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さぬちゃんの麻酔科医生活


麻酔科学サマーセミナーとは何か:22回全出席の世話人が語る、日本全国の麻酔科医のオフラインミーティング

「麻酔科学サマーセミナーって何ですか?」

「サマーセミナーって、学会なんですか? セミナーなんですか? それとも……遊びですか?」

答えは、そのすべてです。そしてそのどれでもない、唯一無二の存在です。

麻酔科学サマーセミナーは、2004年の第1回開催以来、毎年夏に沖縄で開催されている「日本全国の麻酔科医のオフラインミーティング」です。私は第1回から第21回(2025年)まで、世話人として全回出席してきました。この間、一度も欠かしたことはありません。今年(2026年)の第22回も出席予定です。

なぜ、そこまでして毎年沖縄に通い続けるのか。ここでは、その理由を語りたいと思います。


麻酔科学サマーセミナーの基本情報

正式名称: 麻酔科学サマーセミナー(Summer Seminar in Anesthesiology)

開催年: 2004年~(年1回開催。2020年はCOVID-19の影響で延期し、翌2021年に第17回として開催)

会場: 沖縄県名護市の万国津梁館(ばんこくしんりょうかん)を中心に開催。第15回・第16回は沖縄科学技術大学院大学(OIST)で開催。それ以前には、宮古島(第3回、第7回)や石垣島(第5回)で開催されたこともあります。

会期: 2泊3日(金曜日〜日曜日、または3連休に合わせて開催)

参加者数: 200名超(第12回の実績)

公式サイト: https://www.masui-seminars.org/

万国津梁館は、2000年の九州・沖縄サミットで首脳会合が行われた場所です。東シナ海を見渡す部瀬名岬の先端にあり、琉球瓦や琉球石灰岩をあしらったその建物は、初めて訪れた人の誰もが息を呑みます。隣接するザ・ブセナテラスに宿泊、この贅沢な空間で麻酔を語る。それだけで十分に参加する価値があります。


なぜ「オフラインミーティング」なのか

普通の学会とサマーセミナーの最大の違いは何か。それは、参加者同士が本音で語り合えるということに尽きます。

通常の学会は、大きな会場で何百もの演題が並行して走り、知っている人にすれ違っても挨拶だけで終わることが少なくありません。年次の大きさ、肩書きの有無で、なんとなく見えない壁ができてしまいます。

サマーセミナーは違います。

参加者の麻酔経験年数、職種、施設の規模に関わらず、全員がフラットに議論できる。研修医が教授に堂々と質問し、企業の方と麻酔科医が対等にディスカッションする。それが当たり前の空間がここにはあります。

沖縄の開放的な雰囲気が、そうさせるのかもしれません。スーツを着た参加者はいません。かりゆしウェアやアロハシャツが正装です。むしろ、ネクタイ着用は禁止です。

若手の先生に伝えたいのは、この「フラットさ」は本物だということです。普段の自分の施設では聞きにくい素朴な疑問を、ここでは誰にでもぶつけられる。教科書に書いていない現場の知恵、あの先生が本当はどうやって麻酔をかけているのか──そういう話が、沖縄の風に乗って自然と飛び交うのです。

セミナーの構成──学びと交流の黄金比

サマーセミナーは、ただ遊んでいるわけではありません。プログラムは極めて充実しています。

学術セミナー: メインのセッションでは、気道管理やモニタリングなど、麻酔科医にとって核心的なテーマを取り上げます。恒例の「バトルオンセミナー」では、異なる立場の演者がガチンコで議論を戦わせる。ビデオ喉頭鏡、声門上器具、意識下挿管など、誰もが関心を持つテーマが並びます。座長も演者もヒートアップするこのセッションは、参加者が一番前のめりになる時間帯です。

一般演題(ポスターセッション): 全国から寄せられる一般演題もサマーセミナーの見どころです。優秀演題にはベストプレゼンテーション賞が授与されます。一般部門と研修医部門があり、若手の登竜門としても機能しています。過去の受賞者には、その後各地で活躍している先生方がたくさんいます。初めての学会発表がサマーセミナーだったという先生も珍しくありません。大規模学会より緊張が少なく、しかし質の高いフィードバックが返ってくる。ファーストプレゼンテーションの場として、これ以上の環境はないと思っています。

