こんにちは、さぬちゃんです。
最近、「特定行為研修修了看護師(いわゆる麻酔パッケージの特定ナース)に、麻酔のどこまでを任せていいの?」という問い合わせがほんとうに多い。
今日は、日本麻酔科学会『麻酔関連業務における特定行為研修修了看護師の安全管理指針』(令和5年3月)とそのFAQを骨格に、「手順書(包括指示)に書いていいこと」「個別指示(具体的指示)でないとダメなこと」「指示があってもそもそもダメなこと」を、具体例つきでつれづれに整理します。ここを曖昧にしたまま走ると、保助看法・医師法に触れかねないところです。
あるある
手術室で、こんな会話を聞いたことはないでしょうか。
「特定さん来てくれたし、この症例まるっとお願いできる? 導入も挿管も、レミとプロポの調整も」
…ちょっと待って。気持ちはわかるんです。人手は足りないし、特定さんは頼りになる。でも、そのお願いの半分は、手順書では出せない指示だったりします。
なぜそうなるのか。まずは「指示」という言葉の整理から
大前提:パッケージ修了=麻酔ぜんぶOK、ではない!!
ここがいちばん誤解されているところ
「術中麻酔管理領域パッケージ」という名前のすわりが良すぎて、「これを修了したら術中麻酔をまるごと任せられる」と思われがちです。でも、ちがいます!
ちなみに、2026年3月30日に「術中麻酔管理領域」パッケージが 「周術期麻酔管理領域」パッケージにに名称変更されています(令和8年3月30日付の省令一部改正通知)。
パッケージ研修には、麻酔薬・筋弛緩薬・麻薬の薬理学も、麻酔の生理学も、まったく含まれていません!
厚労省の「学ぶべき事項」にも麻酔管理への言及はない!
つまりパッケージは「術中によく出てくる特定行為8つを束で習う研修」であって、「麻酔科医の代わりになる研修」ではないんです。これ、基本です。
運用で手順書を出すのは常勤麻酔科専門医(麻酔管理料Ⅱの施設なら麻酔科標榜医)。
特定さんはその専門医が担当する症例で、看護師1名につき医師1名で実施し、同時に複数症例の麻酔看視はしない。
これが指針のルールです。
指示には「3つのレイヤー」がある
看護師が「診療の補助」をするには、医師の「指示」が必要です。
指示は、おおきく2つに分かれます。
① 具体的指示(=個別指示)
医行為をやるときの判断(やるか・やらないか、どうやるか)を、看護師が裁量で考えないように、できるだけ詳細に指定する指示。
例:「6月20日14時に、Aさんに薬剤Bを5mg静脈内投与」
日付・患者・薬・量・経路・時間まで指定。看護師は判断せず、指示どおりに実施します。
② 包括的指示
具体的指示「以外」のもの。患者の状態に応じて看護師が柔軟に動けるよう、病態の変化を医師が予測して、その範囲内でやるべき行為を一括で出しておく指示。さらに2つに分かれます。
- プロトコール:予測できる範囲で対応手順をまとめたもの。
①対応できる病態変化の範囲
②実施する薬剤投与・採血・検査の内容とその判断基準
③範囲を逸脱したときの医師への連絡
を事前に取り決めて記載する。 - 手順書:プロトコールの一種。ただし特定行為研修修了看護師だけが使える特別なもので、これによって「特定行為」が実施できる。
整理すると、こういう3階建てになります。
|
レイヤー |
中身 |
看護師の裁量 |
|---|---|---|
|
手順書 |
修了した特定行為8つ |
手順書の範囲内で、病態をみて判断・実施できる |
|
個別指示 |
特定行為に含まれない薬剤・操作 |
原則、裁量なし。指示どおり実施 |
|
絶対的医行為 |
導入・覚醒・挿管抜管など |
指示があっても看護師は実施不可 |
では、それぞれ具体的にいきましょう。
【A】手順書(包括指示)に書いていいこと=裁量ゾーン
パッケージで修了する6区分8行為。これは手順書(包括指示)で、特定さんが自分で病態をみて判断し、実施できる範囲です。
- 経口用/経鼻用気管チューブの位置の調整
- 侵襲的陽圧換気の設定の変更
- 人工呼吸器からの離脱
- 直接動脈穿刺法による採血
- 橈骨動脈ラインの確保
- 脱水症状に対する輸液による補正
