こんにちは、さぬちゃんです。
前回、EndNoteからZoteroへの引っ越しの話を書いた。で、実際にZoteroを使い始めた先生が最初にぶつかる壁がこれだと思う。「ストレージがいっぱいです」。
Zoteroの無料枠は300MB。論文PDFは1本1〜5MBあるから、数百本入れたところで天井に当たる。20年分の文献資産を移した先生なら、初回同期の途中で力尽きるはずだ。
今回はこの「PDFの置き場所問題」の解決策を、GoogleDriveやDropboxの活用からWebDAVまで、実際に自分で組んだ体験も含めて整理する。
まず仕組みを知る。Zoteroの同期は二層構造
ここを誤解すると話が混乱するので最初に。Zoteroの同期は2つに分かれている。
| 層 | 中身 | 無料枠 |
|---|---|---|
| データ同期 | 書誌情報(著者・タイトル・雑誌名など) | 無制限 |
| ファイル同期 | 添付PDF | 300MB |
つまり足りなくなるのはPDFの置き場所だけで、ライブラリの本体(書誌情報)は何万件あっても無料で全端末に同期される。だから解決すべきは「PDFだけをどこか別の場所に逃がす」ことになる。選択肢は3つある。
選択肢1: 素直に課金する
Zotero公式ストレージは2GBで年20ドル、無制限でも年120ドル(価格は変わることがあるので公式サイトで確認を)。設定変更は一切不要、iPhoneアプリも共同研究のグループライブラリもそのまま動く。
時給換算で考えれば、忙しい先生にはこれが正解のことも多い。以下の2つは「それでも払いたくない」「自分の環境に置きたい」人向けの話だ。
選択肢2: GoogleDrive/Dropboxに置く(リンク添付方式)
「Dropboxの容量が余ってるんだけど」という先生向けの方法。ただし先に絶対にやってはいけないことを書いておく。
Zoteroのデータフォルダごと(zotero.sqliteがある場所ごと)DropboxやGoogleDriveに入れてはいけない。 クラウドの同期とデータベースの書き込みが衝突して、ライブラリが壊れる定番事故で、Zotero公式も明確に禁止している。クラウドに置いてよいのはPDFだけだ。
正しいやり方は「リンク添付」を使う。
- Dropbox(またはGoogleDrive)内にPDF置き場のフォルダを作る
- Zoteroの 設定 → 詳細 → ファイルとフォルダ で「リンク付き添付ファイルの基準ディレクトリ」にそのフォルダを指定
- 別のPCでも同じ設定をする(PCごとにDropboxのパスが違っても相対パスで解決される)
- 新しく取り込んだPDFを自動でそのフォルダへ移動・リネームしてくれるプラグインを入れる。Zotero 7なら ZotMoov。ネット記事によく出てくるZotFileは旧世代(Zotero 6まで)で開発が止まっているので注意
これで手持ちのクラウド容量がそのままPDF置き場になる。ただし弱点が2つあって、これが結構痛い。
- iPhoneのZoteroアプリでPDFが開けない(リンク添付はiOS非対応)
- グループライブラリでは使えない
外来の合間にiPhoneで論文を読む習慣のある先生には、正直おすすめしにくい。
選択肢3: WebDAV方式(今回の本命)
ZoteroはPDFの同期先としてWebDAVサーバーを公式サポートしている。こちらは選択肢2と違ってiPhoneアプリがそのまま対応する。設定も 設定 → 同期 でファイル同期を「Zotero」から「WebDAV」に切り替えて、URLとユーザー名・パスワードを入れるだけ。
問題は肝心のWebDAVサーバーをどこから調達するかで、残念ながらDropboxもGoogleDriveもWebDAVには対応していない。だからこの方式は「WebDAVを喋れる置き場を持っている人」専用になる。具体的には自宅にNASがある人だ。SynologyのNASなら標準パッケージでWebDAVサーバーが入るし、他社のNASでもDockerが動けば数分で立てられる。
やってみた
筆者は自宅のNAS(UGREEN製)にDockerでWebDAVサーバーを立てて、Zoteroを繋いでみた。使ったのはhacdias/webdavという軽量なもので、コンテナを1個起動して、Zotero側にURLとパスワードを入れて「サーバーを確認」を押したら、あっさり通った。作業時間は正味5分ほど。
これでPDFの置き場所はNASの空き容量(うちの場合は31TB)になった。事実上の無制限である。外出先からはTailscaleという自宅VPN経由で同じURLに届くので、病院のiPhoneからも自宅のMacからも、同じ設定で同期される。
自宅にサーバーを立てる話になるので万人向けではないが、「NASはもう持っている」という先生には、これが費用ゼロ・容量無制限・iPhone対応と三拍子そろった最適解だと思う。
WebDAV方式の注意点
- グループライブラリの添付は対象外(そこだけは公式ストレージ扱いのまま)
- PDFの本体がNASに集まるので、NASのバックアップにそのフォルダを含めること。クラウドと違って、壊れたときに泣くのは自分である
比較まとめ
| 方式 | 容量 | iPhone | 手間 | 費用 |
|---|---|---|---|---|
| 公式ストレージ課金 | 2GB〜無制限 | 対応 | ゼロ | 年20〜120ドル |
| リンク方式(GDrive/Dropbox) | 契約分 | 非対応 | プラグイン設定 | 実質ゼロ |
| WebDAV(自宅NAS) | NASの空き | 対応 | サーバー構築 | ゼロ |
決め方はシンプルで、
- 手間をかけたくない → 課金
- クラウド容量が余っていて、PDFはPCでしか読まない → リンク方式
- NASを持っている(または持ちたい口実を探していた) → WebDAV
でよいと思う。
まとめ
- Zoteroの無料枠で足りなくなるのはPDFだけ。書誌情報は無制限に同期される
- データフォルダごとクラウド同期に入れるのは厳禁。壊れます(大事なことなので2回書いた)
- GoogleDrive/Dropboxを使うならリンク方式+ZotMoov。ただしiPhoneでPDFが開けない
- WebDAV方式ならiPhone対応のまま容量問題が消える。NAS持ちの先生の最適解
文献のPDFは、キャリアの終わりまで付き合う資産です。置き場所は一度じっくり決めて、あとは忘れて診療と執筆に戻りましょう。