKeywordsに)
ノート 移る(チェックを入れた場合)
添付PDF 条件つきで移る(上記その2)
コレクション構造 移らない
関連アイテム・保存済み検索 移らない

文献タイプの対応も概ね自動だが、一部が「Generic」になることがある。渡した後に相手側で数件見てもらうとよい。

番外: Word原稿の中の引用は別問題

ここは誤解が多いので明記しておく。今回の話は「文献データの受け渡し」であって、Word原稿に埋め込まれた引用フィールドの変換ではない。Zoteroのプラグインで挿入した引用と、EndNoteの引用フィールドには互換性がなく、相手のEndNoteで「そのまま引き継いで編集」はできない。

共著者ラウンドでこれが問題になる場合の現実解は、

(1) 原稿の引用をプレーンテキスト化して渡し、文献リストの管理は主著者が握り続ける

(2) 最初から最終工程用の文献一式を今回の方法でEndNoteに渡しておき、引用の挿入自体を相手の流儀に合わせる

のどちらか

 

わが家の運用(初稿はMarkdown、最終ラウンドだけWord+EndNote)は後者である。

まとめ

  • Zotero→EndNoteは RIS書き出し→インポートで渡せる
  • 事故防止の3点セット: UTF-8指定添付は.risとフォルダをZIPでコレクション単位で
  • Word原稿内の引用フィールドは別問題。文献データと切り分けて考える

文献管理ソフトの違いは、共同研究の障壁にはなりません。RISという共通語を1つ覚えておけば、ZoteroユーザーとEndNoteユーザーは普通に共存できます。

 

では、では

ZoteroはPDFを放り込むだけで書誌情報を拾ってくれるのか

こんにちは、さぬちゃんです。

Zotero移行の記事を書いてから、こんな質問をもらった。「手元にPDFだけが大量にあるんです。書誌情報を1件ずつ手入力しないとダメですか」

EndNote時代からの遺産、メールで共著者から送られてきたPDF、いつかのダウンロードフォルダの堆積物。文献管理ソフトを乗り換えるとき、一番の心理的障壁はこの「PDFの山」だと思う。結論から言うと、Zoteroには、PDFから書誌情報を自動で拾う機能が標準で入っている。今回はその実力と限界の話

使い方: ドラッグするだけ

やることは本当にこれだけ!

  1. PDFをZoteroの画面にドラッグ&ドロップする
  2. 数秒待つ

すると、PDFの上に親アイテムが自動で作られ、著者・タイトル・雑誌名・年・DOIまで埋まった状態になる。複数ファイルをまとめてドラッグすれば一括で処理されるので、「PDFの山」相手でも作業量はほぼ変わらない。うまく認識されなかったものだけ、右クリックから「メタデータを取得(Retrieve Metadata)」で再試行できる。

初期設定で有効になっているはずだが、もし動かなければ設定の一般タブにある「PDFのメタデータを自動的に取得」を確認してほしい。

仕組み: 魔法ではなくDOI

種明かしをすると、ZoteroはPDFの中身のテキストからDOI(論文の背番号)などの識別子を探し出し、それを手がかりに文献データベースへ問い合わせている。AIがタイトルっぽい文字列を推測しているのではなく、背番号で正式な書誌情報を照合しているので、当たったときの精度は極めて高い。誤字だらけの書誌が生成される心配はまずない。

この仕組みを知っていると、成功しやすいPDFと失敗しやすいPDFの見分けもつくようになる。

ほぼ確実に成功する

  • 出版社サイトからダウンロードした英文誌のPDF(DOIが刷り込まれている)
  • 比較的新しいオープンアクセス論文

失敗しやすい

  • スキャンした紙のコピー(テキスト層がないので読み取れない。先にOCRが必要)
  • DOIが振られていない古い和文誌
  • 学会抄録、院内資料、サプリメントファイル

体感では、英文誌のPDFなら大部分が一発で通る。一方、和文文献は成功率が落ちる。J-STAGE掲載でDOIがあるものは通ることが多いが、そうでないものは次の手を使う。

