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さぬちゃんの麻酔科医生活


チバ類

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ミズチバの話題が再燃している。ミズチバとは、アルチバ(レミフェンタニル)を溶解するのを忘れて、溶解液のみを注射器に詰めて用意することをさす。

アルチバの入った注射器であると思っていたら溶解液だけだったという場合、すなわち、水をアルチバと思って投与することから作られた造語である。これは、全国区の言葉である。

これと同様の造語に、ユカチバがある。ユカチバはアルチバの注射器をシリンジポンプにセットして、輸液ラインに接続し忘れてポンプのスタートボタン押したときに床にポタポタと落ちる様を表す言葉である。また、アルチバを溶解した後に、注射器内の空気を取り除こうとして勢い余って床にアルチバがこぼれて様子を表すこともある。

https://www.medica.co.jp/topcontents/pdf/sanuchan/vol01.pdf

 

それ以外に、

ウスチバ、ユルチバ、トメチバ、ヤメチバ、ウソチバ、カラチバなどの言葉も使われている。

ウスチバというのもある。これは意図的に行われることが多い。アルチバを溶かす際に、こぼしてしまったため、さらに溶解液で希釈してシリンジポンプにセットしている状態を指す。これは、「今日のアルチバは効きにくい」と指導医が言葉を発したときに、希釈した者がその真相を明かさなければ決してばれない。希釈現場を目撃されている場合は、話は別である。

ユルチバもユカチバと同様の意味だが、シリンジとエクステンションチューブあるいは輸液ルートとの接続が緩んでいて、アルチバが漏れている状態を指す。ロックつきでない注射器にエクステンションチューブを使用していると起こりやすいが、ロック付きを使っていてもきちんと閉めないとおきることがある。

トメチバというのは、エクステンションにクランプがついているモノや3方活栓を使っている場合に起こりうる。クランプをはずさすに注入を開始するか3方活栓を開けずに注入を開始した場合に起きる。この場合には、シリンジポンプのアラームが鳴って気づく。また、アルチバの効果が強く出て、シリンジポンプを一時停止した場合に、止めていたことを忘れている場合にも使う言葉である。シリンジポンプは、2分間停止しているとアラームが鳴るのであるが、たまたま、そのとき周りが騒々しくて音が聞こえない場合、さらに長時間停止していることに気づかないこともある。

ウソチバというのは、ガンマ計算(管理人はガンマは口語であると思うのだが、テルモのシリンジポンプには堂々と表記してある。)つきのポンプで投与した場合、1mg/mlの希釈数値以外、あるいは体重kgを誤って入れた場合に起きる投与速度の誤りである。たとえば、体重80kgを8kgと入力した場合、投与速度はガンマの値を信用して入力すれば1/10の投与速度になってしまう。

カラチバというのは、ミズチバとと同じ意味を表すこともあるが、別の意味もある。シリンジ混入した空気をきちんと追い出さずにポンプにセットした場合、最後は空気を押していることになる。大抵はエクステンションチューブ内で空気は止まるので患者には入らないが、その後が問題である。次のアルチバをセットするときに、エクステンション内の空気を抜くのに時間がかかり、手間取ることが多い。ご存じの通り、アルチバの半減期は短いため、すぐに血中濃度が下がっていく。ぎりぎりの濃度で麻酔をしている場合には、慌てることになる。トラブルが起きるからといって不必要に高濃度で行うのも問題ではあるが。。。。

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さらに

コイチバ、ハヤチバ、オオチバ、コチバ、ギザチバ、ナイチバ、ヤメチバなど

もつかわれている。

コイチバというのは、思いがけず一本の注射器に2本のアルチバを溶かしてしまうことをさす。よくあるのは、一本しているときに、誰かに話しかけられてもう一本希釈してしまう状況である。また、意図的に通常(100μg/mL)の2倍の濃度にする場合にも使われる。「これ、コイチバだからいつもの半分の速度で投与しています」などとつかう。

オオチバというのは、意味が2つある。ひとつはアルチバの投与速度が速いことをさし、「それ、オオチバじゃない?」という。この場合には、ハヤチバともいう。「それ、ハヤチバだろう。そんなにいる?」などとつかう。もう一つの意味は、大きいアルチバ=5mgのアルチバをさす言葉である。「うちのはオオチバだから、50ccに希釈してね」などとつかう。この意味で使われる言葉にデカチバもある。

コチバというのは、オオチバの反対で2mgのアルチバのことである。チビチバともいう。

ギザチバというのは、アルチバの速度を頻回に変更して使っていることを言う。血圧が上がればアルチバの投与速度を上げ、血圧が下がればアルチバの投与速度を下げるような状況が延々と続いていることを示す言葉である。どちらかというとアルチバの使い方が下手なことを意味する。

ナイチバというのは、全身麻酔を覚醒させる際にアルチバの血中濃度(効果部位濃度)をゼロにする(効果が無視できるほど下げる)ことをいう。「はやめにナイチバにして、呼吸をだしてから覚醒させなさい」などと使う。この場合、早めにやめることを指してヤメチバともいう。

 

いろいろ、チバ類を紹介したが、ミズチバは麻酔科医には最も恐れられているものである。

ミズチバをひきおこすと、とても不幸な結果となるため、予防が大切であることは言うまでもない。

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