麻酔科つれづれぶろぐ masuika.org

さぬちゃんの麻酔科医生活

PK/PDシミュレーターをmsanuki.com/PKPD/で公開しました

~ブラウザだけで動く、TCI・手動投与・CSHT/CSDT のオールインワン~

管理人です。ようやく公開にこぎつけた。

msanuki.com/PKPD/ に、PK/PDシミュレーターをアップした。今回は、インストール不要・登録不要・課金もなし。HTMLファイル1枚で動く、ブラウザ完結型のシミュレーターである。

iPhone でも iPad でも Android でも、Windows でも Mac でも Linux でも、URLをポチッと開けば、その場でTCIシミュレーションが走るというシロモノだ。「ホーム画面に追加」しておけば、もうネイティブアプリと見分けがつかない。

使い方は2通り

① ブラウザで直接アクセス

そのまま、https://msanuki.com/PKPD/ を開けばよい。 ネット環境さえあれば、それで終わり。一番楽である。

② ZIPをダウンロードして、ローカルで動かす

ネットが繋がらない手術室、院内のオフライン端末、自分のノートPC、勉強会の会場…そういう場所でも使えるように、msanuki.com/pub/PKPD_2026003.zip から ZIP ファイル一式をダウンロードできるようにした。

  1. ZIP ファイルをダウンロード
  2. 解凍する
  3. 出てきたフォルダを どこに置いてもよい(デスクトップでも USB メモリでも可)
  4. その中の index.html を、お使いのブラウザで開くだけ

サーバーは要らない。ネット接続も要らない。USB メモリに入れて持ち歩いて、会議室のPCで開いてもよい。

「手術室にはネットがない」「学会会場の Wi-Fi が遅い」「研修医に勉強会で配布したい」「電子カルテ端末からは外部URLにアクセスできない」…そういうリアルな現場の事情に、ぜんぶ対応できる。

なぜ、いまさらPK/PDシミュレーターなのか

賢明な読者諸氏はお気づきだろうが、PK/PDシミュレーターというのは、決して新しい代物ではない。Stanpump、Rugloop、Tivatrainer、AnestAssist、FentaSim/PropoSim/RemiSim、MMTIVA…。管理人もTIVA/TCIのページで散々紹介してきたとおり、世の中にはいい意味でクセの強い名作が、すでにたくさんある。

ところが、である。

最大手の Tivatrainer は、課金が問題である。近年は個人向けサブスクリプションに移行しており、月額最大 4.99 ユーロ(900 円前後)。一見すると安く見えるが、サブスク型なので使い続けるかぎり、ずっと払い続けないといけない。3年使えば3万円、10年使えば10万円である。

教育者個人なら出せない値段ではない。だが、研修医10人に「みんな各自サブスク登録してね」とは、なかなか言いにくい。学会会場で配布する勉強会資料に組み込むこともできない。Windows でも Mac でも iOS でも、ちゃんと動くソフトではあるが、結局のところ「お金を払い続けられる人だけが使える」のである。

AnestAssist は iOS 専用で、近年は開発が止まりつつある。FentaSim/PropoSim も「もう iPhone 版は開発しない」と Steven Shafer 先生本人が宣言された(pkpdtools.com 参照)。Rugloop の旧バージョンは古すぎて、いまのOSではまともに動かない。

要するに、「2026年のいま、麻酔科レジデントに『これ使ってPK/PDを勉強しろ』と気軽に渡せる、無料・マルチプラットフォーム・インストール不要のシミュレーターが、意外と少ない」ということに気がついたわけである。

これでは、いかん。ならば、つくるしかない。

対応薬剤とPKモデル — 4薬剤に絞って、モデルは一通り

最初の公開バージョンの対応薬剤は、以下の 4 種類である。 「あれもこれも入れる」より、「現代のTIVAで本当によく使うものを、モデル豊富に」というコンセプトにした。

① プロポフォール

  • Marsh
  • Schnider
  • Eleveld(成人・小児両対応)
  • Kataria(小児)
  • Paedfusor(小児から成人:年齢自動切替)

② レミフェンタニル

  • Minto
  • Kim-Obara-Egan(肥満患者向け)
  • Eleveld

③ レミマゾラム

  • Masui(日本人母集団)
  • Schüttler(ドイツ)