失敗したときの次の一手

認識に失敗しても、手入力に戻る必要はない。

その1: 背番号を自分で入れる

Zoteroのツールバーにある魔法の杖アイコン(識別子で追加)に、DOIやPMIDを打ち込むだけで書誌情報が丸ごと入る。PubMedで論文を見つけてPMIDをコピーしてくれば、和文・英文問わず正確な書誌が数秒で立つ。あとは既存のPDFをそのアイテムにドラッグして添付すればよい

その2: そもそもブラウザから取り込む

 以前の記事で書いたとおり、Zotero Connector(ブラウザ拡張)を使えば、雑誌サイトやPubMedの画面から書誌+PDFがセットで入る。これから出会う論文はブラウザ経由、過去の山はドラッグ&ドロップ、と使い分けるのが効率的だ。

 

ちなみに公平のために書いておくと、EndNoteにも同様のPDF取り込み機能はある(こちらもDOIベース)。ただ、失敗したときのリカバリーの軽さと、取り込み後にファイル名まで書誌情報で自動リネームしてくれる気の利き方で、個人的にはZoteroに軍配が上がると思う。

まとめ

  • ZoteroはPDFをドラッグするだけで書誌情報を自動取得する。一括処理も可
  • 仕組みはPDF内のDOI等を使った照合だから精度が高く、DOIのないPDFには弱い
  • スキャンPDFはOCRしてから。和文はPMIDやDOIの手動入力が確実な迂回路
  • 移行時の「PDFの山」は障壁ではなく、午後のコーヒー1杯分の作業である

書誌の手入力は、われわれの仕事ではありません。背番号に働いてもらいましょう。

 

では、また

TIVAinSight にプレゼンテーションモードをつけました version 0.92

こんにちは、さぬちゃんです。

TIVA のシミュレータ TIVAinSight(旧 TIVA PK/PD Web Simulator)を、v0.92に更新しました。
今回の目玉はプレゼンテーションモードです。

後ろの席ではプレゼン画面が見にくいこと

このシミュレータ、もともとは自分のノートパソコンの画面で「プロポフォールを 4 mg/kg/h に落としたら Ce はどう下がるか」を眺めるために作ったものです。

ところが講義やセミナーで使うとなると、困ったことが起きる。プロジェクタに映したら、グラフの数字が読めないのです。

普段の画面は、左に患者設定、真ん中にグラフ、右に投与の履歴、という 3 列構成です。ノートパソコンで一人で操作するにはこれがいちばん便利なのですが、教室の後ろの席から見ると、肝心のグラフが画面の 3 分の 1 しかない。軸の数字は 11 ピクセル。「今、Ce が 3 を超えましたね」と言っても、後ろの席の人には線がどこにあるのかも見えません。

「じゃあブラウザの拡大機能で大きくすれば」と思うでしょう。やってみると、全部が均等に大きくなるので、左右のパネルに押されてグラフはやっぱり小さいまま。設定パネルを畳んでグラフだけ映す、なんて機能もありませんでした。

つまり、「一人で操作する画面」と「みんなに見せる画面」は、別物です。そこで、見せるための画面を用意することにしました。

使い方は「グラフ領域をダブルクリック」

説明することが、ほとんどありません。

  1. いつもどおり患者と薬剤投与設定する
  2. グラフの上をダブルクリックする
  3. 画面がグラフが見えやすいレイアウトに切り替わる

戻るときも、グラフをダブルクリック。通常モードとプレゼンモードを、行き来できます。

グラフ操作バーに「▣ プレゼン」ボタンもつけたので、ダブルクリックが苦手な方はそちらでどうぞ。戻るほうは、プレゼン画面右上の「✕ 通常モード」ボタンか、キーボードの Esc キーでもOK。

ちなみに、これまでグラフのダブルクリックは「ライブ表示に戻る」という役割でした。v0.91 からはプレゼンモードの切り替えに変わっています。最新時刻へ戻りたいときは「● ライブ」ボタンを押してください。

プレゼン画面には何が出るのか

TIVAinSight Version0.92
場所 表示するもの
上段 時計、開始/一時停止、速度、表示窓、● ライブ、Cp/Ce の表示切替、CSDT ボタン
中段 グラフ。文字も線もおよそ 1.9 倍に拡大
下段 薬剤ごとの大きな Cp/Ce 読み取り値、Manual/TCI/ETCI の切替、目標濃度や速度の入力とチップ、ボーラス入力と体重換算チップ

