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さぬちゃんの麻酔科医生活

末梢ルートは72時間、ミッドラインは2週間で交換——本当?

こんにちは、さぬちゃんです。以下の様な話が、先日、仲間内で話題になりました。

 

病棟でこんな会話をよく耳にします。「末梢、72時間経ったんで入れ替えますね」

さらに、別の患者で「ミッドラインは2週間使っていいですね?」

……同じ"末梢"の血管なのに、なんで末梢ルートは3日でミッドラインは2週間?

どちらも中心静脈じゃない、上肢の末梢静脈。なのに交換のタイミングはまるで違う。ルールだから?

 

なぜそうなっているのか・その数字は正しいのかについて、つれづれに語ります。

「72時間」はどこから来たか

短い末梢留置針を定期交換する理由は、静脈炎です。細い表在静脈に異物が居座ると、血管とカテーテルの太さのバランスが悪く血流も乏しいので内皮が刺激され続け、留置が延びるほど血栓性静脈炎が増える。これを裏づけた古典的論文が Maki & Ringer の RCT(Ann Intern Med 1991)[1]。1,054本を追い、静脈炎リスクは4日目までに50%超、一方で菌血症はゼロ。「留置が延びると静脈炎は増えるが、血流感染はめったに起きない」ことが示されていました。

ここから「3日で替えよう」が広まったようですが——CDC(米国疾病対策予防センター)血管内カテーテル由来感染予防のためのCDCガイドラインの原文は、よく読むと意味が違います。しかも2002年版[5]と2011年版[6]で言い方が変わっています(これが問題かも)

  • 2002年版:Replace peripheral venous catheters at least every 72–96 hours
    (少なくとも72〜96時間ごとに交換せよ)
  • 2011年版:There is no need to replace ... more frequently than every 72-96 hours
    (72〜96時間より頻回に替える必要はない)

「替えよ」から「そんなに頻回に替えなくていい」。さらに2011年版「臨床適応時のみ交換」について"勧告なし(未解決)"を併記しました。つまり「72時間ルール」は、2002=替えよ → 2011=頻回に替えるな → その後のRCT=臨床所見をみて抜け、と20年かけて指針が変化したのです。

古いマニュアルの「72時間ごと交換」は、2002年版の名残かもしれません。

RCTが「定時交換」を否定した

決定打は Rickard ら(Lancet 2012)[2]。3,283人を「3日定時交換」群と「臨床適応時のみ交換」群に分けて検討すると、静脈炎はどちらも7%、差は0.41%。これを束ねた Cochrane(Webster ら, 2019/9試験7,412人)[3]も、感染・静脈炎・死亡・疼痛に差なしコストは臨床適応交換が有利と結論しました。

ただし、同レビューでは浸潤と閉塞は定時交換群のほうがやや少ない(浸潤 23.9% vs 20.5%、閉塞 15.6% vs 13.9%)。感染は変わらないが、機械的トラブルは定時が有利となっていました。総合すると痛み・コストを減らせる「臨床所見で抜く」が支持されますが、これは毎日きちんと観るのが大前提です。

では「ミッドラインの2週間」は?

ミッドラインカテーテルは、「2週間ごとに交換」ではなく「2週間くらい普通に持つ」ということ。

ミッドラインは上腕の太い静脈(尺側皮静脈・上腕静脈)から入れ、先端は腋窩静脈の手前に留まります(中心静脈には届かない)。先端が太い静脈にあるぶん血流が豊富で薬液がよく希釈され、静脈炎が起きにくい。中心静脈でないのでCLABSI(中心静脈カテーテル関連血流感染症)の区分にも入りません

 18,972本を集めた系統的レビュー(Tripathi ら, Crit Care Med 2021)[4]で、平均留置16.3日・静脈炎3.4%・感染0.28/1,000カテーテル日(短い末梢の「4日で50%」とは桁違い)。「2週間」の正体は、実臨床の平均留置が約16日で、その間トラブルが少ないからです。ただしDVT 4.1%・閉塞・逸脱など機械的合併症はむしろ多めです