そして、意外と知られていない重要なポイントがあります。麻酔科学サマーセミナーの書誌事項は医学中央雑誌(医中誌Web)に採択・収録されています。つまり、ここで発表した演題は医中誌の文献検索に現れるのです。「リゾート地の気楽なセミナーでしょ?」と思われるかもしれませんが、発表の履歴はきちんと学術的な記録として残ります。研修医の先生にとっては、自分の名前が医中誌に載る最初の機会になるかもしれない。履歴書の業績欄にも堂々と書ける、正真正銘の学術発表です。楽しみながら、キャリアにもプラスになる。これがサマーセミナーのお得なところです。

ハンズオンセミナー: 気道管理セミナーやBLSセミナー、第20回以降には神経ブロックのハンズオンセミナーが実施されています。こうした実技を伴うセッションは、大規模学会では参加枠がすぐに埋まってしまいますが、サマーセミナーの規模感だからこそ、じっくり学べるのです。ハンズオンの参加に漏れたとしても見学のみも可能です。インストラクターとの距離が近いので、手技のコツを直接聞けるのもサマーセミナーならではです。

企業展示: 参加企業によるプレゼンテーションも見逃せません。企業展示賞やラウンドセッションがあり、すべての企業ブースを参加者全員が巡るツアー形式は他の学会にはないユニークな仕組みです。また、企業にとっても参加者との距離が近いため、詳しく紹介できるメリットがあります。新しいデバイスや機器を実際に手に取って、メーカーと直接話せる機会は貴重です

情報交換会(第2日目): ここが肝です。沖縄の地酒を片手に、昼間のセッションで語り足りなかったことを語り合う。名刺交換で終わるような表面的な交流ではなく、本当の意味での人脈がここで生まれます。普段はSNSでしか知らなかった先生と初めて会い、「あの投稿の先生ですか!」と盛り上がる場面も、最近では日常風景です。

ウェルカムパーティー(第1日目): オプションですが、50名限定でサマーセミナーの初日を堪能できる交流会です。ここでも、多くの仲間ができます。第2日目の情報交換会とは異なった、さらにカジュアルな雰囲気です。初参加の方にこそおすすめしたい。翌日からのセミナーで話しかけやすい顔見知りができると、3日間の充実度がまるで違います。

 

フォトコンテスト: 第11回から始まったフォトコンテストは、参加者が沖縄で撮影した写真で競い合う企画です。最優秀作品は、表彰されます。全国の病院で優秀な気管挿管をしている先生方が、カメラでも素晴らしい腕前を発揮するのは、観察眼が鋭い証拠かもしれません。近年は、WEB投稿ができスマホによる写真も多数出品されています。スマホひとつで参加できるので、写真に自信がなくても気軽にチャレンジしてみてください。沖縄の風景が被写体なら、誰でもそれなりに見映えのする写真が撮れるものです。


リフレッシュタイム──沖縄でしかできないこと

セミナーの合間には「リフレッシュタイム」が設けられています。ダイビング、シュノーケリング、ビーチ散策、そして沖縄の美しい海を眺めながらのんびり過ごす時間。

「麻酔、ときどきダイビング!」──これは第7回の印象記のタイトルですが、この一言がサマーセミナーの本質をよく表しています。

ブセナの透き通った海に飛び込んで、熱帯魚と泳いだ直後に、最新のモニタリング技術の講演を聴く。この振れ幅こそがサマーセミナーの醍醐味です。リフレッシュタイムのおかげで頭がリセットされ、午後のセッションが不思議なほどよく頭に入る。遊びと学びは対立するものではなく、むしろ相乗効果を生むのだということを、サマーセミナーは教えてくれます。

最高の学びと最高のリフレッシュ。この組み合わせがあるからこそ、毎年リピーターが絶えないのです。


22年の歩み──私が見てきたもの

第1回(2004年7月)。手探りの中で始まったこのセミナーは、正直なところ、ここまで続くとは思っていませんでした。しかし、回を重ねるごとに参加者は増え、内容は充実し、コミュニティは成長していきました。

忘れられないのは2020年、COVID-19によってセミナーの開催が延期になったことです。この回は、私が代表世話人を務めていました。2021年の第17回は、沖縄が緊急事態宣言下にある中での唯一のハイブリッド開催でした。WEB参加者にも特製ストラップを送り、ZOOM情報交換会を開催し、なんとかして「つながり」を維持しようと奮闘しました。