ポイントは下段です。プレゼン中でも投与の操作がそのままできます。

1920×1080 に「固定」した理由

ここは少し設計の話です。

プレゼン画面は、1920×1080(フルHD)を基準にレイアウトを固定しています。実際の画面がそれより小さければ、縦横比を保ったまま縮小して中央に表示します(余った部分は黒帯)。大きければ拡大します。フルHD のプロジェクタなら、ちょうど等倍です。

なぜ固定したかというと、文字の大きさや配置がどの環境でも同じなら、自分のパソコンで見たままの画面が会場に映ります。スライド作成ソフトが 16:9 の紙面を固定しているのと同じ考えです。

対応ブラウザでは、プレゼンモードに入ると自動的にブラウザの全画面表示になります。アドレスバーやタブも消えるので、画面のすみずみまでグラフです。iPhone のように全画面に対応していない環境では、対応していません。iPadとPCでご利用ください。

計算エンジンは変わっていません

念のため。今回変えたのは見た目だけで、計算エンジン(モデルの式、パラメータ、数値積分)は v0.90 とまったく同じです。

同梱の validate.html を開くと、公表している基準ケースを含む 24 項目の自動検証がその場で走ります。v0.912でも 24 項目すべて PASS を確認しています。

教育・研究用のシミュレータです。実際の患者さんの投与判断には使わないでください。

プレゼンモードを使うときの小ワザ

せっかくなので、実際に使ってみて気づいたこと

    • 速度は x60 か x120 がちょうどいい。 x30 だと 30 分の経過を見せるのに 1 分かかります。話しながらなら x60、「導入から覚醒まで一気に」なら x300。
    • 患者プリセットは講義前に。 プレゼン画面には患者設定が出ません(意図的に隠しています)。「高齢者(80歳)」「小児(5歳)」などのプリセットは、プレゼンに入る前に通常モードで選んでおきます。
    • CSDT ボタンは上段にあります。 「今、投与をやめたら何分で Ce が半分になるか」を見せる CSDT の表示は、プレゼン中も上段のボタンで出し入れできます。覚醒の話をするときに便利です。目標 Ce の行は薬剤 1・2 の色で分けてあるので、2 剤を並べても見間違えません。
    • 軸が勝手に動いてほしくないときは「Y自動」を消す。 点灯中は濃度に合わせて軸が伸び縮みしますが、説明の途中で軸が動くと話しづらいことがあります。「Y自動」をもう一度押すと、いまの範囲で両方の軸が固定されます。
    • 2 剤を比べるなら Cp/Ce の表示切替。 レミフェンタニルの線を一時的に消して、プロポフォールだけに注目させる、という使い方ができます。
    • Y 軸は左右別々に動かせます(v0.92)。 左端の軸の数字を上下にドラッグするとプロポフォール側だけ、右端ならレミフェンタニル側だけスケールが変わります。「レミフェンタニルの線が低すぎて見えない」というときに、右の軸を上にドラッグして持ち上げてください。軸をダブルクリックすると自動に戻ります。

    おわりに

    使ってみて、「ここが見にくい」「この操作が欲しい」があれば、ぜひお知らせください。

ZoteroのPDFはどこに置く? 〜無料300MB問題とWebDAVという答え〜

こんにちは、さぬちゃんです。

前回、EndNoteからZoteroへの引っ越しの話を書いた。で、実際にZoteroを使い始めた先生が最初にぶつかる壁がこれだと思う。「ストレージがいっぱいです」

Zoteroの無料枠は300MB。論文PDFは1本1〜5MBあるから、数百本入れたところで天井に当たる。20年分の文献資産を移した先生なら、初回同期の途中で力尽きるはずだ。

今回はこの「PDFの置き場所問題」の解決策を、GoogleDriveやDropboxの活用からWebDAVまで、実際に自分で組んだ体験も含めて整理する。

まず仕組みを知る。Zoteroの同期は二層構造

ここを誤解すると話が混乱するので最初に。Zoteroの同期は2つに分かれている。

中身 無料枠
データ同期 書誌情報(著者・タイトル・雑誌名など) 無制限
ファイル同期 添付PDF 300MB

つまり足りなくなるのはPDFの置き場所だけで、ライブラリの本体(書誌情報)は何万件あっても無料で全端末に同期される。だから解決すべきは「PDFだけをどこか別の場所に逃がす」ことになる。選択肢は3つある。

