masuika.org つれづれぶろぐ

さぬちゃんの麻酔科医生活


全身麻酔中のベンチレーターモード攻略【中編】片肺換気&気胸にPRVCで立ち向かえ!

こんにちは、さぬちゃんです。前編ではVC、PC、PRVCの基本を整理しました。

今回はお待ちかね、

「腹臥位食道手術で気胸を起こして片肺換気にしたとき、モードをどう考えるか」

に答えます。

4. 片肺換気(OLV)の目標は「優しいガス交換」

まず大原則の確認です。分離肺換気中は、換気側の肺ひとつだけで酸素化とCO₂排出をまかなう必要があります。残された片方は、フル稼働を強いられるブラック企業並みの肺ですね。

そんな肺をいたわるための3つの鉄則があります。

  1. 低容量換気:予測体重あたり 5–6 mL/kg のVt
  2. 適切な PEEP:虚脱を防いで酸素化を改善(5–8 cmH₂O が目安、またはΔPが最小になるよう個別化)
  3. プラトー圧とドライビングプレッシャーの制限:ΔPを 15cmH₂O より低く

この3つこそ、まさに PRVC(VC-AF)がバッチリ使える場面です。

 

5. なぜPCだけではダメなのか

術中の片肺換気では、腹臥位+開胸操作が重なって、換気側肺のコンプライアンスが10分単位でコロコロ変わります

PCで圧を固定していると、こんなことが起こります。

  • コンプライアンスが良いとき → Vtが出すぎて肺を傷める
  • コンプライアンスが悪くなったとき → Vtが出ずに高二酸化炭素血症

「ちょっと圧を下げよう」と手動で調整しているうちに、術者の愛のこもった圧排で再びコンプライアンスが改善 → 過換気…というエンドレスサイクルになりがちです。

つまり、こまめな調整なしにVtを安定させ、同時に圧上昇も防ぎたいならPRVC一択ということです。前編の図③が示す通り、PRVCは呼吸ごとに圧を自動で調整してくれるので、コンプライアンスが変動する場面でも目標Vtを安定して出してくれます。

6. では、純粋なPCが活きる場面は?

「PCはもう使わないほうがいいんですか?」という質問もよく出ます。

そんなことはありません。PCが光る場面もちゃんとあります。

  • 短時間で肺が安定している局面
  • 陽圧換気でガス漏れが増える気管支瘻
  • 圧損傷が怖い新生児

ただし共通して言えることは、「Vt変動ありき」を理解したうえで、ETCO₂を見ながらこまめに調整できる状況に限られるということ。

"とりあえずPC" は研修医の落とし穴です。覚えておいてください。

7. 気胸に気づく武器:ΔP(ドライビングプレッシャー)

腹臥位食道手術で気胸が発生すると、換気側の胸腔内圧がどんどん上がって肺が潰れていきます。怖いですよね。

PRVCを使っていれば、設定Vtを保つために吸気圧が自動的に上昇し、ΔPが急に16、18、20 cmH₂Oと上がっていきます。「あれ? コンプライアンスが急に落ちている?」と、アラームが鳴る前に違和感を持つことができるんです。

PCだけだと、Vtが100 mL台にまで落ちてから「換気できていない!」と気づくことになります。事後対応より、事前察知のほうがずっとラクですね。

実戦例:食道がん、腹臥位、左側臥位での右片肺換気

項目

設定

モード

VC-AF(PRVC)

目標Vt

300〜350 mL
(予測体重60 kgの5〜6 mL/kg)

呼吸回数

14〜16 回/分

I:E比

1:2〜2.5

PEEP

7 cmH₂O(非換気側にもCPAP 3〜5)

上限圧

30 cmH₂O(それ以上は要確認)

そしてモニター表示のΔPを常にチラ見します。

ΔP 12以上なら要注意、14を超えたら原因検索というイメージです。

これで気胸の増悪、チューブ位置異常、分泌物貯留などを早期にキャッチできます。

エビデンスもしっかりあります。

  • Parkら(Anesthesiology 2019)駆動圧を最小化するPEEP設定を行うことで、術後肺合併症が半分以下(12.2%→5.5%)に減少
  • Puら(Int J Clin Exp Med 2014
    PCV-VGのほうがVCより有意に気道内圧が低く、酸素化も良好

感覚論ではなく、ちゃんと裏付けがあります。

まとめ(中編)

  • 片肺換気の合言葉は「低容量・適正PEEP・ΔP制限
  • PRVC(VC-AF)なら、Vtを保ちながらΔPを最小限に抑えられる
  • 気胸の早期発見にも、ΔPは最高の武器になる
  • PCは使い所を選ぶプロ仕様。初手で振り回す道具ではない

ここまでで「片肺換気のモードどうする?」の答えはわかりましたね。

References

[1]Park M, et al. Driving Pressure during Thoracic Surgery: A Randomized Clinical Trial. Anesthesiology. 2019;130(3):385–393.

[2]Ahn HJ, et al. Driving pressure guided ventilation. Korean J Anesthesiol. 2020;73(3):194-204.

[3]Pu J, et al. Applications of pressure control ventilation volume guaranteed during one-lung ventilation in thoracic surgery. Int J Clin Exp Med. 2014;7(4):1094-1098.

[4]Batchelor TJP, et al. Guidelines for enhanced recovery after lung surgery: recommendations of the Enhanced Recovery After Surgery (ERAS®) Society and the European Society of Thoracic Surgeons (ESTS). Eur J Cardiothorac Surg. 2019;55(1):91-115.

[5]Braïk R, et al. Comparison of low vs high tidal volumes in one-lung ventilation during thoracic surgery: a propensity-weighted cohort study. Sci Rep. 2025;15:16171.

[6]Campos JH, Sharma A. What is the Ideal Tidal Volume During One-Lung Ventilation? J Cardiothorac Vasc Anesth. 2023;37(10):1993-1995.

[7]Yin Y, Du J. Higher versus lower positive end-expiratory pressure during one-lung ventilation for thoracic surgery: a systematic review and meta-analysis. Front Surg. 2026;13:1838287.