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さぬちゃんの麻酔科医生活


文献AIツール、結局どう使い分ける? Elicit、EndNote、scite、SciSpaceの役割整理

こんにちは、さぬちゃんです。

昔は、麻酔科以外の領域の先生から「あのEndNoteの先生ですか?」と確認されることが、けっこうありました。 最近でも、年配の先生には、たまにそう言われることがあります。

もちろん私はEndNoteの開発者ではありませんし、Clarivate社の人でもありません。

ただ、EndNote X8までは、克誠堂出版から

www.kokuseido.co.jp

 というEndNoteの活用本を執筆・出版していた著者でして、その界隈ではそれなりに名前が出回っていた時期があります。

当時はまだ、EndNoteの日本語マニュアルが今ほど整っていなかった頃で、医学系の研究者がEndNoteの使い方で困ってブログや本にたどり着いてくれる、という時代でした。 研修医の先生からベテランの教授まで、ずいぶん幅広い読者にお世話になりました。

なので、EndNoteの話には、ちょっとだけ思い入れがあります。 そんな私が、最近のAI文献ツールについて整理してみる回です。


最近、文献検索まわりのAIツールが増えすぎて、

「Elicitって何に使うの?」 「sciteとSciSpaceは何が違うの?」 「EndNote 2025にもAI機能があるなら、もう他はいらないの?」みたいな状態になりがちです。

結論からいうと、これらは全部同じ役割のツールではありません。

さぬちゃん的には、こう分けます。

  • Elicit:文献を探す・候補を表にする
  • SciSpace:論文PDFを読む・理解する
  • scite:その論文が支持されているか、反証されているかを見る
  • EndNote:文献を管理して、Wordで正確に引用する

つまり、

  • Elicitで探す
  • SciSpaceで読む
  • sciteで疑う
  • EndNoteで引用する

です。

これが一番覚えやすいです。


まず、EndNoteは「文献管理の本丸」

EndNoteは昔からある文献管理ソフトですが、やっぱり論文を書くときは強いです。

何が強いかというと、

  • 文献を一元管理する
  • PDFを保存する
  • Wordに引用を入れる
  • 参考文献リストを自動で作る
  • 投稿先ジャーナルの形式に合わせる

このあたりです。

EndNote 2025では、PDFに対して質問するKey Takeawaysで要点を出すFind a Journalで投稿先候補を探すCite from PDFでPDF中のハイライトから引用を挿入する、といった機能も追加されています。

ただし、ここに知っておきたい注意点が2つあります。

ひとつ目は、AI Key Takeawayは出力言語が英語のみということです。

日本語論文のPDFを入れても、要約は英語で返ってきます。 和文文献を多く扱う方は、ここでちょっと拍子抜けするかもしれません。

ふたつ目は、Find a Journalはデスクトップ版Wordでは使えないということです。

Google DocsWord OnlineのCite While You Write(CWYW)プラグインでしか使えません。 普段デスクトップWordでゴリゴリ原稿を書いている派の先生は、現状この機能の恩恵をほぼ受けられないので要注意です。

EndNoteはあくまで文献を管理して、原稿に正しく引用するための母艦です。

なので、EndNoteだけで「この論文は後続研究で支持されているのか」「反証論文はあるのか」まで見ようとすると、少し役割が違います。


Elicitは「読む前に、読むべき論文を絞る」ツール

Elicitは、AIを使って文献を探したり、複数論文からデータを抽出して表にしたりするツールです。

PubMedのようにキーワードで検索するというより、研究疑問を英文(日本語も可)で入れる感じです。

たとえば麻酔科なら、

Does intraoperative dexmedetomidine reduce postoperative delirium in adult surgical patients?

とか、

全身麻酔中、レミマゾラムはプロポフォールと比較して低血圧を軽減するか?

みたいに入れます。

すると、関連論文を拾って、研究デザイン、対象患者、介入、比較、アウトカム、結果などを表っぽく整理できます。

Elicitは、Research reports、Systematic Review、Library、Alertsなどの機能を持ち、システマティックレビューではスクリーニングやデータ抽出を自動化・補助できると説明されています。 また、Extract Data ではPDFをアップロードして表を作り、カラムを追加して論文群を整理できます。

さぬちゃん的には、Elicitは読む前の交通整理に向いています。

  • このテーマ、主要論文はどれ?
  • RCTはある?
  • メタ解析はある?
  • 対象患者は成人?小児?
  • 主要アウトカムは何?
  • 結果はざっくりどっち向き?