選択肢1: 素直に課金する

Zotero公式ストレージは2GBで年20ドル、無制限でも年120ドル(価格は変わることがあるので公式サイトで確認を)。設定変更は一切不要、iPhoneアプリも共同研究のグループライブラリもそのまま動く。

時給換算で考えれば、忙しい先生にはこれが正解のことも多い。以下の2つは「それでも払いたくない」「自分の環境に置きたい」人向けの話だ。

選択肢2: GoogleDrive/Dropboxに置く(リンク添付方式)

「Dropboxの容量が余ってるんだけど」という先生向けの方法。ただし先に絶対にやってはいけないことを書いておく。

Zoteroのデータフォルダごと(zotero.sqliteがある場所ごと)DropboxやGoogleDriveに入れてはいけない。 クラウドの同期とデータベースの書き込みが衝突して、ライブラリが壊れる定番事故で、Zotero公式も明確に禁止している。クラウドに置いてよいのはPDFだけだ。

正しいやり方は「リンク添付」を使う。

  1. Dropbox(またはGoogleDrive)内にPDF置き場のフォルダを作る
  2. Zoteroの 設定 → 詳細 → ファイルとフォルダ で「リンク付き添付ファイルの基準ディレクトリ」にそのフォルダを指定
  3. 別のPCでも同じ設定をする(PCごとにDropboxのパスが違っても相対パスで解決される)
  4. 新しく取り込んだPDFを自動でそのフォルダへ移動・リネームしてくれるプラグインを入れる。Zotero 7なら ZotMoov。ネット記事によく出てくるZotFileは旧世代(Zotero 6まで)で開発が止まっているので注意

これで手持ちのクラウド容量がそのままPDF置き場になる。ただし弱点が2つあって、これが結構痛い。

  • iPhoneのZoteroアプリでPDFが開けない(リンク添付はiOS非対応)
  • グループライブラリでは使えない

外来の合間にiPhoneで論文を読む習慣のある先生には、正直おすすめしにくい。

選択肢3: WebDAV方式(今回の本命)

ZoteroはPDFの同期先としてWebDAVサーバーを公式サポートしている。こちらは選択肢2と違ってiPhoneアプリがそのまま対応する。設定も 設定 → 同期 でファイル同期を「Zotero」から「WebDAV」に切り替えて、URLとユーザー名・パスワードを入れるだけ。

問題は肝心のWebDAVサーバーをどこから調達するかで、残念ながらDropboxもGoogleDriveもWebDAVには対応していない。だからこの方式は「WebDAVを喋れる置き場を持っている人」専用になる。具体的には自宅にNASがある人だ。SynologyのNASなら標準パッケージでWebDAVサーバーが入るし、他社のNASでもDockerが動けば数分で立てられる。

やってみた

筆者は自宅のNAS(UGREEN製)にDockerでWebDAVサーバーを立てて、Zoteroを繋いでみた。使ったのはhacdias/webdavという軽量なもので、コンテナを1個起動して、Zotero側にURLとパスワードを入れて「サーバーを確認」を押したら、あっさり通った。作業時間は正味5分ほど。

これでPDFの置き場所はNASの空き容量(うちの場合は31TB)になった。事実上の無制限である。外出先からはTailscaleという自宅VPN経由で同じURLに届くので、病院のiPhoneからも自宅のMacからも、同じ設定で同期される

自宅にサーバーを立てる話になるので万人向けではないが、「NASはもう持っている」という先生には、これが費用ゼロ・容量無制限・iPhone対応と三拍子そろった最適解だと思う。

WebDAV方式の注意点

  • グループライブラリの添付は対象外(そこだけは公式ストレージ扱いのまま)
  • PDFの本体がNASに集まるので、NASのバックアップにそのフォルダを含めること。クラウドと違って、壊れたときに泣くのは自分である

比較まとめ

方式 容量 iPhone 手間 費用
公式ストレージ課金 2GB〜無制限 対応 ゼロ 年20〜120ドル
リンク方式(GDrive/Dropbox) 契約分 非対応 プラグイン設定 実質ゼロ
WebDAV(自宅NAS) NASの空き 対応 サーバー構築 ゼロ

