血圧がスーッと下がった。手が伸びる先は、いつものエフェドリン? ネオシネジン?
……ちょっと待った!
昇圧薬って、名前と番号(何mg入れるか)だけを丸暗記しても、いざ本番で「あれ、この場面どっち使うんだっけ」となりがちなんです。研修医あるあるです。
そこで今日は、昇圧薬を 「身分・階級」 に、受容体を 「肩書き」 に見立てて、頭を整理しましょう。
昇圧薬 ...まず身分の全体像
細かい話に入る前に、今日の登場人物を「身分の低い順」に並べておきます。この序列が頭に入っているだけで、記事がグッと読みやすくなります。
| 位 | 身分・階級 | 薬剤 |
|---|---|---|
| 👑 | 王様 | アドレナリン |
| 🤴 | プリンス(皇太子) | ノルアドレナリン |
| 🎩 | 上級貴族 | ドブタミン |
| 🎩 | 下級貴族 | ドパミン |
| 🧑🌾 | 平民 | エフェドリン/フェニレフリン |
| 🥷 | 別ルートの助っ人 | バソプレシン |
平民から順に出世していって、最後に「王様」と、王家とは別ルートを歩む「助っ人」が控えている、というイメージですね。
まずは「肩書き」= 受容体を覚えよう
薬剤の擬人化の前に、彼らが名乗る「肩書き」を押さえます。受容体は、それぞれ担当業務がハッキリ分かれた"係"だと思ってください。
- α₁ 受容体 = 「血管を締める係」 末梢血管をギュッと絞って体血管抵抗(SVR)を上げる=血圧(圧)が上がる
- β₁ 受容体 = 「心臓に鞭を入れる係」 心拍数を上げ、心収縮力を強める=心拍出量(流れ)が増える
- β₂ 受容体 = 「血管をゆるめ、気道を開く係」 骨格筋の動脈を広げて血圧はむしろ下げる方向、同時に気管支を広げる
- V₁ 受容体 = 「カテコラミン非依存の血管締め係」 アシドーシス(酸性環境)でもへこたれず、カテコラミンとは"別ルート"で強力に血管を締める
この4つの係さえ覚えれば、あとはどの薬がどの係に強いかだけです。
昇圧薬か、強心薬か ―― そもそもの分かれ道
もうひとつ、出発点になる大前提。
- 昇圧薬(Vasopressor):血管を締めて 血圧(=圧) を上げる薬
- 強心薬(Inotrope):心臓のポンプ機能を高めて 心拍出量(=流れ) を増やす薬
低血圧を見たとき、「圧が足りないのか、流れが弱っているのか」。
ここを見極めるのが薬剤選択のスタート地点。
ここを間違えると、「血圧を上げたいのに強心薬だけ入れて逆に下がった」なんてことも起きます(後述のドブタミンの落とし穴)。
あげあげオールスターズのご紹介
では、身分の低い順に、麻酔科の主役たちを紹介していきましょう。各見出しの頭に「階級バッジ」をつけておくので、今どの身分の話をしているか、ひと目でわかるはずです。
1.〈平民 その1〉エフェドリン いちばんの働き者
身分:平民 / 商品名:エフェドリン「ナガヰ」
ちょこちょこ働く、麻酔科でいちばん身近な働き者
- 肩書き(受容体):α・βの両方に効く混合型。βは"直接作用"、αは交感神経終末から自前のノルアドを放出させる"間接作用"。だから まずβ(脈・収縮力↑)が出て、遅れてα(血管収縮)で血圧が上がる という時間差があります。
- 効果:心拍数↑↑/心拍出量↑↑/末梢血管抵抗は±/平均血圧↑↑
- 出番:全麻導入後や脊麻後の、一過性でマイルドな低血圧。とくに 「血圧低め+脈も遅め」 の場面。気管支拡張作用もあるので喘息傾向にも優しい。
- 使い方:1回 4〜8 mg 静注。1A(40 mg/1 mL)を生食で 全量10 mL(4 mg/mL) に希釈して 1〜2 mL ずつ。1〜2分で効いて10〜15分持続。連投は 24 mg くらいまで が目安。
