長らく「TIVA PK/PD Web Simulator」という、説明としては正しいが呼びにくい名前で公開してきたシミュレーターに、このたび新しい名前をつけた。TIVAinSight。insight(洞察)と「TIVAが見える」をかけている。名前を考えるのに費やした時間は、正直、機能をひとつ実装するより長かったかもしれない。しかし道具に名前がつくと、不思議と自分の中での扱いも変わる。「あのシミュレーター」ではなく「TIVAinSight」と呼べるだけで、人に薦めやすくなった。
中身も名前だけの改装ではない。v0.90 では、日々さわっていて地味に面倒だった部分を手当てした。患者プリセットで「成人男性」「成人女性」などをワンタップ入力できるようにし、よく使う目標濃度はクイックチップで即座に呼び出せる。「2 mg/kg」と入れれば体重から自動計算する換算チップも付けた。前回の設定はブラウザが覚えていてくれる。どれも派手さはないが、シミュレーターというのは結局、入力が億劫だと使われなくなる。教育用の道具こそ、立ち上げて10秒で動かせることが大事だと思っている。
ところで、この 0.90 という数字である。これは機能の完成度というより、自分の満足度をあらわしている。つまり、1.0 まであと一歩、ということだ。足りない 0.10 は何かといえば、中身ではなくインターフェースや使い勝手の部分。薬物動態計算のエンジンやモデルの実装そのものは、すでに 1.0 と呼んでも問題ないと思っている。ただ、道具として「誰に渡しても迷わず使える」ところまでもう少し磨きたい。その自己採点が 0.90 である。
対応薬剤はプロポフォール、レミフェンタニル、フェンタニル、レミマゾラムで、モデルは計17種。3-コンパートメント+効果部位モデルで血漿濃度と効果部位濃度を並べて表示し、投与速度・目標濃度・効果部位濃度の3モード、2系統同時のシミュレーションができる。ブラウザだけで完結するのでインストール不要、iPhone でも手術室の隅の古い Windows でも動く。通信が制限された環境向けにオフライン版の ZIP も用意した。表示は日本語と英語をブラウザ言語で自動判定するので、留学生や海外の同僚にそのまま渡せる。
ひとつだけ念を押しておくと、これは教育・研究目的専用である。画面の中の濃度曲線はあくまでモデルの計算結果であって、目の前の患者さんの体の中ではない。むしろ「モデルと実際はどうずれるのか」を考える入口として使ってもらえたら、名前に込めた insight の面目躍如というものだ。
詳しい機能紹介とリンクはこちらの記事にまとめてある。
▶ TIVAinSight v0.90 リリース
▶ オンライン版: https://msanuki.com/tivainsight/
若い先生の「なぜ効果部位濃度は遅れて上がるのか」という質問に、口で説明するより曲線を一本見せるほうが早い場面は多い。そういうときのツールとして、使ってみて欲しいm(__)m