ここ数回、「末梢ルートは期間で抜くな、所見で抜けという話」をしたところ、その中に出てきたI-DECIDEDを、もっと詳しく教えほしいというご要望をいただきました。
この "I-DECIDED" を、背景から 使い方まで、つれづれに解説します。
末梢ルートは「世界で最も多用される侵襲的デバイス」
末梢静脈ルート(PIVC)は、世界で年間10億本以上が留置される人類が最も多く体に刺している侵襲的デバイスです。にもかかわらず、その管理の実態は長らくブラックボックスでした。
それを可視化したのが、Alexandrou らの横断調査(J Hosp Med 2015)。
13か国14病院・479人を一斉点検したところ、、、
- 入院患者の 59%が、少なくとも1本の末梢ルートを留置
- そのうち 16%は、輸液も薬剤指示もない「遊んでいるルート」
- 2% には、すでに静脈炎の症状が1つ以上出ていた
つまり「6人に1人は、いらないのに刺さったまま」「8人に1人は、すでに静脈炎になりかけ」。これが世界の"末梢ルートの現実"でした。しかも別の監査では、遊んでいるルートである割合は 25〜50%、合併症や機能不全で治療完了前にダメになる末梢ルートは 最大69% と報告されています(I-DECIDED 論文より)。
なぜ「既存のツール」ではいけなかったのか
じゃあ、静脈炎スケールでチェックすればいいのでは? 実際、VIP(Visual Infusion Phlebitis)スケールをはじめ、静脈炎の評価表は昔からありました。
ところが、開発者たちが指摘したのは、静脈炎スケールは"静脈炎しか見ない"という弱点でした。末梢ルートがダメになる理由は、静脈炎だけではありません。
- 閉塞(occlusion)
- 逸脱・自己抜去(dislodgement)
- 浸潤・血管外漏出*(infiltration / extravasation)
こうした「静脈炎以外の失敗」を、静脈炎スケールは拾えない。
それに加えて、
- そもそもまだ必要か(need)
- ちゃんと機能しているか(function)
- ドレッシング・固定は大丈夫か
- 感染対策は守れているか
といった「管理の要点」も、静脈炎スケールはチェックできないのです。ケアバンドルや電子記録、チェックリストも試されましたが、効果はまちまち。「赤くなってないからOK」で見送った末梢ルートが、実は閉塞しかけ・固定はゆるゆる・もう不要、なんてことが平気で起きました。
→ 点で見るスケールではなく、面で見る"思考の型"が必要
これが I-DECIDED が作成されたときの問題意識でした。
誰が、どんな発想で作ったのか
I-DECIDED を開発・検証したのは、Ray-Barruel らオーストラリア AVATAR(Alliance for Vascular Access Teaching and Research)のグループ(BMJ Open 2020)。
その、共著者の顔ぶれは、
Claire Rickard:前々回紹介した「末梢ルートは所見で抜いてよい」を示した Lancet 2012 のRCTの中心人物
Vineet Chopra:前回紹介したデバイス選択基準 MAGIC の筆頭著者
つまり、「問題を可視化した人(Alexandrou 2015)」「定時交換を否定した人(Rickard 2012)」「デバイス選択を体系化した人(Chopra 2015)」が、その流れの中でベッドサイドの日々の判断ツールとして作成したのが I-DECIDED なんです!
頭文字8文字を1つずつ紹介
頭文字を I→D→E→C→I→D→E→D の順になぞり、最後に決定(Decision)です。
I — Identify(まず、ルートあるか):ルートの有無を確認。48時間以内に抜いた患者なら、抜去後静脈炎が出ていないか刺入部も診る。
D — Does the patient need it?(まだいるか):過去24時間に使ったか、今後24時間で使う見込みか。経口に切り替えられないかを薬剤師・主治医と検討。不要なら抜去。
E — Effective function(効いているか):滴下・フラッシュは良好か、逆血はあるか。機能不全なら刺し替え。
C — Complications(合併症):疼痛≧2/10、発赤\>1cm、腫脹\>1cm、滲出、浸潤・血管外漏出、硬結、索状物、その他(掻痒・発疹など)。該当すれば抜去・必要なら刺し替え。
I — Infection prevention(感染対策):ANTT・手指衛生・ハブ消毒(scrub the hub)。刺入部の膿性分泌、または他に源のない原因不明の発熱・WBC上昇があれば、ルートを抜いて先端培養を考慮。
D — Dressing & securement(被覆と固定):清潔・乾燥・密着か。湿潤・汚染・剥がれがあれば、まず貼り替え(刺し替えとは限らない)。デバイスとルートの固定も確認。
E — Evaluate & educate(評価と説明):患者・家族がルートの目的と抜去予定を理解しているか。説明する。
D — Document(記録):挿入日時、アセスメント内容と取った対応、抜去日時を残す。
そして締めは、次の4択から Decision(決定)する。
1. そのまま継続(変更なし)
2. 継続するが、ドレッシング交換・再固定
3. 抜去して終了
4. 抜去して刺し替え(患者・チームと最適なデバイス・部位を相談)
「赤いか/赤くないか」の一点ではなく、必要性・機能・合併症・感染・被覆を合わせて見る。だから見落としが減る。
このツールの"哲学"——前回までの話と一本につながる
開発論文の中で、著者たちがいちばん言いたかったであろう一文がこれです。
> ルートを継続するか抜くかの判断は、包括的な臨床評価に基づくべきであり、単に「留置期間」や「静脈炎症状の有無」だけで決めるものではない。
これは前々回の「72時間という期間で抜くな」、前回の「所見で抜き、血管を温存せよ」と、完全に同じ思想なんです。
ではまた。
参考文献
1. Ray-Barruel G, et al. The I-DECIDED clinical decision-making tool for peripheral intravenous catheter assessment and safe removal: a clinimetric evaluation.
BMJ Open 2020;10(1):e035239.
doi.org/10.1136/bmjopen-2019-035239
2. Alexandrou E, et al. International prevalence of the use of peripheral intravenous catheters.
J Hosp Med 2015;10(8):530–3.
doi.org/10.1002/jhm.2389
3. Rickard CM, et al. Routine versus clinically indicated replacement of peripheral intravenous catheters: a randomised controlled equivalence trial.
Lancet 2012;380(9847):1066–74.
doi.org/10.1016/S0140-6736(12)61082-4
4. Chopra V, et al. The Michigan Appropriateness Guide for Intravenous Catheters (MAGIC).
Ann Intern Med 2015;163(6 Suppl):S1–40.