1日だけ夏休みをもらって、いろいろ思いを巡らしている。気持ちがゆっくりしているときに思いつくアイデアは本物だ。そんな中で、自動麻酔記録についての考えをまとめた。
自動麻酔記録とは何か?その最低条件というか、どの様な機能を持っていれば自動麻酔記録と言えるのかを考える。
最も大切なのは、生体情報モニターの数値データを一定間隔で取り込んで麻酔チャートのグラフを描くことである。一定間隔とは標準的には1分おきのことが多い。記録を清書する目的ならば、2.5分間隔か5分間隔であろう。1分未満(以下ではない)の頻度で取り込む場合には、その記録を航空機のフライトレコーダー的に使用する意図がある。ちなみに、当院は10秒間隔の数値データ取り込みである。数値とは、心拍数(HR)、血圧(NIBPとAP)、SpO2(%)、ETCO2(mmHg)、吸気と呼気酸素濃度(%)、体温(℃)=深部温は最低限の数値連携項目だろう。スパイロメーターや麻酔器から得られる気道内圧Paw(mmHg)(最高値、最低値を含むPEEP)、吸気および呼気の1回換気量VT(mL)、フローFlow(L/min)や心電図のST(mm)も今や標準的な取り込み項目だろう。しかし、生体情報モニターにスパイロがついていない場合や心電図のSTが表示されないモニターを使用している場合には、これらの記録は不可能になる。フライトレコーダー的な標準機能と思われる項目は、いわゆる生命の安全を保障するために監視するパラメータである。標準ではないが、心臓血管外科や大手術を行う場合には、心電図や動脈ライン波形、脳波波形、分離肺換気などを行う場合には、CO2やスパイロの連続波形なども取得、記録できれば貫壁であろう。
手術を行っているのだから、麻酔がうまくいっているかどうかを判定するための項目も手術中には監視する必要がある。ここが、病気や怪我で重症となった患者と全身麻酔で手術中の患者との大きな違いでもある。手術時の全身麻酔では、だれもが全身麻酔状態になるため、患者の状態のみを監視しても片手落ちなのである。すなわち、うまく麻酔薬が脳に作用しているか、筋弛緩薬は効いているか、シリンジポンプがきちんと動いていて静脈麻酔薬の投与は効果がある程度には行われているか、吸入麻酔薬はきちんと投与されているかを監視する必要があるのだ。脳波モニター(SedLine®、BIS®、エントロピー®などのいずれかの処理脳波)や筋弛緩モニター、シリンジポンプの投与速度(mL/h)からの静脈麻酔薬の血中濃度(計算値)および吸入麻酔薬濃度(吸気および呼気%)を数値として、連続的に記録・表示できることが、その場で麻酔をかけている麻酔科医の助けになるだけでなく、術中の麻酔記録として提示することにより医療記録としての正しい証拠を残すことになる。脳波モニターからの数値データ、筋弛緩モニターからの数値データは連携だけで記録・表示が可能になるが、静脈麻酔薬を投与しているシリンジポンプからのデータは、投与薬剤のPK/PD解析計算を行うことにより実現する(図の中段の血中濃度表示)。ただ、ディプリバン®のTCIポンプではポンプから出力される血中濃度データを連携すれば可能になる。
自動記録と言われる所以は、モニターや麻酔器、シリンジポンプのデータを連携して麻酔チャートにリアルタイムにグラフ表示するところにある。しかし、記録が自動でなされないものがある。ボーラス投与の薬剤投与記録や出血、尿量、イベント記録、観察記録や状態記録である。機械が通信機能(データ出力)を持っていない場合にも、読み取った数値を転記する必要がある。これらは手入力である。