- 硬膜外カテーテルによる鎮痛薬の投与および投与量の調整
- 持続点滴中の糖質輸液または電解質輸液の投与量の調整
ここが特定さんの腕の見せどころ。手順書に「こういう病態の範囲なら、こう動いていい」と書いておけば、いちいち電話で確認しなくても、範囲内なら看護師の判断で動けます。
具体例で考えると
- 「チューブが深い/浅いと判断したら、〇〜〇cmの範囲で位置を調整してよい」
- 「血ガスやSpO₂がこの基準なら、PEEP・FiO₂をこの範囲で設定変更してよい」
- 「抜管基準(自発呼吸・意識・換気量…)を満たしたら、手順に沿って人工呼吸器から離脱してよい」
- 「血ガスのために動脈採血、この条件で橈骨動脈ライン確保もしてよい」
- 「尿量・血圧・in-outがこの範囲で脱水傾向なら、晶質液を〇mL/h上限で輸液補正してよい」
- 「硬膜外の効きがこの程度なら、局麻薬の投与量をこの範囲で調整してよい」
- 「血糖・電解質をみながら、維持輸液の投与量をこの範囲で調整してよい」
これが「裁量を渡す」ということ。
手順書を出すときの “お作法”
手順書には、法令で決まった6項目を必ず入れます。
①病状の範囲
②診療の補助の内容
③対象となる患者
④実施時に確認すべき事項
⑤医師への連絡が必要なときの連絡体制
⑥実施後の医師への報告方法
そして大事なのが、患者を特定して、1人ずつ発行すること。汎用の1枚を貼って終わり、はNG! 同じ行為でも、その看護師の理解力・判断力・技能に応じて作り分けることもあるし、医師や特定さんが交代したら再発行か再確認が必要です。手間はかかりますが、ここが安全の要です。
【B】個別指示(具体的指示)でないとダメなこと
ここがいちばん大事なところ。特定行為に「含まれない」ものは、手順書では実施できません。 別に、具体的指示(または特定行為とは別建ての包括的指示)が必要。そして、麻酔の中核になる薬は、ことごとくこちら側です。
指針・FAQが名指しで「特定行為に含まれない」と挙げているもの
- 吸入麻酔薬の投与・投与量・投与速度の変更
- 静脈麻酔薬の投与・投与量・投与速度の変更
- 麻薬の投与・投与量・投与速度の変更
- 筋弛緩薬の投与・投与量・投与速度の変更
- 循環作動薬の単回(ワンショット/ボーラス)静注
- そして 麻酔薬の調整そのもの
具体的には、
- セボフルランの濃度をいじる
- プロポフォール・レミフェンタニルのTCIやポンプ流量を変える
- フェンタニルを追加でいく
- ロクロニウムを追いがけする
- 血圧が下がったからフェニレフリンやエフェドリンをワンショットする
→こういう「麻酔そのもの」の操作は、手順書(包括指示)には書けません!
やるなら患者ごとの具体的指示(「収縮期が80を切ったらフェニレフリン0.1mgを静注」のように、薬・量・トリガー・経路を特定したもの)で運用します。
特定さんが術中の看視を担うときは、「手順書(特定行為)+プロトコール+具体的指示」を適切に組み合わせてまわします。これが指針の描く姿です。手順書1枚で麻酔が回るわけではないということです。
そしてもうひとつ大事な但し書き。医師が具体的指示を出しても、看護師にはできない行為がある(日本看護協会のガイドラインもそう述べています)!
安全性はもちろん、倫理的・法的・社会的に適合した指示であること。これが次の【C】です。
【C】指示があってもダメなこと=絶対的医行為
これは「個別指示にすればOK」ですらありません。医師が具体的指示を出しても、看護師は実施してはいけないゾーン。いわゆる絶対的医行為です。患者の状態や看護師の技量に関係なく、医師だけが実施できる行為とされています。
指針が「させないこと」と明言しているもの
- 全身麻酔の導入
- 麻酔の覚醒
- 硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔・神経ブロック(の手技そのもの)
- 気管挿管・抜管、そして声門上器具(ラリンジアルマスク等)の挿入・抜去を、手術室の麻酔業務として行うこと
「導入」「覚醒」ってどこまで?