こういう確認が速いです。

ただし、Elicitが作った表をそのまま信じるのは危険です

Elicit公式は「データ抽出精度99.4%」と主張していますが、独立した検証研究では精度・再現率・F1スコアいずれも92%程度という報告もあります。 別のSR比較研究では、「intervention effects(介入効果)」のような複雑な変数では、95%が「部分的に正しい」止まりだったとも報告されています。

麻酔科の論文って、まさに「介入効果」とか「アウトカム」が命だからです。

  • 症例数
  • p値
  • 95%信頼区間
  • 主要評価項目

このあたりは、必ず原文で確認します。 AIがちょっと飛ばしたり、混同したりすることがフツーにあります。


SciSpaceは「PDFを読むときの相棒」

SciSpaceは、論文PDFを読んでいるときに便利です。

ざっくりいうと、論文PDFに質問できるAI読解ツールです。

たとえばPDFを開いて、

  • この論文のPICOを教えて
  • 主要アウトカムを表にして
  • limitationを抜き出して
  • この統計結果を臨床的に説明して
  • 麻酔科医向けに要約して

みたいに聞けます。

SciSpaceは、科学文献の理解・分析を支援するAI research assistantとして紹介されており、専門用語、略語、複雑な段落、数式、表などをハイライトして説明したり、追加質問したりできると説明されています。

なので、SciSpaceは1本1本の論文を読むときに便利です。

特に英語論文で、

  • AbstractはわかるけどMethodsがしんどい
  • 統計のところで眠くなる
  • Table 2が情報量多すぎる
  • limitationを拾い忘れそう

みたいなときに助かります。

ただし、SciSpaceも原文確認の代わりではありません

AIが主要評価項目と副次評価項目を混同することもあります。 麻酔科領域だと、低血圧、徐脈、昇圧薬使用量、覚醒時間、術後せん妄など、アウトカムの定義が論文ごとに違うので、ここは必ず自分で確認する必要があります


sciteは「その論文、本当に引用して大丈夫?」を見るツール

sciteは、個人的にはかなり好きなツールです。

普通の文献検索では、引用数が多いか少ないかを見ます。 でも引用数が多い論文が、必ずしも「支持されている論文」とは限りません。

  • 有名だから引用されている
  • 反論するために引用されている
  • 背景説明として雑に引用されている

こういうことがあります。

sciteは、論文が後続研究からどのように引用されているかを見せてくれます。 具体的には、引用を

  • Supporting:支持している
  • Contrasting:対立・反証している
  • Mentioning:単に言及している

のように分類します。 sciteは、引用数だけでなく、引用された文脈、引用箇所、支持・対立・言及の分類を表示するツールとして説明されています。

これは論文を書くときにかなり大事です。

たとえば、あるメタ解析をIntroductionで強く引用したいとします。 そのときにsciteで見ると、後続研究でContrasting citationが多いことがあります。

そうすると、

  • この論文をメイン根拠として使うのは危ないかも
  • Discussionで反対結果にも触れた方がよいかも
  • 対象患者が違う研究では結果が異なるのかも

といった判断ができます。

さぬちゃん的には、sciteは「引用前の安全確認」です。

引用数を見るだけではなく、 どう引用されているかを見る。

これがsciteの価値です。

ただし、sciteの分類も完璧ではありません

scite自身が公開している統計では、全citationの平均で「Mentioning」が約93%、「Supporting」が約6.5%、「Contrasting」が約0.8%です。 つまり、ほとんどがMentioningに分類されます。

しかも、人間レビュアーがsciteの自動分類を再評価したところ、Mentioningと分類されたうちのかなりの割合が、本来はSupportingやContrastingだった、という研究もあります。

なので、sciteで「Contrasting citationが多い」と見えたら、その時点でアラートとして使うのは正解ですが、最終的には実際のcitation statement(引用文そのもの)を読みに行くのがおすすめです。

sciteも、AIに最終判断を任せるのではなく、自分で目視確認するための「気づきツール」として使うのが安全です。


4つの使い分けを表にするとこんな感じ

ツール 一言でいうと 得意なこと 苦手なこと
Elicit 文献探索と表作成 研究疑問から論文候補を探す、複数論文を表にする 最終的な正確性確認
SciSpace PDF読解アシスタント 論文を読む、要約する、表や統計を説明する 文献管理、引用挿入
scite 引用文脈チェック 支持・反証・言及を確認する PDF管理、Word引用
EndNote 文献管理の母艦 PDF管理、Word引用、参考文献リスト作成 反証論文の把握、引用文脈評価

さぬちゃん的おすすめワークフロー

実際に使うなら、こんな流れがよいと思います。

  1. PubMedでまず普通に検索する
  2. Elicitで関連論文を広めに拾う
  3. 重要そうな論文をEndNoteに入れる
  4. PDFをSciSpaceで読む
  5. 主要論文をsciteで確認する
  6. sciteで反証・撤回・懸念がないか見る
  7. EndNoteでWord原稿に引用する

シンプルにすると、

  • 探す:PubMed + Elicit
  • 読む:SciSpace
  • 評価する:scite
  • 管理・引用する:EndNote

です。

この順番にすると、ツール同士がケンカしません。


麻酔科での具体例

たとえば、 「レミマゾラムはプロポフォールより低血圧が少ないのか?」 を調べたいとします。

さぬちゃんなら、こうします。

  1. PubMedで remimazolam propofol hypotension anesthesia を検索
  2. ElicitでRCTやメタ解析を拾う
  3. Elicitで study design / population / intervention / outcome / adverse events の表を作る
  4. 重要論文をEndNoteに保存する
  5. PDFをSciSpaceで読む
  6. 主要RCTとメタ解析をsciteで確認する
  7. 反証論文や異なる結果があればDiscussionに入れる
  8. Word原稿ではEndNoteで引用する