④ フェンタニル

  • Shafer
  • Scott

…という4本立てである。

逆に言うと、ミダゾラム、ケタミン、デクスメデトミジンは、いまのところ入っていない。理由はシンプルで、いまの日本のTIVAの主役は、プロポフォール+レミフェンタニル±レミマゾラム、そしてオピオイド補助としてのフェンタニル、というラインナップだからである。鎮静用のデクスメデトミジンや、ミダゾラム単独TIVAは、別の機会に。

「無いものも入れろ」というご要望は、いつでも歓迎します。需要があれば、次バージョンで追加する。

モデルの豊富さがミソ

ポイントは、それぞれの薬剤について「モデルを1つ」ではなく、「臨床的に意味のある複数のモデル」を実装してあること。

たとえばプロポフォール。Marsh と Schnider は古典的なTCIモデルだが、肥満や高齢者では予測誤差が大きい。Eleveld は近年の openTCI イニシアチブから生まれた「一つの薬剤に一つのモデル」を目指した汎用モデルである。同じ患者で、同じ目標濃度でも、モデルが違うと予測される投与量と覚醒時間が違う。これを並べて比較できることが、教育用としても臨床判断の参考としても、意味がある。

レミマゾラムの Masui モデルは、J Anesth 2022 の日本人母集団薬物動態パラメータをそのまま実装してある。日本の臨床に近い予測が出るはずである。

フェンタニルの Shafer モデル・Scott モデルは、いずれも古典中の古典。にもかかわらず、いまもなお臨床的な予測精度は十分に高く、教育用として「CSHTがいかに延びる薬か」を見せるのに、これ以上の教材はない(後述)。

使用法 — ひと通り触ってみよう

ここからが、実際の使い方である。順を追って説明する。

Step 1. 患者情報を入れる

画面上部の 患者プロファイル に、以下を入力する。

  • 年齢(age)
  • 体重(weight, kg)
  • 身長(height, cm)
  • 性別(male / female)
  • ASA PS分類(レミマゾラムのMasuiモデルで使用、他のモデルでは変更不要)

入力すると、BMI、LBM(除脂肪体重)、BSA(体表面積)が自動計算される。これらは PK モデル側で内部的に使われるので、ユーザーは意識しなくてよい。

ここのコツは、「実際の症例どおりの値を入れること」。「だいたい70歳くらいの男性」ではなくて、「73歳、52kg、162cm、男性」と具体的に入れたほうが、シミュレーションの臨床的価値が上がる。

Step 2. 薬剤を選ぶ

薬剤タブで、プロポフォール/レミフェンタニル/レミマゾラム/フェンタニルから選択する。 選ぶと、その薬剤に対応する PK モデル一覧が、自動的にプルダウンに出てくる。

Step 3. PKモデルを選ぶ

たとえばプロポフォールなら、Marsh/Schnider/Eleveld/Kataria/Paedfusor

迷ったら、年齢に応じて自動で適切なモデルが選ばれる。具体的には、12歳以下なら小児モデル(Kataria/Paedfusor 系)、13歳以上なら Schnider に切り替わる。手動で固定したい場合は、明示的にモデル名を選択する。ちなみに、TCIポンプに内蔵されているモデルにしたければMarshを選択する。

Step 4. TCI モードで動かす

ここが本番である。

  1. ターゲットモードを選ぶ:血漿濃度ターゲット(Cp target)か、効果部位濃度ターゲット(Ce target)か
  2. 目標濃度を入力:プロポフォールなら 3.0〜4.0 μg/mL が一般的
  3. 時間軸イベントを追加:「0分で 3.0 → 30分で 4.0 → 60分で 2.0 → 90分で 0」など、術中の濃度変更を時系列で入力
  4. シミュレーション時間を設定:例えば 120分
  5. Run (開始▶️)ボタンを押す

すると、血漿濃度 Cp と効果部位濃度 Ce のグラフが、時間軸で表示される。投与速度(infusion rate, mg/hr)も同じグラフ上に重ねて出るので、「この目標濃度を達成するには、いまポンプは何 mg/hr で回っているのか」が一目で分かる。

ベテランの先生なら、「TCIポンプを直接覗き込まなくても、この患者なら何 mg/hr あたりで安定するかが事前に予測できる」ことの便利さが、すぐに分かるはずである。