決め方はシンプルで、

  • 手間をかけたくない → 課金
  • クラウド容量が余っていて、PDFはPCでしか読まない → リンク方式
  • NASを持っている(または持ちたい口実を探していた) → WebDAV

でよいと思う。

まとめ

  • Zoteroの無料枠で足りなくなるのはPDFだけ。書誌情報は無制限に同期される
  • データフォルダごとクラウド同期に入れるのは厳禁。壊れます(大事なことなので2回書いた)
  • GoogleDrive/Dropboxを使うならリンク方式+ZotMoov。ただしiPhoneでPDFが開けない
  • WebDAV方式ならiPhone対応のまま容量問題が消える。NAS持ちの先生の最適解

文献のPDFは、キャリアの終わりまで付き合う資産です。置き場所は一度じっくり決めて、あとは忘れて診療と執筆に戻りましょう。

EndNoteの20年分の資産はどうする? 〜Zotero経由でZettlrに連携する話〜

こんにちは、さぬちゃんです。

前回、MarkdownエディタのZettlrを紹介したところ、記事の中で「本気で使うならZotero併用も検討の価値あり」とだけ書いて逃げた部分があった。今回はそこを書きます。ZettlrとZoteroの連携、そしてEndNoteに溜め込んだ文献資産をどう合流させるか、という話。

先に登場人物を整理しておく。

道具 役割 値段
Zettlr 原稿を書く 無料
Zotero 文献を管理する 無料(クラウド容量300MBまで)
EndNote 文献を管理する(既存資産) 有料

つまりZoteroはEndNoteの同業者だ。「文献管理ソフトを2つ持ってどうする」と思うかもしれないが、ZettlrとEndNoteを直結するより、間にZoteroを挟んだ方が圧倒的に快適になる。その理由を書いておく。

なぜZettlrの相方はZoteroなのか

前回書いたとおり、EndNoteからBibTeX書き出しでZettlrに繋ぐことは一応できる。ただし、この方法では、文献を追加するたびに手動で書き出し直しが必要で、引用キーも RN123 という感じで今一つピンと来ない。

Zoteroには Better BibTeX という定番プラグインがあり、これが2つの問題を同時に解決する。

1.書き出しが自動になる
Better BibTeXの書き出し画面には「Keep updated(更新を維持)」というチェックボックスがある。これを入れて一度書き出せば、以後Zoteroに文献を追加・修正するたびに、書き出したファイルが勝手に最新になる。Zettlr側は何もしなくても、@ を打てば昨日PubMedで見つけた論文が補完候補に出てくる。

2.引用キーが読みやすくなる
キーが Smith2020 のような形式で自動生成される。原稿を後から読み返したとき、[@RN4821][@Smith2020] のどちらが自分に優しいかは言うまでもない。

設定手順(15分コース)

  1. zotero.org からZotero本体をインストール
  2. Better BibTeX のサイトから .xpi ファイルを入手し、Zoteroの ツール → プラグイン からインストール
  3. ライブラリを右クリック → 「ライブラリを書き出し」 → 形式は Better CSL JSON を選び、「Keep updated」にチェックを入れて保存
  4. Zettlrの環境設定(引用機能)で、いま保存したファイルを文献データベースに指定

これで配管工事は終わり。あとはZoteroに文献を放り込むだけで、Zettlrの補完に流れてくる。

Zoteroならではのおまけが2つ

ブラウザ拡張の Zotero Connector を入れると、PubMedや各ジャーナルのページを開いた状態でボタンを1回押すだけで、書誌情報がPDFごとZoteroに入る。EndNoteのインポートフィルタと格闘していた時代を思うと、拍子抜けするほど簡単だ。

もうひとつ、地味に医学系で効くのが撤回論文の警告。ZoteroはRetraction Watchのデータベースと照合して、ライブラリ内の論文が撤回されると赤い警告を出してくれる。引用しようとした論文が実は撤回済みだった、という事故を管理ソフト側で防いでくれるのは心強い。

全体の流れはこうなる。

PubMed →(Connectorで1クリック)→ Zotero →(Better BibTeXが自動書き出し)→ Zettlrで執筆 →(Pandoc+CSLスタイル)→ Word/PDF

