こんにちは。さぬちゃんです。
最近、週末ごとにMac miniとBeelink GTR9 Proを並べてローカルLLM(大規模言語モデル)環境を構築する沼にどっぷりハマっておりまして、気がつけばデスクの上がちょっとしたデータセンターみたいになってきました(笑)。AIの進化スピードにはまったく目が離せませんが、よく考えてみれば——私たち麻酔科医が日々向き合う「医療のスタンダード」も、同じくらいのペースでアップデートされ続けているんですよね。
そこで今日のお話です。術後病棟管理で、いま世界的なスタンダードになりつつある早期警告スコア、NEWS(National Early Warning Score) のアップデートについて、麻酔科医の視点から整理してみようと思います。
「NEWSって、病棟管理の話でしょ?麻酔科には関係ないんじゃないの?」と思われた方、ちょっと待ってください。これ、実は私たち麻酔科医の日常業務にも、がっつり関わってくる話なんです。
日本麻酔科学会とESAICのガイドラインにおけるEWSの位置づけ
まず押さえておきたいのが、NEWSやNEWS2に代表される早期警告スコア(EWS: Early Warning Score)は、すでに国内外の重要なガイドラインにしっかり組み込まれているという事実です。
🇯🇵 日本麻酔科学会のガイドライン
日本麻酔科学会の
『抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン』
をご覧になったことはありますか? この中で、手術室からの退室基準として、明確にEWSの評価が推奨されているんです。
同ガイドラインの「ステップ5:退室前確認」では、まずおなじみの 「4つのMUST」——つまり、
- 筋収縮の回復
- 自発呼吸の回復
- 従命可能
- 抜管後の上気道維持
——の達成を確認した上で、さらにEWSの評価が求められています。
ここがポイントなんですが、「4つのMUSTがクリアできたからOK」と安心するのではなく、EWSが5点や7点など高値を示している場合には、病棟に対して厳重な申し送りを行うなど、具体的なアクションにつながる指標としてEWSが機能しているわけです。退室「基準」というより、退室後の「リスク評価」に使っている、というイメージでしょうか。
🔗 日本麻酔科学会『抜管から術後早期までの気道管理ガイドライン』(本編PDF)
🇪🇺ESAICの動向
一方、海の向こう——欧州麻酔集中治療学会(ESAIC)のガイドラインや公式声明でも、術後病棟で起こる予期せぬ急変、いわゆる Failure-to-rescue(救命失敗) を防ぐための「Track and Triggerシステム」として、EWSが強力に推奨されています。
そして現在、世界的に旧版のNEWSから 「NEWS2」 への移行が進んでいます。
では、旧NEWSから「NEWS2」になって、一体何がどう変わったのでしょうか? 麻酔科医の視点から、私が「これは押さえておきたい!」と感じた変更点を3つにまとめてみました。
【変更点①】
意識レベル評価が「AVPU」から「ACVPU」へ進化
個人的に、周術期管理において最もインパクトが大きいと感じている変更点がこれです。
従来の意識レベル評価は「AVPU(Alert, Voice, Pain, Unresponsive)」というシンプルな4段階でした。しかしNEWS2では、ここに 「C(New Confusion:新たな意識混乱)」 が追加され——
| 旧 NEWS | NEWS2 | |
|---|---|---|
| 意識レベル | A V P U | A C V P U |
「ACVPU」 へと進化したんです。
なぜ「C」が追加されたのか?
これ、非常に重要です。
ESAICは近年、術後せん妄(POD: Postoperative Delirium)や術後認知機能障害(POCD) の予防を、極めて重要な臨床課題として位置づけています。NEWS2では、この「新たな意識混乱(C)」が観察された時点で、血圧や呼吸などのバイタルサインが安定していても即座に「最高リスクの3点」が加算される仕組みになっています。
これが何を意味するか——単に生理学的な破綻(血圧低下や低酸素血症など)だけでなく、術後の脳機能障害(せん妄の兆候)を病棟看護師がいち早くスクリーニングし、麻酔科医や主治医にアラートを上げる仕組みが、スコアの中に取り入れられたんです。
私たちが全身麻酔を担当した患者さんが、術後にせん妄を起こしてしまうことは決して珍しくありません。「C」が加わったことで、そのキャッチが少しでも早くなる——これは現場にとって本当にありがたい進化だと、私は感じています。
【変更点②】
SpO₂の評価スケールが「2つ」に分かれた
もう一つの大きな変更点は、慢性呼吸器疾患をもつ患者さんへの配慮です。
旧NEWSではSpO₂の評価基準はひとつしかなく、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などで普段からSpO₂が低め(88〜92%程度)の患者さんに対しても、一律に「低酸素」として高いスコアがついてしまっていました。
これでは病棟で不要なアラートが鳴り続け、いわゆる アラーム疲労(alarm fatigue) の問題が起きてしまいます。鳴り続けるアラームは、やがて無視されてしまう(アラーム慣れ)——これ、医療安全上とても怖いことですよね。
そこでNEWS2では、SpO₂のスケールが 2種類 用意されました。
✅ スケール1(通常用) SpO₂ 96%以上を正常(0点)とする、従来どおりの基準。
