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さぬちゃんの麻酔科医生活


全身麻酔中のベンチレーターモード攻略【前編】VC・PC・PRVC、結局どれを使う?

こんにちは、さぬちゃんです。

「先生、ベンチレーターのモード、多すぎて何がなんだかわかりません」

手術室でキラキラした眼差しで聞いてくる研修医くん。

この、よくある質問をまとめて整理します。

「PCは最初だけ?」「PRVCって何?」「そもそもVCとの違いは?」

今回はそこから出発して、腹臥位食道手術で気胸+片肺換気になったときの考え方、さらには覚醒時のPSVまで、3回にわけて解説します。少し長丁場になりますが、お付き合いください。

 

まずはモード別の波形を1枚にまとめた図を見てみましょう。これから説明する4つのモード(VC・PC・PRVC・PSV)の圧と流量パターンを、わかりやすい図にしてみました(エッヘン)。

人工呼吸モード別の圧・流量パターン比較

図:各モードでは 圧(青)と 流量(赤) のかたちが対照的に変わる
① VC:流量を矩形波で送るので、圧が直線的に上がる
② PC:圧を矩形波で当てるので、流量は減速波になる
③ PRVC:見た目はPCと似ているが、目標Vt達成のため呼吸ごとに圧を自動調整
④ PSV:患者がトリガしてからサポート圧、流量がピークの約25%まで落ちたところで呼気に移る

 

ではひとつずつ整理していきましょう。

 

1. まずは基本モード:量規定(VC)圧規定(PC)

昔ながらの麻酔器のモードは、おおむねこの2つに集約されます。

■ Volume Control(VC:量規定換気)

「1回換気量(Vt)を〇〇 mLに決めて送る」モードです。設定したVtを強制的に送り込むので、肺が硬くなってもお構いなしにガスが入っていきます。図の①VCを見てください。流量は矩形波(一定流量)、それに伴って圧は直線的に上昇していますね。

・メリット:Vtが保証される → PaCO₂の管理がしやすい
・デメリット:肺コンプライアンスが落ちたとき(気胸や腹臥位で胸郭が硬くなったとき)に気道内圧が跳ね上がって圧損傷リスクがある。アラームが鳴り始めて、ヒヤッとする

■ Pressure Control(PC:圧規定換気)

「吸気圧をここまで!」と上限を決めて、あとは患者さんの肺におまかせするモード。図の②PCのとおり、圧は矩形波で一定に保たれ、流量は減速波(最初にドバッと入って徐々に減る)になります。

・メリット:圧を制限できるので、気道内圧を上げたくない場面(新生児や肺が漏れそうなとき)に安心
・デメリット:Vtが保証されない。術中に肺が硬くなると、設定圧では十分なVtが出なくなり、分時換気量が落ちてCO₂がうなぎ登りになることも

ここで質問の核心です。「PCは最初はいいけれど、ずっと同じ圧で換気が維持できるわけではないですよね?」――まさにその通り!

とくに腹臥位の食道手術のように、手術操作や気胸でコンプライアンスがコロコロ変わるとき、PCだけではVtが安定せず、こまめに設定圧を調整する必要が出てきます。忙しい術中、これは地味にストレスですよね。

 

2. そこで登場するのがハイブリッド救世主 PRVC(VC-AF)

PRVC(Pressure Regulated Volume Control) とは、ひと言で言うと

目標Vtを決めたら、それを達成できるギリギリの低い圧を自動で調整してくれる、ありがたいモード

 

ドレーゲル社の麻酔器ではVC-AF(Volume Control – AutoFlow)、GEでは  PCV-VG(Pressure Control Ventilation - Volume Guaranteed)、その他VC+などと呼ばれています。名称はバラバラですが、中身はだいたい同じ仲間です。

仕組みはこんな感じです。

1. 1回目の呼吸はVCで換気して、気道抵抗やコンプライアンスを測定
2. 次の呼吸からはPCのように 減速波で圧をかけていく
3. Vtが足りなければ次の呼吸で吸気圧をわずかに上げ、多すぎれば下げる

つまり「肺の状態に合わせて必要最低限の圧で目標Vtを届ける賢いモードなんです。図の③PRVCを見てください。定常状態に入った後のPRVC(呼吸ごとに圧が変化する様子)を描いています。波形そのものはPCに似ていますが、1呼吸目と2呼吸目で圧の高さが違うことに注目してください。これが「呼吸ごとに自動調整」の正体です。VCのいいところとPCのいいところを合体させたモードです。

肺が硬くなっても自動で圧を調整してくれるのでVtが安定します。しかも上限圧を設定しておけば、異常な高圧にはならない安心設計です。

 

3. PRVC(VC-AF)で何を監視するのか

私が強くお勧めしたいのが、ドライビングプレッシャー(ΔP)の監視です。

> ΔP = プラトー圧 - PEEP

これは肺の「真の硬さ」を反映する指標で、極めて重要です。

  • Amato 先生の有名な論文(N Engl J Med 2015)[1] をはじめとする近年の研究から、ARDS の患者さんでは ΔP を 15 cmH₂O 未満に保つことが重要とされています
  • 麻酔中の人工呼吸全般でも、駆動圧が高いほど術後肺合併症が増えることが、Serpa Neto先生らの大規模個別患者データメタ解析(Lancet Respir Med 2016)[2] で示されました(17のRCT・2250例で、駆動圧が1単位上がるごとに術後肺合併症のオッズが1.16倍)
  • そして片肺換気下の胸部外科でも、駆動圧最小化PEEP戦略をとった群で術後肺合併症が有意に減ることを、Park先生らがランダム化比較試験で証明しました(Anesthesiology 2019)[3]

PRVCやVC-AFは、設定Vtを送るのに必要な圧が自動で変わります。だからこそモニターに表示される ΔPを見れば「いま、肺にどれだけ負担がかかっているか」が一目瞭然になるわけです。

たとえば気胸が悪化してコンプライアンスが落ちたとき、ΔPはじわじわ上昇します。「あ、これはまずい」と早期に気づくことができ、胸腔ドレーンを確認したり、術者に手を止めてもらったりといった対応が打てます。PCだけだとVtが減るだけなので、気づくのがワンテンポ遅れると考えています。

 

まとめ(前編)

- PCオンリーは一見肺保護的に見えますが、肺が硬くなると換気不全になるため一手間が必要
- PRVC(VC-AF)は目標Vtを保証しながら、必要最低限の圧で換気してくれる
- ΔPを日常的に監視することで、肺に優しい管理ができ、トラブルの早期発見にもつながる

 PRVCやVC-AFを使ってドライビングプレッシャーを監視する方針は、文献的にも理にかなった現代的な戦略です。

文献 

[1] Amato MBP, et al. Driving pressure and survival in the acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med. 2015;372(8):747–755.
DOI: https://doi.org/10.1056/NEJMsa1410639
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25693014/

[2] Serpa Neto A, et al. Association between driving pressure and development of postoperative pulmonary complications in patients undergoing mechanical ventilation for general anaesthesia: a meta-analysis of individual patient data. Lancet Respir Med. 2016;4(4):272–280.
DOI: https://doi.org/10.1016/S2213-2600(16)00057-6
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26947624/

[3] Park M,  et al. Driving Pressure during Thoracic Surgery: A Randomized Clinical Trial. Anesthesiology. 2019;130(3):385–393.
DOI: https://doi.org/10.1097/ALN.0000000000002600
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30664548/