EndNote→Zoteroの引っ越し

では本題の、EndNoteに溜まった資産の移し方。基本は「EndNoteからXMLで書き出し、Zoteroにインポートする」だけだ。

  1. 先にEndNoteライブラリのバックアップを取る(圧縮ライブラリ .enlx で保存しておく)
  2. EndNoteで移したい文献を選択(全件なら全選択)
  3. File → Export で、出力形式に XML を選んで書き出し
  4. Zoteroの File → インポート で、そのXMLを指定

書誌情報はこれでほぼ問題なく移る。添付PDFも、EndNoteライブラリの .Data フォルダが手元にある状態でエクスポートすれば一緒に取り込まれる(数千件あると相応に時間がかかるので、夜に仕掛けるのが吉)。

引っ越しの注意点

  • グループ構造は運ばれない
     EndNoteのXML書き出しは、せっかく整理したグループ分けを持っていってくれない。フォルダ構造を保ちたければ、グループごとに個別にXML書き出しして、Zotero側で対応するコレクションを作ってから順にインポートする。面倒だが一度きりの作業だ
  • 重複に注意
    何度かに分けてインポートすると同じ文献が重複しやすい。Zoteroには「重複アイテム」ビューがあり、統合ボタンでまとめられるので、引っ越し後に一度掃除しておく
  • クラウド容量
    Zoteroの無料同期は300MBまで。PDFを数千本同期するなら有料プラン(それでも年数十ドル)か、PDFはローカル運用と割り切るかを決めておく(管理人はローカル運用を選択→別記事に解説したい)

逆方向(Zotero→EndNote)と、共著者問題

逆にZoteroからEndNoteへ戻したいときは、Zoteroで書き出し形式に RIS を選び、EndNote側でインポートすればよい。書誌情報は問題なく往復できる。ただし添付ファイルまできれいに戻るかは環境依存の面があるので、「メタデータは往復可、PDFは片道と思っておく」くらいが安全だ。

そして現実問題として一番大きいのが共著者だ。最終稿を「Word+EndNoteで直す」文化圏の共著者がいる限り、EndNoteを完全に捨てるのは難しい。

筆者のおすすめの落とし所は次の3パターン

パターン 文献の親分 向いている人
A: 現状維持 EndNote Markdownに興味が湧かなかった先生
B: 併用 EndNote(執筆前にXML→Zoteroへ都度輸入) EndNote文化圏の共同研究が多い先生
C: 移行 Zotero(EndNoteは最終Word工程専用に休眠) 筆頭・単著が多く、これから資産を作る先生

Bは一見よさそうだが、2つのライブラリの二重管理は必ずどこかで破綻する(経験者は語る)。長い目で見るなら、思い切ってCに寄せて、EndNoteは「共著者との最終ラウンド専用機」とするのが、精神衛生上いちばん良いと思う(個人的見解)。

まとめ

  • Zettlrの文献供給役はZotero+Better BibTeXが本命。「Keep updated」で書き出しが全自動になり、引用キーも読みやすくなる
  • EndNote→ZoteroはXML書き出しで引っ越せる。グループ構造だけは手作業、重複掃除も忘れずに
  • 逆方向はRISで往復可。ただしPDFは過信しない
  • EndNoteは捨てなくていい。役割を「最終Word工程」に限定して共存させるのが現実解

文献管理ソフトの引っ越しは、机の引っ越しと同じで、やる前が一番億劫でやってしまえば案外あっけない。連休あたりに、バックアップを取ってからいかが

WordとEndNoteの呪縛から少しだけ自由になる 〜Zettlrという選択肢〜

こんにちは、さぬちゃんです。

論文の下書き、何で書いていますか。おそらくほとんどの先生が「最初からWord+EndNote」ではないだろうか。管理人もずっとそうだった。ただ、Wordで書いていると、書いている時間より「直されている」時間の方が長く感じることがある。勝手にインデントが下がる。箇条書きが暴走する。図を1枚動かしただけでレイアウトが崩壊する。本文を練りたいだけなのに、体裁との格闘に体力を持っていかれる。

