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さぬちゃんの麻酔科医生活

「深鎮静は特定看護師がやっても算定できる」は誤りです

この記事の結論

深鎮静を「行う」のは医師です。特定行為研修を修了した看護師が深鎮静を行っても、L007は算定できません。

 

こんにちは、さぬちゃんです。

先日、こんな話を耳にしました。「今度の改定で、深鎮静の点数は特定看護師がやった場合も算定できるようになったらしいですよ」。

……なりません。

令和8年度改定でL007(深鎮静)が新設されて、条文が読みにくくなっているのは確かです。サクッと整理しておきます。

結論

  • L007の4区分すべてで、実施主体は医師(麻酔科標榜医または担当医師)
  • 通知が看護師に認めているのは「担当医師が実施する一部の行為」だけ
  • 深鎮静の前後の診察も医師の行為。看護師には代われません
  • ちなみに「特定看護師」という資格は法令上ありませんあるのは「特定行為研修を修了した看護師」です

誤解のもとは、たぶんこの一文

L007「2」(1,700点)の留意事項通知(5)ウに、こうあります。

 
通知(5)ウ

担当医師が実施する一部の行為を、麻酔中の患者の看護に係る適切な研修を修了した常勤看護師が実施しても差し支えないものとする。

ここだけ読むと「看護師がやってもいいのか」と思ってしまう。でも、同じ通知の(5)アを先に読んでください。

 
通知(5)ア

……担当医師又は当該保険医療機関の常勤の麻酔科標榜医が、深鎮静前後の診察を行い、担当医師が、深鎮静を行うこと。

「担当医師が、深鎮静を行うこと」。これが算定の入り口です。ここを満たさないと、その先の「一部の行為は看護師でも可」という話にそもそも到達しません

順番でいうと、こうです。

  1. 担当医師が深鎮静を行う ← 必須
  2. そのうちの一部の行為を、研修修了看護師が担ってもよい ← オプション

2だけ取り出して読んでしまうと、話がひっくり返ります。

4区分、ぜんぶ主語は「医師」

区分 点数 深鎮静を「行う」のは
1 麻酔に従事する医師が専従で実施 2,600点 麻酔科標榜医
2 麻酔に従事する医師の指導下で麻酔を専従で実施 1,700点 担当医師
3 麻酔を専従で実施 900点 担当医師
4 1〜3以外 600点 医師

右端の列、全部「医師」です。看護師が入る余地はありません。

よく聞かれるのが「3」の読み方。「専従で実施する場合」とあるだけなので、麻酔科医でなくてもいいのでは? という質問です。通知(6)にこう書いてあります。

 
通知(6)

「3」は、担当医師が、深鎮静前後の診察を行い、深鎮静を行った場合に算定する。

麻酔科標榜医でなくてもよいが、医師でなくてよいとは書いていない。「専従」は専念という意味であって、職種要件の緩和ではありません。

「隣接する部屋」でいいのは、L007「2」だけ

  標榜医はどこにいるか
全身麻酔+麻酔管理料(Ⅰ)(Ⅱ) 同室内
深鎮静 L007「1」 同室内
深鎮静 L007「2」 同室又は隣接する部屋

「隣接する部屋」が認められるのはL007「2」だけです。深鎮静は内視鏡室や血管造影室など手術室外で行われることが多いので、そこに合わせた最低限の緩和だと理解しています。

 
全身麻酔に持ち込まないこと

手術部での全身麻酔+麻酔管理料(Ⅰ)(Ⅱ)は同室内が要件です。「隣の手術室にいたから大丈夫」は通りません。→ 全身麻酔の維持と麻酔科標榜医の所在

「同じ手術部内ならいいのでは?」

これもよく出る疑問ですが、成り立ちません

通知は「隣接する部屋」と書いていて、「同一の手術部内」とは書いていない。区画単位で足りるなら、そう書けばよかったはずです。

20室ある手術部で、患者が第3手術室にいるとして——

  • 標榜医が第2または第4手術室(壁を共有する隣室)→ 隣接と言えます
  • 標榜医が第18手術室→ 同じ手術部内ですが、隣接ではありません
  • 標榜医が手術部内の医局や仮眠室→ その部屋が隣接していれば可、離れていれば不可

判定基準は区画の帰属ではなく、患者のいる部屋の隣かどうかです。

 
定義はありません

「隣接する部屋」の定義は、告示にも施設基準にも疑義解釈にもありません。文言を読んで判断するしかないのが現状です。グレーな配置なら地方厚生局に個別照会をすべきです。

離れた場所からのリモート監視は、まず認められないと考えたほうがいいでしょう。この要件が守ろうとしているのは、呼ばれてから患者のそばに到達するまでの時間ですから。

60年前から、実は変わっていない

そもそも「麻酔行為は医行為である」ことは、昭和40年7月1日の厚生省医事課長通知(医事第48号)ではっきり示されています。

 
医事第48号(昭和40年7月1日)

看護師が、診療の補助の範囲を超えて、業として麻酔行為を行うことは、医師法違反になる

診療報酬の通知は、医行為の範囲を広げる文書ではありません。 点数表が「やっていい」と言っているように読めても、それは医師法・保助看法の枠の内側での話です。

なお日本麻酔科学会のFAQも、術前診察は麻酔管理料(Ⅱ)でいう「麻酔を担当する医師の一部の行為」に含まれないので、算定には麻酔科標榜医または担当麻酔科医の診察が必要、と明言しています。診察は代われないのです。

現場でのチェックポイント

深鎮静を「行った」のは医師か。麻酔記録の実施者欄が看護師名だけになっていないか

前後の診察を行ったのも医師か(前診察は緊急時を除き実施日以外に)

「1」なら麻酔管理料(Ⅰ)、「2」なら麻酔管理料(Ⅱ)の届出があるか

主要な麻酔手技の時刻に、標榜医がどの部屋にいたかを記録から説明できるか。「手術部内にいた」ではなく部屋を特定して

20分以上か(20分未満はL001)

呼吸心拍監視・SpO2・EtCO2・深部体温は所定点数に含まれる。別に算定していないか

まとめ

新設区分は名前も番号も紛らわしいです。旧L007「開放点滴式全身麻酔」は廃止されて中身はL001に統合、番号は同じでもまったくの別物ですから、なおさらです。

だからこそ、告示と留意事項通知を自分の目で読むしかありません。SNSの要約や勉強会の伝聞で運用を決めると、返戻や自主返還だけでは済まない話になりかねません。

そして実施主体を取り違えていたとすれば、それは算定誤りにとどまらず、医療安全の問題です。深鎮静で気道が落ちたとき、必要なのはモニター越しの助言ではなく、その場で手を動かせる医師ですから。


※本記事は、令和8年3月5日 保医発0305第6号(別添1・医科点数表 第2章第11部第1節 L007)、および日本麻酔科学会『麻酔関連業務における特定行為研修修了看護師の安全管理指針』とそのFAQをもとに、さぬちゃんが噛みくだいて整理したものです。個別の算定可否は地方厚生局へご確認ください。

 

参考リンク