Step 5. 手動投与モードを試す

TCI が使えない施設、あるいは伝統的な手動投与で麻酔をしている人向けに、手動投与モード(Manual モード)もある。

  • 「0分にボーラス 100 mg」
  • 「0分から 600 mg/hr で持続投与開始」
  • 「30分から 400 mg/hr に減速」
  • 「60分で持続投与停止」

…のように、時系列でボーラスと持続投与のスケジュールを組む。実行すると、その投与パターンに対する Cp/Ce の予測カーブが出る。

「いつもの自分の手動投与パターンが、PKモデル上どう見えているのか」を可視化できる。「あ、自分のいつもの 8-6-4 mg/kg/hr のステップダウンって、効果部位濃度ベースで見るとこういう挙動だったのか」と気づきがある。

Step 6. CSHT / CSDT を見る

CSHT/CSDT タブを開く。

  • CSHT(50%減衰)は、デフォルトで表示される
  • CSDTは、減衰率をスライダーで自由に変更できる(50%、70%、80%、90% など)。

ここで、「いま設定している濃度から、覚醒閾値まで下げるのに必要な %減衰」を計算し、その CSDT を見るのが正しい使い方である。詳しくは次のセクション。

Step 7. グラフを自由自在に操る — キー操作とマウス操作

これが、地味だが、使い込むほどに効いてくる機能群である。 マウスとキーボードだけで、グラフを縦横無尽に操作できるようにしてある。

マウス操作

操作 動作
ホイール(スクロール) 横軸(時間軸)をズーム
Shift + ホイール 縦軸(濃度軸)をズーム
ドラッグ(左クリックして移動) グラフをパン(表示範囲をスクロール)
ダブルクリック ライブ入力欄が出現 → 目標濃度(μg/mL)をその場で入力
ホバー(カーソルを乗せる) その時点の Cp / Ce / 投与速度 の数値ポップアップ
右クリック コンテキストメニュー(リセット、エクスポート等)

ポイントは、ホイールが時間軸(横)、Shift+ホイールが濃度軸(縦)、と独立して操作できるところ。 「術後の覚醒だけを拡大したい」なら横軸を、 「微小な濃度変化を見たい」なら縦軸を、 それぞれ独立にズームできる。

ダブルクリックの便利さ

ダブルクリックで「ライブ入力欄」が出るのは、地味に効く機能。

シミュレーション中のグラフ上で、ある時点の効果部位濃度を確認していて、「あ、ここ 3.5 μg/mL に変えたらどうなる?」と思ったら、そのままダブルクリック → 数値を入力するだけで、即座にシミュレーションが再計算されてグラフが更新される。

メニューに戻って、入力欄を探して、数値を変えて、Run を押して…という手順を踏まなくてよい。「思った瞬間に変えて、すぐ見る」ができる。これは教育用として、研修医の理解スピードを大きく上げる。

キーボードショートカット

キー 動作
← / → グラフを左右にパン(時間軸方向)
↑ / ↓ グラフを上下にパン(濃度軸方向)
+ / − 横軸ズームイン/アウト
Shift + +/− 縦軸ズームイン/アウト
R または Home 表示範囲をリセット(デフォルトに戻す)
Space シミュレーション再実行(Run と同じ)
Esc ライブ入力欄を閉じる

マウスホイールがない環境(ノートPCのタッチパッドだけ、など)でも、キーボードだけでひととおりの操作ができる。

タッチデバイス(iPhone/iPad/Android)

操作 動作
ピンチイン/アウト ズーム
2本指で上下スワイプ 縦軸(濃度軸)ズーム
1本指でドラッグ パン
ダブルタップ ライブ入力欄
長押し ホバー相当のポップアップ

iPadのスタイラスペン(Apple Pencil 等)でも同様の操作が可能である。 学会のプレゼンで、iPadを片手にグラフを動かしながら解説する、という使い方ができる。

Step 8. ホーム画面に追加する(iPhone/iPad)

最後の小技。Safariで開いて、共有ボタン(□↑)→ 「ホーム画面に追加」で、アイコンとしてホーム画面に登録できる。次回からはアイコンタップで起動、フルスクリーンでアプリのように使える。