そこで今回は、Zettlr(ゼットラー) というMarkdownエディタを紹介したい。「研究者のために作られたMarkdownエディタ」という立ち位置がはっきりしていて、無料・オープンソース。Mac/Windows/Linuxで動く。作者自身が社会科学系の研究者で、「論文を書く人間が何に困るか」をわかって作っているのが端々から伝わってくる。

Markdownなのに「素のテキスト」に見えない

Markdownと聞くと、# 見出し とか **太字** とかの記号だらけの画面を想像して敬遠する先生もいると思う。Zettlrの画面はそうならない。

見出しを書けば見出しの大きさで表示され、太字は太字に、画像はその場でプレビューされ、数式もきれいに組まれて表示される。一見するとWordのようなWYSIWYGに見える。

ただし厳密にはWYSIWYGではなく、WYSIWYM(What You See Is What You Mean) と呼ばれる方式だ。カーソルをその行に置くと ## 考察 のような元の記法がすっと現れ、カーソルを離すと整形された見た目に戻る。つまり「普段は清書、触ると原稿」という二重構造になっている。

これが実に良い感じで、

  • 見た目はWord並みに読みやすい
  • でも実体はただのテキストなので、Wordのような「おせっかい」が一切ない
  • 崩れるレイアウトがそもそも存在しない

いいとこ取りである。表についてはMarkdown最大の弱点(手書きすると地獄)を、マウスでセルを編集できる表エディタでカバーしているのも秀逸だ。

引用文献が「打ちながら」入る

さて、医学論文で本命になるのは引用文献の扱いだ。Zettlrには文献引用機能が最初から組み込まれている。

仕組みはこうだ。文献データベースのファイル(.bibやCSL JSON)をZettlrに登録しておくと、本文中で @ を打った瞬間に文献の候補がずらっと出る。著者名の一部を打てば絞り込まれ、Enterで [@RN123] のような引用キーが入る。画面上では (Smith et al., 2020) のように整形された状態でプレビューされるので、記号の羅列にはならない。

そして書き上がったら、内蔵のPandocでWordファイルやPDFに書き出す。このとき投稿先ジャーナルの引用スタイル(CSLファイル。Zotero Style Repositoryに数千種類ある)を指定すれば、本文中の引用も文末の文献リストも、そのスタイルで自動整形されて出てくる。Vancouver形式の番号振り直しに怯える日々とはお別れである。

EndNoteユーザーはどうするか

「文献はEndNoteに20年分入っている」という先生、多いと思う。EndNoteからZettlrへの橋は一応架かっている。

  1. EndNoteで出力スタイルから BibTeX Export を選ぶ
  2. File → Export でライブラリを書き出し、拡張子を .bib にする
  3. Zettlrの環境設定で、その .bib を文献データベースとして指定する

これだけで、EndNoteの蔵書がZettlrの @ 補完に出てくるようになる。

ただし、注意点が3つある。

  • 引用キーが素っ気ない
    EndNoteのBibTeX出力はキーが RN123(レコード番号)になる。Smith2020 のような人間に優しいキーにはならないが、補完で選ぶ分には実害は少ない
  • 同期は一方通行
    EndNoteに文献を追加したら、.bibを書き出し直す必要がある。ここが自動化されないのがEndNote連携の泣きどころで、実はZotero+Better BibTeXの組み合わせだと自動同期になる。Zettlrを本気で使うならZotero併用も検討の価値あり
  • Wordに書き出した引用は「文字」になる
    EndNoteのフィールド(灰色のやつ)ではないので、Word上でEndNoteによる差し替えはできない。修正はZettlr側でやって出力し直す、が基本動作になる

3つ目が困る場面、つまり「最終版は共著者がWord+EndNoteで直す」という現実的な事情には、裏ワザめいた迂回路もある。本文中にEndNoteの一時引用形式 {Smith, 2020 #123} をそのまま書いておき、Wordに書き出してからEndNoteの Update Citations and Bibliography をかけると、EndNoteが引用として拾ってくれる。これは、お使いのEndNoteのバージョンで一度小さな原稿で試してから本番投入してほしい。

論文以外にも効く

Zettlrはもともとツェッテルカステン(カード式のメモ術)支援ツールでもあるので、[[リンク]] でノート同士を繋いだり、タグで横串を通したり、フォルダ横断の全文検索をしたりが速い。抄読会メモ、講義原稿、学会スライドの下書きあたりまで一式この中で完結できる。ダークモード、タイプライターモード(いま書いている行が常に画面中央に来る)、集中モードもある。