これだけで、かなり効率が上がります。

特にDiscussionを書くときは、sciteが便利です。 「この研究ではこうだったが、別の研究ではこうだった」という論点を拾いやすくなります


追加で使えるツール

この4つ以外にも、便利なものがあります。

NotebookLM

複数のPDF、ガイドライン、スライド、Webページなどをまとめて入れて、その資料群に質問できるツールです。 GoogleのNotebookLMは、PDF、Webサイト、公開YouTube URL(字幕付き)、音声ファイル、Google Docs、Google Slides、Microsoft Word(.docx)、画像などをソースとして追加できると説明されています。

各ソースは最大500,000語または200MBまで、1ノートブックあたり50ソース(無料版)/ 300ソース(Plus版)が上限です。

SciSpaceが「論文PDFを読む相棒」なら、NotebookLMは複数資料をまとめた研究ノートに近いです。

  • ガイドライン3本
  • RCT 5本
  • メタ解析2本
  • 自分のメモ

を入れて、まとめて質問するような使い方に向いています。 50ソース上限内なら、ひとつの研究テーマや学会発表準備にはまず足ります。


Consensus

Consensusは、研究疑問に対して、論文ベースでざっくり答えを見たいときに便利です。 Consensusは査読文献を検索・分析するAI research search engineで、2.2億本以上の研究論文を対象にしていると説明されています。

たとえば、

Does dexmedetomidine reduce postoperative delirium?

みたいに聞くと、関連論文をもとに方向性を見せてくれます

ただし、これは最初の見取り図用です。 正式な文献レビューや論文執筆では、PubMed、Embase、Cochrane、原著確認が必要です。


ResearchRabbit

ResearchRabbitは、関連論文を地図のように広げて探すツールです。 論文や著者のつながりを可視化して、関連論文、引用関係、研究トレンドを追えると説明されています。

使い方としては、

  • この1本の重要論文から、周辺の論文を広げたい
  • この研究テーマの主要グループを知りたい
  • 引用関係で取りこぼしを減らしたい

というときに便利です。

Network view(ネットワーク図)とTimeline view(時系列図)の2種類があり、Similar work(類似研究)/ Earlier work(先行研究)/ Later work(後続研究)の3方向に広げていけます。


Rayyan

Rayyanは、システマティックレビューやメタ解析のスクリーニングに使うツールです。 タイトル・抄録スクリーニング、除外理由の管理、共同レビューなどに向いています。 Rayyanは、systematic reviewやliterature reviewで時間を節約するためのツールとして紹介されています。

普通の総説や症例報告では不要ですが、SRやメタ解析をやるなら候補になるでしょう。


注意:AIツールは便利だけど、最終確認係ではない

AIツールは本当に便利です。

でも、医学論文で大事なところは、最後は必ず自分で確認します。

  • 対象患者
  • 除外基準
  • 主要評価項目
  • 投与量
  • アウトカム定義
  • 統計手法
  • 95%信頼区間
  • p値
  • 有害事象
  • limitation

このあたりはAI要約を鵜呑みにしない方がよいです。

特に麻酔科領域では、 「低血圧」の定義ひとつでも論文によって違います

  • 収縮期血圧 < 90 mmHg
  • MAP < 65 mmHg
  • ベースラインから20%以上低下
  • 昇圧薬使用を低血圧扱い

など、微妙に違います。

AIが「hypotension was reduced」とまとめていても、定義が違えば臨床的な意味も変わります。


個人情報・未公開データは入れない

もう一つ大事なのは、外部AIツールに何を入れるかです。

患者情報、未公開研究データ、院内資料、倫理審査前の研究計画書などは、安易にアップロードしない方がよいです。

便利さと情報管理は別問題です。

論文PDFや公開済み資料を読む用途から始めるのが安全です。


まとめ

さぬちゃん的な結論はこれです。

  • Elicit:読むべき論文を探して表にする
  • SciSpace:PDFを読んで理解する
  • scite:その論文が支持されているか反証されているか見る
  • EndNote:文献を管理してWordで引用する
  • NotebookLM:複数資料をまとめて研究ノート化する
  • Consensus:研究疑問の方向性をざっくり見る
  • ResearchRabbit:関連論文を地図のように広げる
  • Rayyan:SR・メタ解析のスクリーニングを管理する

最初から全部使う必要はありません。

まずは、

  • EndNote
  • + Elicit
  • + SciSpace
  • + scite

この4つで十分だと思います。

使い分けは、

  • Elicitで探す
  • SciSpaceで読む
  • sciteで疑う
  • EndNoteで引用する

です。

AIツールは、論文を読まなくてよくする道具ではなく、 読むべき論文を早く見つけて、読む精度を上げる道具です。

この距離感で使うと、かなり実用的と感じるとおもいます。では

 

参照URL

EndNote 2025

Elicit

SciSpace

scite

NotebookLM

Consensus

ResearchRabbit

Rayyan