✅ スケール2(高炭酸ガス血症性呼吸不全のリスクがある患者用) あらかじめターゲットSpO₂を「88〜92%」に設定し、88〜92%を正常(0点)として評価。さらに——ここが秀逸なのですが——酸素を投与しすぎてSpO₂が93%以上になった場合にもスコアが加算される仕組みになっています。
つまり、不用意な酸素投与によるCO₂ナルコーシスを防ぐ仕組みが、スコアの中にきっちり組み込まれているんです。これにより、基礎疾患に応じたより精度の高いトリアージが可能になりました。まさに画一的な評価(one size fits all)からの脱却です。
【変更点③】
「酸素投与の有無」のスコア化がより明確に
旧版でも酸素投与の有無は評価されていましたが、NEWS2では評価フローの中でより明確な位置づけとなり、「ルームエアーか、酸素投与か」という項目で、酸素を使用していれば 「2点」が加算される仕組みが整理されました。
「酸素を使っている=何かしらの呼吸サポートが必要な状態」ということで、リスクが一段階上がると解釈されます。これは、直感的にも理解しやすいと思います。
【参考】NEWS2 スコアリング一覧表
ここまでの変更点を踏まえた、NEWS2の全体像を一枚の表にまとめました。
📋 NEWS2 スコアリングチャート
| 生理学的パラメータ | 3点 | 2点 | 1点 | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 呼吸数(回/分) | ≤8 | — | 9–11 | 12–20 | — | 21–24 | ≥25 |
| SpO₂ スケール1(%) | ≤91 | 92–93 | 94–95 | ≥96 | — | — | — |
| SpO₂ スケール2(%) ※高CO₂血症性呼吸不全リスク患者用 |
≤83 | 84–85 | 86–87 | 88–92 (またはroom airで≥93) |
93–94 (酸素投与中) |
95–96 (酸素投与中) |
≥97 (酸素投与中) |
| 酸素投与の有無 | — | 酸素投与中 | — | room air | — | — | — |
| 収縮期血圧(mmHg) | ≤90 | 91–100 | 101–110 | 111–219 | — | — | ≥220 |
| 脈拍(回/分) | ≤40 | — | 41–50 | 51–90 | 91–110 | 111–130 | ≥131 |
| 意識レベル(ACVPU) | — | — | — | A(Alert) | — | — | C / V / P / U (意識混乱・呼名反応・痛み刺激反応・無反応) |
| 体温(℃) | ≤35.0 | — | 35.1–36.0 | 36.1–38.0 | 38.1–39.0 | ≥39.1 | — |
🔸 ポイント①:旧NEWSからの大きな変更は、意識レベルに「C(New Confusion/新たな意識混乱)」が追加、そしてSpO₂に スケール2 が新設された点。 🔸 ポイント②:酸素投与中は、それだけで +2点 が加算される(スケール1・2のSpO₂スコアとは別途)。 🔸 ポイント③:「新たな意識混乱(C)」が1つでも該当すると、その項目だけで 3点 が加算される。
📋 NEWS2 トリガー値と臨床対応の目安
合計スコアから、病棟ですべきことが決まります。
| 合計スコア | リスク分類 | 観察頻度 | 対応レベル |
|---|---|---|---|
| 0 | 低リスク | 最低12時間ごと | 通常観察 |
| 合計1〜4 | 低リスク | 4〜6時間ごと | 看護師による評価 |
| いずれか1項目で3点 (Redスコア) |
低〜中リスク | 最低1時間ごと | 医師へ緊急コール |
| 合計5〜6 | 中リスク | 最低1時間ごと | 医師による緊急評価 (クリティカルケア能力のあるチームが望ましい) |
| 合計7以上 | 高リスク | 持続モニタリング | 緊急対応チーム招集 HCU/ICUレベルのケアを検討 |
※RCP(Royal College of Physicians)のNEWS2推奨プロトコルを参考に作成。各施設でのローカライズ(救急コール基準や申し送りルール)と組み合わせて運用するのが現実的です。
術後申し送りの場面で、「合計スコア◯点、そのうちC(新たな意識混乱)で3点上乗せ」といった形で伝えられると、受け手の病棟看護師も次のアクションを即座にイメージできる——こういう「共通言語」として、NEWS2はとても優秀なツールだと思います。
まとめ
NEWS2は「術後病棟の安全網」をより強固にする
ESAICがNEWS2(およびそれを用いた持続モニタリング)を推奨する背景には、「病棟での間欠的なチェックだけでは、患者の急変サインを見逃してしまう」という強い危機感があります。
NEWS2へのアップデートは、単なる数字の変更ではありません。
- 術後せん妄(C)の早期発見
- 呼吸器疾患患者における誤検知の防止(SpO₂スケール2)
——という、臨床現場で私たちがまさに直面している課題をクリアするための、とても実用的な進化なんです。
さらに付け加えると、2026年(令和8年)の診療報酬改定に向けて、手術室の稼働率アップや効率化がますます求められていく中、早期に患者さんを安全に病棟へ帰室させ、かつ急変を防ぐためのツールとして、もはやNEWS2の概念は麻酔科医にとっても必須の知識と言えるでしょう。
自施設の電子カルテの看護記録や退室基準が、まだ旧NEWSや独自の基準に留まっているようでしたら、ぜひこれを機に「NEWS2」の導入やアップデートを検討してみてはいかがでしょうか。周術期チームで共通言語を持つ——これは立派なチーム医療の形だと思っています。