弱点も書いておく

  • Electron製なので、軽快とは言い難い場面がある
  • 日本語UIはあるが、ドキュメント類は英語が中心
  • 共同執筆の「変更履歴つきWordファイルの往復」文化とは根本的に相性が悪い。これはZettlrの罪ではなくMarkdown全般の宿命

なので筆者のおすすめは「初稿から投稿直前までをZettlr、最後の共著者ラウンドからWord」という分業だ。一番消耗する執筆フェーズだけでも、レイアウトと戦わない環境に逃がす価値は十分ある。

まとめ

  • Zettlrは無料・オープンソースの研究者向けMarkdownエディタ
  • WYSIWYMなので、Markdownの気楽さとWord並みの見やすさが両立する
  • 文献は @ 補完で挿入、CSLスタイルで引用も文献リストも自動整形
  • EndNoteとはBibTeX書き出しで連携できるが、同期は手動。本気運用ならZotero+Better BibTeXが上
  • 最後の仕上げはWordに譲るのが現実解

Wordと喧嘩せずに文章だけ書ける時間は、思った以上に快適です。

まずは症例報告あたりで、お試しあれ。

名前を変えたら、少し見え方が変わった話 — TIVAinSight のこと

長らく「TIVA PK/PD Web Simulator」という、説明としては正しいが呼びにくい名前で公開してきたシミュレーターに、このたび新しい名前をつけた。TIVAinSight。insight(洞察)と「TIVAが見える」をかけている。名前を考えるのに費やした時間は、正直、機能をひとつ実装するより長かったかもしれない。しかし道具に名前がつくと、不思議と自分の中での扱いも変わる。「あのシミュレーター」ではなく「TIVAinSight」と呼べるだけで、人に薦めやすくなった。

中身も名前だけの改装ではない。v0.90 では、日々さわっていて地味に面倒だった部分を手当てした。患者プリセットで「成人男性」「成人女性」などをワンタップ入力できるようにし、よく使う目標濃度はクイックチップで即座に呼び出せる。「2 mg/kg」と入れれば体重から自動計算する換算チップも付けた。前回の設定はブラウザが覚えていてくれる。どれも派手さはないが、シミュレーターというのは結局、入力が億劫だと使われなくなる。教育用の道具こそ、立ち上げて10秒で動かせることが大事だと思っている。

ところで、この 0.90 という数字である。これは機能の完成度というより、自分の満足度をあらわしている。つまり、1.0 まであと一歩、ということだ。足りない 0.10 は何かといえば、中身ではなくインターフェースや使い勝手の部分。薬物動態計算のエンジンやモデルの実装そのものは、すでに 1.0 と呼んでも問題ないと思っている。ただ、道具として「誰に渡しても迷わず使える」ところまでもう少し磨きたい。その自己採点が 0.90 である。

対応薬剤はプロポフォール、レミフェンタニル、フェンタニル、レミマゾラムで、モデルは計17種。3-コンパートメント+効果部位モデルで血漿濃度と効果部位濃度を並べて表示し、投与速度・目標濃度・効果部位濃度の3モード、2系統同時のシミュレーションができる。ブラウザだけで完結するのでインストール不要、iPhone でも手術室の隅の古い Windows でも動く。通信が制限された環境向けにオフライン版の ZIP も用意した。表示は日本語と英語をブラウザ言語で自動判定するので、留学生や海外の同僚にそのまま渡せる。

ひとつだけ念を押しておくと、これは教育・研究目的専用である。画面の中の濃度曲線はあくまでモデルの計算結果であって、目の前の患者さんの体の中ではない。むしろ「モデルと実際はどうずれるのか」を考える入口として使ってもらえたら、名前に込めた insight の面目躍如というものだ。

詳しい機能紹介とリンクはこちらの記事にまとめてある。

TIVAinSight v0.90 リリース
▶ オンライン版: https://msanuki.com/tivainsight/

若い先生の「なぜ効果部位濃度は遅れて上がるのか」という質問に、口で説明するより曲線を一本見せるほうが早い場面は多い。そういうときのツールとして、使ってみて欲しいm(__)m