これで完成形。手術室のポケットに、自分専用の PK/PD シミュレーターが常駐する

CSHT も大事。だが、覚醒には CSDT のほうがもっと大事である

ここは、強調しておきたい話である。

管理人のブログでも昔書いたとおり、CSHT(Context-Sensitive Half-Time)は2005年度の麻酔科専門医筆記試験にも出題された概念で、いまや麻酔科医の常識である。「持続投与を止めてから、血中濃度が半分(50%)に減るまでにかかる時間」。

…そう、半分である。

しかし、ここで立ち止まって考えていただきたい。

患者は、薬の血中濃度が「半分」になったら、覚醒するのだろうか?

プロポフォールを効果部位濃度 4 μg/mL で麻酔維持していたとする。これを止めて、半分の 2 μg/mL になったとして、患者は目を開けるだろうか? おそらく、開けない。プロポフォールの覚醒閾値はおおむね 1.0〜1.5 μg/mL なので、4 から「半分」になっただけでは、まだ眠ったままである。

覚醒に必要なのは、「半分」ではなく、「閾値以下まで下がる時間」である。

これを扱う概念が、Context-Sensitive Decrement Time(CSDT)である。

CSDTは、「持続投与を止めてから、血中濃度が 任意のパーセント まで減るのにかかる時間」である。50%減衰なら CSDT50(= CSHTと同じ)、80%減衰なら CSDT80、というふうに。

覚醒予測には、CSDT80 や CSDT90 のほうが、CSHT よりはるかに臨床的に意味がある

具体例で考えよう。

設定 維持濃度 覚醒目標濃度 必要な減衰率
プロポフォール 4.0 μg/mL 1.2 μg/mL 70%減衰(CSDT70)
レミフェンタニル 4.0 ng/mL 1.0 ng/mL 75%減衰(CSDT75)
フェンタニル 2.0 ng/mL 0.6 ng/mL 70%減衰(CSDT70)
レミマゾラム 1.0 μg/mL 0.2 μg/mL 80%減衰(CSDT80)

「術後の覚醒は何分くらいかかるか」を予測するには、CSHT(50%減衰)では情報が足りない。実際に何%下げる必要があるかを見て、その CSDT を見るのが正しい。

そして、ここが面白いのだが、CSHT が短い薬と、CSDT80 が短い薬は、必ずしも一致しないのである。

  • レミフェンタニルは、CSHT も CSDT80 も一貫して短い → だから覚醒が速い
  • プロポフォールは、CSHT は中程度だが、CSDT80 になると意外と長くなる → 長時間投与後の覚醒が遅れる原因
  • フェンタニルは、CSHT も CSDT80 も時間とともにぐんぐん延びる → 大変な、くせ者
  • レミマゾラムは、CSHT は短いが、CSDT90 まで下げようとすると意外と粘る → フルマゼニル拮抗が選択肢になる所以

これを、自分の患者プロファイルで、自分の手でグラフを動かしながら確認する。これがPK/PDの肝である。教科書に載っている「典型例」のCSHT曲線を眺めるのと、自分が担当する70歳・体重45kg・身長148cmの患者で、設定濃度 3.5 μg/mL から覚醒閾値 1.2 μg/mL までの CSDT がどうなるかを見るのとでは、印象の残り方がまったく違う。

本シミュレーターでは、CSHT も CSDT も両方表示できるようにしてある。減衰率は自由に設定可能。患者ごとの覚醒予測時間が、その場で出る。

これが、地味に、麻酔の質を上げる。

使い方の例

【症例検討の予習に】 明日担当する症例の年齢・体重・身長を入れ、想定する手術時間とTCIターゲットを設定して、覚醒までの時間を CSDT でシミュレートしておく。「3時間TCIで効果部位3 μg/mLを維持したあと、1.2 μg/mL まで何分かかる?」が、その場で出る。

【研修医の教育に】 「同じ70歳でも、70kgと45kgではプロポフォールの持続投与量も覚醒時間も違う」を、実際に並べて見せる。Schnider と Eleveld で予測がどう違うかも、グラフ上で比較できる。ダブルクリックで目標濃度を即座に変えながら、研修医に「ほら、ここを 0.5 上げただけで覚醒がこんなに遅れる」と見せられるのが強力。