 「いつ抜くか」の考え方も、実は末梢ルートとまったく同じなんです。ポイントは、「日数が来たから」ではなく「そろそろ替えたほうがいい理由があるか」で決めること。CDC(2011)[6]も、輸液看護の国際的な基準[7]も、そろって「何日経ったから、という理由だけで抜く必要はない」「そもそも"何日がベスト"という決まった答えはない」と言っています。ミッドラインだって、本当は時計とにらめっこするものではなく、刺入部とルートの様子を見て、まだ要るかどうかで抜くもの。「2週間」は、あくまでざっくりした目安にすぎないわけですね。

ちなみに、CDCがミッドラインを独立した勧告として扱ったのは2011年版から。2002年版では本文で「短い末梢より静脈炎が少なく、CVCより感染が少ない」と評価はされていましたが、抜去ルールは末梢と同枠でした。2011年版で「適応時のみ交換」「6日を超えそうなら末梢よりミッドライン/PICCを選べ」が明文化され(ともにCategory II)、この2011年版が今もCDCの現行ガイドラインです。

結局、「数字の差」の正体は

ひと言でいえば、留置部位の血管径と血流の差です。細い表在静脈(末梢)は時間とともに静脈炎が増える前提(4日で50%)。太い静脈に先端を置くミッドラインは、希釈と血流でそれが起きにくい(静脈炎3.4%・平均16日)。だから許される期間が違う。デバイス名ではなく血管環境の違いと考えられます。

そして「72時間」も「2週間」も、もはや交換ルーチンのための数字ではなく「概ねここまでは安全」という目安です。

毎日、刺入部とラインの必要性を評価し、合併症があれば・不要になれば抜く。期間だけを理由に抜き差ししない。

末梢でもミッドラインでも、判断の原理は同じ。違うのは"許される最大値の目安"だけ——というお話でした。

ではまた。

本稿は一般的考察であり、実際の判断は各施設プロトコルと患者の臨床所見に従ってください。

参考文献

  1. Maki DG, Ringer M. Risk factors for infusion-related phlebitis with small peripheral venous catheters: a randomized controlled trial. Ann Intern Med. 1991;114(10):845–54. PMID: 2014945.
    https://doi.org/10.7326/0003-4819-114-10-845
  2. Rickard CM, et al. Routine versus clinically indicated replacement of peripheral intravenous catheters: a randomised controlled equivalence trial. Lancet. 2012;380(9847):1066–74. PMID: 22998716.
    https://doi.org/10.1016/S0140-6736(12)61082-4
  3. Webster J, Osborne S, Rickard CM, Marsh N. Clinically-indicated replacement versus routine replacement of peripheral venous catheters. Cochrane Database Syst Rev. 2019;1(1):CD007798. PMID: 30671926.
    https://doi.org/10.1002/14651858.CD007798.pub5
  4. Tripathi S, Kumar S, Kaushik S. The practice and complications of midline catheters: a systematic review. Crit Care Med. 2021;49(2):e140–e150. PMID: 33372744.
    https://doi.org/10.1097/CCM.0000000000004764
  5. O'Grady NP, et al. Guidelines for the prevention of intravascular catheter-related infections. MMWR Recomm Rep. 2002;51(RR-10):1–29. PMID: 12233868 (旧版)
  6. O'Grady NP, et al; HICPAC. Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections. Clin Infect Dis. 2011;52(9):e162–e193. PMID: 21460264.
    https://doi.org/10.1093/cid/cir257 
  7. Nickel B, Gorski L, Kleidon T, et al. Infusion Therapy Standards of Practice, 9th ed. J Infus Nurs. 2024;47(1S Suppl 1):S1–S285. PMID: 38211609.
    https://doi.org/10.1097/NAN.0000000000000532