FAQがちゃんと範囲を定義しています。
全身麻酔の導入=静脈麻酔薬や筋弛緩薬等を投与して導入をおこない、バッグ・マスクで十分換気しながら経口挿管。血圧・心拍・体温に留意しながら麻酔薬を吸入させ、人工呼吸器による呼吸管理を開始する(硬膜外併用のこともある)。
麻酔の覚醒=手術終了時、生体情報や胸部X線で肺野等を把握し、覚醒に向け麻酔の濃度・量を調整、筋弛緩薬投与のタイミングを判断・実施する。
ポイントは、この一連の流れの一部である挿管・抜管・声門上器具の出し入れも、ぜんぶ「導入・覚醒」に含まれるということ。だから、手術室の麻酔業務として看護師にさせてはいけない、というのが学会のはっきりした立場です。
「課長通知では挿管OKって書いてない?」への答え
「でも厚労省の医政局看護課長通知(医政看発1001第1号)では、挿管・抜管は診療の補助でできるとあるよね?」と思う方もいるはず。
→あれは、ICU・CCU・外科病棟といった手術室麻酔“以外”の場面を想定したものです。麻酔科が直接関与する術中麻酔は別、というのがこれまでの経緯。昭和40年の医事課長通知の時代から「麻酔行為は医行為」と整理されていて、学会は2013年の緊急声明以来ずっとこの線を守っています。だから手術室の麻酔業務としての挿管・抜管はさせない。 矛盾ではなく、場面が違う、と理解してください。
■さぬちゃんポイント:適応判断のワナ
倫理のFAQに、いい注意喚起があります。
「ふだんならAライン取らない症例だけど、全身麻酔下だし、通常の適応を超えてAライン取ってもいいだろう」
これ、適応判断としては不適切になりうるんです。手順書で「やってよい」とされている行為でも、その症例にほんとうに適応があるかは別問題。麻酔部門の責任者が監督すべきところです。
早見表
|
やること |
手順書(包括)でOK? |
必要な指示 |
|---|---|---|
|
気管チューブの位置調整 |
⭕️ |
手順書 |
|
侵襲的陽圧換気の設定変更 |
⭕️ |
手順書 |
|
人工呼吸器からの離脱 |
⭕️ |
手順書 |
|
直接動脈穿刺による採血 |
⭕️ |
手順書 |
|
橈骨動脈ライン確保 |
⭕️ |
手順書 |
|
脱水に対する輸液補正 |
⭕️ |
手順書 |
|
硬膜外カテからの鎮痛薬投与・量調整 |
⭕️ |
手順書 |
|
糖質・電解質輸液の投与量調整 |
⭕️ |
手順書 |
|
吸入・静脈麻酔薬の投与/量/速度変更 |
❌ |
具体的指示が必要 |
|
麻薬・筋弛緩薬の投与/量/速度変更 |
❌ |
具体的指示が必要 |
|
循環作動薬のワンショット静注 |
❌ |
具体的指示が必要 |
|
全身麻酔の導入・覚醒 |
❌❌ |
指示があっても不可(絶対的医行為) |
|
挿管・抜管・声門上器具の出し入れ(術中麻酔) |
❌❌ |
指示があっても不可 |
|
硬膜外・脊麻・神経ブロックの手技 |
❌❌ |
指示があっても不可 |
⭕️=手順書で裁量を渡してよい/❌=手順書に書けない、患者ごとの具体的指示で/❌❌=そもそも看護師にさせてはいけない
記録と説明を、忘れずに 📝
最後に、運用で落としがちなところ。
- 特定行為を実施したら速やかに麻酔記録・診療録に記載。誰が指示受けして誰が実施したかがわかるように。手順書の範囲を逸脱したときや、医師への報告事項は、はっきり残す。
- 麻酔説明書に特定さんが実施する行為を明記し、患者に説明・同意を得る。侵襲性の高い行為は個別に説明し、同意書に記載。掲示物で済ませず、術前に患者が質問・拒否できる機会を必ず作ること。
- 麻酔管理料Ⅱを算定するなら、特定さんが実施した行為も麻酔記録への記載が必要!
なお術前診察は「麻酔を担当する医師の一部の行為」に含まれないため、算定には標榜医または担当麻酔科医自身の診察が必要です。
まとめ:3階建てで覚える
- 1階(手順書・包括指示):パッケージの8行為。病態をみて特定さんの判断で動ける裁量ゾーン。位置調整・設定変更・離脱・採血・Aライン・輸液補正・硬膜外鎮痛・維持輸液調整。
- 2階(具体的指示):麻酔薬・麻薬・筋弛緩薬・循環作動薬ワンショット。これは手順書に書けない。患者ごとの具体的指示で。
- 3階(絶対的医行為):導入・覚醒・挿管抜管・声門上器具・区域麻酔の手技。指示があっても看護師は不可。
「特定さんがいるから麻酔を任せておこう」ではなく、「特定さんの強みを、正しい指示の枠で活かす」。これが患者にとっても特定さんにとっても、いちばん安全で、いちばん気持ちのいい働き方だと思います。
では、また。
参考資料
麻酔関連業務における特定行為研修修了看護師の安全管理指針 <2023年4月制定>(日本麻酔科学会)
麻酔関連業務における特定行為研修修了看護師の安全管理指針 FAQ
麻酔関連業務における特定行為研修修了看護師の安全管理指針 FAQ2
※本記事は、日本麻酔科学会『麻酔関連業務における特定行為研修修了看護師の安全管理指針』(令和5年3月)および同FAQをもとに、さぬちゃんが噛みくだいて整理したものです。実運用は各施設の特定行為業務管理委員会・麻酔部門責任者の方針に従ってください。