あの経験を経て、改めて感じたのは、オフラインで会うことの価値です。画面越しに伝わるものと、同じ空間で感じるものは、やはり違う。サマーセミナーが大切にしてきた「本音のディスカッション」は、結局のところ、同じ場所に集まってこそ生まれるのだと確信しました。

LiSA誌には、第4回以降のほぼ毎回の印象記が掲載されています。それぞれの筆者が、初参加の緊張、出会いの感動、そして沖縄の自然に癒された思いを率直に綴っています。「よく学び、よく遊び、よく食べ、そしてよく飲み、話しましょう」──第4回の印象記タイトルですが、これがまさにサマーセミナーの精神そのものです。どの印象記を読んでも、書き手の興奮がそのまま伝わってきます。

若手の先生へ──「自分なんかが行っていいのか」と思っているあなたへ

「自分はまだ研修医だから」「発表するネタもないし」「知り合いもいないし」──そう思って参加をためらっている若手の先生へ。

はっきり言います。サマーセミナーは、あなたのような人のためにある場です。

このセミナーの最大の特徴は、参加のハードルが驚くほど低いことです。演題発表は強制ではありません。ポスターを出さなくても、聴くだけでも、十分に得るものがあります。もちろん、研修医セッションという発表の場も用意されていますから、挑戦したい人には最高の舞台になります。先ほども書きましたが、発表すれば医中誌に収録されます。沖縄の海風の中で発表した演題が、全国の文献検索でヒットする──なかなか痛快ではありませんか。

そして何より、「一人で来ても大丈夫」です。サマーセミナーの空気は、一人参加の人を自然と巻き込んでくれます。ウェルカムパーティーで隣に座った人が、気づけば何年来の仲間になっている。そういうことが、本当に起こるのです。

ここで得られる人脈は、あなたのキャリアを確実に変えます。自施設だけでは見えない麻酔の世界の広さを知ること。全国で同じ悩みを抱えている同世代の仲間がいると知ること。その経験は、明日からの臨床に向かう気持ちを間違いなく変えてくれます。

第22回(2026年)に向けて

第21回(2025年7月)は、代表世話人の柴田正幸先生(前橋赤十字病院)のもと、台風の影響が心配されましたが天候にも恵まれ、全プログラムを無事終了しました。そして、第22回の2026年も万国津梁館での開催が予定されています。

22回目。2004年から数えて、干支が一回りしてもまだ余る年月です。その間に、研修医だった参加者が指導医になり、地方の第一線で後進を育てている。サマーセミナーで出会った仲間と共同研究を始めた先生もいます。企業の方々との距離感も、この場でこそ縮まりました。

かつてサマーセミナーに初めて来た研修医が、今では代表世話人を務めている。そういう循環が生まれていることが、このセミナーの最大の成果かもしれません。

最後に──なぜ私は22回通い続けるのか

サマーセミナーの価値は、一言で言えば「人と人のつながり」です。

全国に散らばる麻酔科医が、年に一度、沖縄に集まる。北海道から九州まで、大学病院から市中病院まで、ベテランから研修医まで。普段の臨床では出会わない人たちと出会い、自分の麻酔を振り返り、新しいアイデアを持ち帰る。

オンラインでは得られない、空気感や偶然の出会いがある。セッションの合間に廊下で交わした何気ない一言が、臨床の疑問を解決してくれることがある。懇親会の席で意気投合した先生と、その後何年も症例を相談し合える関係になることがある。

22年間、私はこの場で数え切れないほどの出会いに恵まれてきました。そのひとつひとつが、自分の麻酔科医人生を豊かにしてくれたと断言できます。だから、来年も再来年も、体が動く限り沖縄に行く。それが私の答えです。

それが、麻酔科学サマーセミナーです。

日本全国の麻酔科医のオフラインミーティング。もし、まだ一度も参加したことがない先生がこのブログを読んでくださっているなら、ぜひ今年の夏、沖縄に来てください。かりゆしウェアを着て、新調した名刺を多めに持って、水着もスーツケースに入れて。

万国津梁──世界の架け橋。そこで、麻酔科医療の未来をともに語りましょう。

第22回麻酔科学サマーセミナーで、お会いできることを楽しみにしています。


讃岐美智義(NHO呉医療センター麻酔科)
麻酔科学サマーセミナー世話人 第1回~第21回 全回出席

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