ここで問題になるのは、モニターや麻酔器の時刻と自動麻酔記録装置の時刻、手入力項目の時刻の整合性がとれているかどうかである。これらをどう保障するかである。機械ものからの自動入力では、自動麻酔記録装置やモニターの時刻が院内のタイムサーバと連携して時刻同期を自動的にある程度頻回に行うが必要がある。モニター類で、時刻同期機能を持っていない機種に関しては、モニターからのデータが出力された時刻とそのデータが発生した時刻の監視をネットワーク上のサーバでおこなう必要がある(これは、通信経路によるタイムラグやタイムスタンプが前後した時の処理を考えると想像しただけでも大変である)。 手入力項目の時刻に関しては、リアルタイムに入力できる環境やしくみを備える必要がある。また、入力を行う麻酔科医にも、手入力項目に関しては、時刻の整合性を意識して入力することが求められる(教育が必要である)。
この時刻同期の問題を考えると、手入力項目であっても1分おきの時間管理ではどうしても表現できない。すなわち、イベントが起きたからその薬剤をボーラス投与したのか、その薬剤を投与したからイベントにつながったかは1分おきの記録では判断できない。1循環が1分程度であることを考えると、少なくとも30秒おきの入力、できれば5-10秒間隔で入力を管理できるものでなければならない。また、1分に1回の心電図からの心拍数表示では、その値が正時(00秒)のものなのか、00-59秒のいずれかの値なのかが判定できない。通常は、モニターから送信された時刻のものであるため、00秒ではない可能性が高い。自動血圧計の5分間隔測定のデータは、測定できる時刻は血圧によってまちまちである可能性があるため、測定できたときの値である。きっちり5分00秒おきとは限らない。これを、無理矢理5分00秒として管理しているのではなかろうか。
必要なのは、正時(00秒)に合わせることではなく正しい時刻に記録を残すことである。そのためには、1分おきにしかデータ出力がなされない場合であっても、秒単位の記録ができるべきである。手入力項目に関しても、1分単位のイベントなどはあり得ない。その行為を行ったのは分単位ではなく秒単位の記録が残せなければ、自動記録された数値との整合性がとれないのも理解は容易であろう。
自動麻酔記録を、清書マシンとしてのみ活用しているかどうかはデータの取り扱いがどの様な仕組みでなされているかを見てみればわかる。自動麻酔記録というのであれば、時刻同期や整合性の問題は少なくともクリアすべきである。この問題に関しては、大病院でも小病院でも、手術の長い短い、症例の重い軽いには全く関係ない。ネットワークを組んで運用しているかどうかにも関係ない。
自動記録として残すメリットとしては、症例のふりかえりがキチンとできるかどうかであろう。統計がデキルとか、データ活用ができるというのはどうでもいい施設であっても、過去の記録をストレスなく閲覧できて、その記録から麻酔経過を読み取ることがデキルかは必須であろう。これは、ファイリングの問題だけではなく、記録を開いた時に如何に容易にその症例記録から状況を読み取る工夫がなされているかが大切である。例えば、イベント記録や検査記録では、マウスを当てるだけでその詳細を表示したり、薬剤の投与では、その時の数値が表す意味(持続速度であったり積算量、あるいは血中濃度など)がわかるなどの配慮が必要である。記事(リマークス、挿管、抜管、退室時の状態記録など)に関しては、表示上は最初の部分しか表示されていなくてもマウスを当てるだけですべてを読むことがデキルことが必要である。ひとつの画面を開いて全体が閲覧できて、マウスクリックすることなく(マウスをあてるだけで)その詳細をキチンと表現できることが求められる。
ここまでできて、はじめて自動麻酔記録と言えると考えている。PaperChartでは、これをクリアーしているが、このレベルに追いついているメーカー製の自動麻酔記録は片手ほどもない!同じメーカー製のものであっても、できているものと全くお話にならないものがある!
自動麻酔記録をキチンとしたものにすべきと考えているため、全国の自動麻酔記録のメーカーさんには無料でアドバイスを行いたいと考えている。この記事を読んで、反省している企業の方々、自動麻酔記録を正しい道に導きたいと本気で考えている企業の方々の連絡をお待ちしています。
参考文献)