- 落とし穴:タキフィラキシー。自前のノルアド在庫を放出させて効く薬なので、叩き続けると在庫切れでピタッと効かなくなる。3〜4回押して戻らなければ、潔く直接型(フェニレフリンやノルアド)へ切り替えを。少量すぎるとβ₂が先行して一瞬下がることがある。
2.〈平民 その2〉フェニレフリン 生真面目な一本気
身分:平民 / 商品名:ネオシネジン
βには目もくれず、血管収縮だけに命をかける一本気なキャラ
- 肩書き:選択的 α₁ 刺激薬(直接型)。βはほぼ効かない。
- 効果:末梢血管抵抗↑↑↑/平均血圧↑↑↑。一方で 心拍数↓(反射性徐脈)、後負荷が増えるので 心拍出量も↓ 傾向。
- 出番:「末梢が開いて(SVR低下)落ちた」一過性の低血圧。レミフェンタニルでガクッと下がったとき。そして 「頻脈にしたくない・血管を開きたくない」病態(AS、HOCM、冠動脈疾患・虚血性心疾患)。産科の脊麻後低血圧では、胎児アシドーシスを来しにくく、いまはエフェドリンを凌ぐ第一選択です。
- 使い方:1回 0.05〜0.1 mg(最大0.2 mg)静注。1 mg を全量10 mL(0.1 mg/mL)に希釈して 0.5〜1 mL ずつ。持続なら 0.1〜1.5 μg/kg/分。効果は5〜10分と短め。
- 落とし穴:反射性徐脈。もともと脈が遅い人に使うとさらに徐脈が悪化。高度なら相対禁忌、対処はアトロピン。持続で締めすぎると腎血流もガッツリ落とします。
3.〈下級貴族〉ドパミン 顔色を変える多面相
身分:下級貴族 / 商品名:イノバン
持続管理の定番だけど、投与量で別人格になる多面相の困ったちゃん
- 肩書き:D受容体+α₁+β₁。Dには直接、α・βへは主に間接作用。
- 量で変わる顔:
- 低用量 1〜3 γ:【D作用】腎・腸間膜血管を開いて尿は出る。血圧・脈は不変
- 中用量 3〜10 γ:【β₁】脈↑・収縮力↑で心拍出量↑↑↑、血圧↑
- 高用量 10〜20 γ:【α₁】末梢を強く締めて血圧をさらに↑
- 使い方:1〜20 γ(初期は 3〜5 γ から)。主流は 0.3%製剤(150 mg/50 mL) のプレフィルド。体重50 kgなら「1γ=1 mL/時」でピッタリなので、5γ=5 mL/時と超シンプル。開始5分以内に効いて、切れば10分以内に消える。
- 落とし穴:
- 「低用量ドパミンの腎保護」神話はもう完全崩壊。腎保護目的の投与はしません(尿は出ても腎は守れず、むしろ虚血リスク)
- 原則 CVCから。高用量を末梢持続は血管外漏出で虚血性壊死の危険
- 絶対にボーラス禁(急速注入で冠動脈スパズム)、褐色細胞腫は禁忌
4.〈上級貴族〉ドブタミン エレガントな純粋強心薬
身分:上級貴族 / 商品名:ドブトレックス、ドブポン
昇圧薬コーナーにいるけど、血管は締めずに心臓を優雅に力強く打たせる 純粋な強心薬
- 肩書き:人工の 選択的 β₁ 刺激薬(直接型)、α₁・β₂ はほぼ無視
- 効果:心拍数↑/心拍出量↑↑↑(収縮力を強力に)/末梢血管抵抗↓(β₂で少し開く)。だから 平均血圧は必ずしも上がらない(±〜↓)
- 出番:心筋梗塞後、急性・慢性心不全、心原性ショック、低EF 、「ポンプが弱って心拍出が足りず血圧が保てない」場面。敗血症でノルアドを十分効かせてもなお収縮力が落ちているときの併用
- 使い方:1〜20 γ(初期 2〜5 γ)。0.3%製剤を使い、50 kgなら 5 γ(5 mL/時)前後が目安。定常まで10〜20分
- 落とし穴:
