「キセる麻酔」をご存じだろうか.名称があまりよろしくないが,昔のキセル麻酔ではない.昔のキセル麻酔とは,VIP患者の麻酔を頼まれた部長先生?が,導入と覚醒の時だけいて,残りの麻酔維持(意識がない部分のみ)は部下に任せることをキセル麻酔と呼んだらしい.しかし,今の「キセる麻酔」は,これではない.キセる麻酔というのは,著者が定義した新しい言葉である.参考文献には「キセル麻酔」と記述したが,紛らわしので最近は「キセる麻酔」と書くことにした.「キセる麻酔」とは吸入麻酔薬で維持を行い、覚醒させるために吸入麻酔薬を強制的に排出させるために行うプロポフォールへ切り替える方法である.麻酔導入時にもプロポフォールを使用しているので始めと終わりのみプロポフォールを使用するという意味で,たばこの道具「キセル」(カンボジア語)に当てはめて命名した.
「キセる麻酔」では,吸入麻酔薬からプロポフォールに切り替えたことを「キセっている」と表現する.たとえば,「セボのキセるをしていたんだけど,手術が終盤になったので,もう,キセってます.」と言うように使う.
応用編に「ダブルキセル」というのがある。オピオイド(鎮痛薬)のキセルはもちろんだが、鎮静薬のキセルも行う。このことをダブるキセルと呼ぶ。フェンタ-アルチバーフェンタのキセルと、プロポフォールーセボフルレンープロポフォールである。鎮痛薬の方は、コストは度外視、鎮痛薬の方はプロポフォールの消費量を減らすためセボフルレン(2L/min中流量)を併用する。まあそこまでこだわらなくてもよいが、手術が長くても少々肝機能が悪くてもプロポフォールを500mg以内(導入時に用意したTCI用の50mlを1本)で終わらせるので覚醒が遅くなる心配は少ないし、無駄がない。最近は、ダブルキセルのオピオイドを上乗せ麻酔としているのでもっとお安い。学術的な意味づけはこれからであるが、アルチバの乗り換えの一つの方法として「上乗せオピオイド」はお手軽で先に書いたようなメリットが期待できると考えている。いかがだろうか。
全身麻酔のあらゆるフェーズで、麻酔薬を適切にのりかえて行うことで、患者および麻酔科医にやさしい麻酔をめざす
一つの麻酔薬に固執することなく全身麻酔を行うことが可能であるが、麻酔薬のきりかえ時には混在した状態が生じうるため、麻酔状態の変化にはの十分注意しなければならない。この状態を、モニタリングするためには、術中脳波モニターが必須である。
【参考文献】麻酔・救急・集中治療専門医の極意(新興交易医書出版) 貝沼関志 編著 ISBN4-88003-659-5
p.72-76 吸入麻酔薬でも時間通りに覚醒させる-「キセル麻酔」もやります- 讃岐美智義
1: Liang C, Ding M, Du F, Cang J, Xue Z. Sevoflurane/propofol coadministration provides better recovery than sevoflurane in combined general/epidural anesthesia: a randomized clinical trial. J Anesth. 2014 ;28:721-6.