- 「血圧の薬」と勘違いして単独投与すると、血管が開いてむしろ血圧が下がる。必ず心エコーで心機能を確認し、血圧が落ちるならノルアド等の血管収縮薬を併用
- HOCMは禁忌(左室流出路狭窄を悪化させ心停止の恐れ)。虚血性心疾患には酸素需要が跳ね上がるので極めて慎重に
5.〈プリンス〉ノルアドレナリン 頼れる王の後継
身分:王族(プリンス) / 別名:ノルアド、NAD
平民や貴族では歯が立たない重症低血圧を、力でねじ伏せる王族。強力に締めながら脈を崩さない天性のバランス感覚が売り
- 肩書き:強力な α₁(直接・主作用)+マイルドな β₁(直接)、αが圧倒的優位
- 効果:末梢血管抵抗↑↑↑/平均血圧↑↑↑、心拍数は±〜わずかに↓ 、フェニレフリンなら反射性徐脈になるところを、マイルドなβ₁が脈をそっと支えてくれるのでガタ落ちしない。心拍出量は↑〜±
- 出番:敗血症性ショックの第一選択、人工心肺離脱時などSVR著減を伴う持続的低血圧。最近の手術室の新常識 : 末梢から低濃度でポタポタ流す管理(脊麻後や維持期のマイルドな低血圧に!灌流も心拍出量も改善)
- 使い方:
- CVC持続:0.03〜0.2 γ(重症は 0.01〜0.5 γ〜)。3A(3 mg)を50 mLに希釈すると 「0.1γ=0.1×体重 mL/時」 で計算がラク
- 末梢の低濃度レシピ(必ず1/50〜1/100に高倍率希釈):
- 標準:ノルアド 1 mg+生食 49 mL(全量50 mL、20 μg/mL)
- 安全重視:ノルアド 1 mg+生食 99 mL(全量100 mL、10 μg/mL)
- 末梢投与時の流速は 0.1 γ 以下を厳守
- 落とし穴:高濃度・長期は原則CVC必須。末梢で漏れると強烈な血管収縮で 局所の虚血性壊死。末梢持続では 20G以上を手関節より中枢の太い静脈へ確実に留置し、側管から流し、穿刺部の痛み・蒼白・腫脹・冷感を毎時チェック。心室性頻拍・重篤な高血圧・循環血液量不足には禁忌。
6.〈王様〉アドレナリン この国の絶対的頂点
身分:王族の頂点(王様) / 別名:ボスミン、エピ
あらゆるショック、プリンスでも太刀打ちできない超低血圧、そして 「心停止」という修羅場 にのみ降臨する、地上最強にして最後のカテコールアミン
- 肩書き:α₁・α₂・β₁・β₂ の全部を極限まで直接刺激する最強のオールラウンダー
- 量で激変する性格:
- 低用量 0.01〜0.02 γ:主にβ(心拍出量↑・気管支拡張・末梢拡張)
- 中用量 0.02〜0.1 γ:α+β 混在
- 高用量 0.1〜0.3 γ:主にα(血管をガチガチに締めて一気に持ち上げる)
- 出番:
- 心肺蘇生(心停止):胸骨圧迫とセットの唯一無二のファーストライン
- アナフィラキシーショック:血圧を保ちつつ気道浮腫を引き、気管支も広げられる絶対的第一選択
- 重症心不全、人工心肺離脱時、ノルアド不応の超高度低血圧
- 使い方:
- 心停止:1回 1 mg(原液1A) を3〜5分ごとに静注、生食20 mLで後押し
- アナフィラキシー(静脈路なし):大腿中部の前外側にアドレナリン原液を筋注(成人0.5 mg/小児0.3 mg、または0.01 mg/kg)。必要に応じ15〜20分ごと追加
- 異常低血圧のボーラス(モニター下):1 mLを20 mL等に希釈(50〜100倍)し、0.025〜0.05 mgずつ、バイタルと心電図を睨みながら慎重に
- 持続:0.05〜0.2 γ(〜0.3 γ)
- 局麻添加(10万〜20万倍):原液を100〜200倍希釈(0.005〜0.01 mg/mL)
- 落とし穴:
- 局麻添加で 「耳介・指趾・陰茎」への注入は絶対禁忌(終末血管が締まり切って壊死)
- 頻脈・PVC・心筋虚血・高血糖・乳酸上昇にも注意
7.〈別ルートの助っ人〉バソプレシン 王家とは別の血筋を歩む硬骨漢
身分:番外(V₁ルートの助っ人) / 商品名:ピトレシン(AVP=抗利尿ホルモン)
カテコラミン受容体にまったく反応しない頑固な低血圧を、独自ルート(V₁)から締め上げる、いぶし銀の助っ人。カテコラミンという「王家の血筋」とは別系統で戦う一匹狼
- 肩書き:カテコラミン受容体を一切介さず、V₁(V₁ₐ)を直接刺激して血管平滑筋を締める。カテコラミンはアシドーシスで効きが鈍るけれど、バソプレシンは酸性環境でも変わらず締められるのが真骨頂
- 効果:末梢血管抵抗↑↑↑/平均血圧↑↑↑。後負荷が跳ね上がるため心拍数・心拍出量は↓〜↓↓のことも
- 出番:カテコラミン抵抗性ショック・敗血症性ショックへの追加(ノルアドに上乗せ)。麻酔科でいちばん光るのは 「ACE阻害薬・ARB内服患者の難治性 vasoplegia(血管麻痺)」。RAS系が抑えられカテコラミンが効きにくい病態に、驚くほど特効的に効く印象
- 使い方:持続 0.01〜0.04 U/分(固定用量)(状況により最大0.06 U/分)。標準レシピは 1A(20 U/1 mL)を5%ブドウ糖で全量50 mL(0.4 U/mL)。開始は 0.03 U/分(=1.8 U/時=4.5 mL/時)を基本に、弱ければ0.005 U/分刻みで微調整
- 落とし穴:締める力が強烈すぎて、欲張ると 指先・冠動脈・腸管を締めすぎ、心筋虚血や腸管壊死を招く。本質は抗利尿ホルモンなので 低Na血症 も。原則CVCから。
■昇圧薬・身分早見表
最後に、身分・肩書き・使いどころを一枚の表にまとめておきます
| 身分・階級 | 薬剤(商品名) | 肩書き(主な受容体) | キャラの一言 | 主な出番 | 代表用量 |
|---|---|---|---|---|---|
| 🧑🌾 平民① | エフェドリン(ナガヰ) | α+β混合(β直接・α間接) | 身近な働き者。脈も遅い低血圧に | 軽症・脈遅めの一過性低血圧 | 4〜8 mg 静注 |
| 🧑🌾 平民② | フェニレフリン(ネオシネジン) | 選択的 α₁ | 締めるだけの一本気 | 頻脈NG・SVR低下(AS/HOCM) | 0.05〜0.1 mg 静注 |
| 🎩 下級貴族 | ドパミン(イノバン) | D+β₁+α₁(量で変身) | 投与量で別人格 | 持続管理(腎保護目的は×) | 1〜20 γ 持続 |
| 🎩 上級貴族 | ドブタミン(ドブトレックス) | 選択的 β₁ | 血管は締めぬ純粋強心薬 | 低EF・心原性ショック | 2〜20 γ 持続 |
| 🤴 プリンス | ノルアドレナリン | 強力α₁+マイルドβ₁ | 締めても脈を崩さぬバランス感覚 | 敗血症ショック第一選択 | 0.03〜0.2 γ 持続 |
| 👑 王様 | アドレナリン(ボスミン) | α₁α₂β₁β₂ 全部 | 最強にして最後の切り札 | 心停止・アナフィラキシー | 心停止1 mg/筋注0.3〜0.5 mg |
| 🥷 別ルート | バソプレシン(ピトレシン) | V₁(カテコラミン非依存) | 酸性でも効く硬骨漢 | カテコラミン抵抗性・vasoplegia | 0.01〜0.04 U/分 持続 |
※ 昇圧(締める)か、強心(鞭打つ)か!ドブタミンだけは「貴族の身分でも中身は強心薬」。単独で血圧は上がらない点に注意。
※ 用量・希釈はあくまで一般的な目安です。製剤規格や施設プロトコル、患者の病態に応じて必ず確認のうえご使用ください。