【学会発表のスライドに】 スクリーンショットを撮れば、そのまま PowerPoint に貼り付けられる。自作シミュレーターだから、透かしなし・自由に使える。発表前には作者に連絡してね。

【オフライン勉強会で配布】 ZIPファイルを USB メモリにコピーして、参加者にそのまま渡す。受け取った側は解凍してダブルクリック、それで完了。

公開にあたっての但し書き

くどいようだが、もう一度書いておく。

本シミュレーターは、教育・研究目的専用です。臨床判断に直接使用しないでください。

実際のTCIポンプは、自社で検証したアルゴリズムと薬剤承認に基づいて動いている。ブラウザ上で動く教育用シミュレーターは、あくまで「PK/PDの考え方を理解するための道具」である。臨床で薬剤投与を判断するときは、必ず承認された機器と、自分の臨床的判断を用いていただきたい。

ここは、強調しておく。

旧来のツールとの位置づけ

msanuki.com/pub/ には、これまで管理人が日本麻酔学会ソフトウェアコンテストで発表してきた、いろいろなツールが置いてある。1995年の RT(森河賞)、ASA-OS(JSA PIMSの前身)、JMovie(ソフコン最優秀賞)、麻酔台帳(優秀賞)…。これらは、いずれも HyperCard、ファイルメーカーPro、Palm、QuickTime といった、いまや動かない or 動かしにくい環境のソフトたちである。

時代は変わった。

これからは、「ブラウザさえあれば動く」が標準になる。30年前の RT がそうだったように、麻酔科医の手元に届く「ちょっと便利な道具」を、その時代の技術で、その時代に合わせて作り続けたい。これが、管理人のオリジナルツール開発の、ささやかなコンセプトである。

さいごに

PK/PDシミュレーターは、麻酔科医にとって「電卓」のようなもの、と管理人は思っている。

電卓があれば、誰でも掛け算ができる。だからといって、九九を覚えなくていいわけではない。同じように、シミュレーターがあれば、誰でも血中濃度予測ができる。だからといって、PKモデルや CSDT の理屈を知らなくていいわけではない。

両方あって、はじめて使いこなせる。

ぜひ、研修医にも、ベテランにも、触ってみていただきたい。「あれ、こんな投与計画だと、術後にこんなに覚醒が遅れるのか」「フェンタニルとレミフェンタニル、CSDT80 で見るとこんなに違うのか」と、新しい発見があるはずである。

特に、ダブルクリックで目標濃度を即座に変えてみる操作を覚えると、PK/PDシミュレーターが段違いにおもしろくなる。ぜひ、いろいろなパラメータをいじって遊んでみていただきたい。

ご意見・バグ報告・モデル追加のリクエストは、いつもどおりお待ちしています。

それでは、また。


🔗 ブラウザで使う: https://msanuki.com/PKPD/

💾 ローカル/オフラインで使う: https://msanuki.com/pub/PKPD_2026003.zip をダウンロード → 解凍 → index.html をブラウザで開く

📱 動作確認済み環境: iOS Safari / Android Chrome / Windows Chrome・Edge / macOS Safari・Chrome / Linux Firefox

⚠️ 教育・研究目的専用。臨床使用は不可。

McGRATH MACって、骨董鏡(Macintosh)と同じ?── ビデオ喉頭鏡時代の「見える」と「入れる」は別

McGRATH MAC(Medtronic)が手術室の標準装備になって、もうずいぶん経ちます。
ブレードが「Macintosh曲型」だから、つい研修医にこう言ってしまうことありませんか。

「Macintoshと同じように使えばいいよ」

──いや、ほんとうにそうなんでしょうか。

私自身、骨董鏡(あえてこう呼びます!古いMacintoshには敬意があります)と同じ感覚でMcGRATHを使っていた時期がありました。でも、よくよく見ていると、「画面ではバッチリ見えてるのに、なぜかチューブが入らない」「すんなり入ったはずなのに、術後にひどい嗄声が長引く」──そんな例がポツポツ出てくるんですよ。

これ、Macintoshでは出会わなかった種類のトラブルなんです。

今日はそこを、それから自分の手の動きを思い出しながら、解剖学と最新の文献をおさえつつ、じっくり書いてみたいと思います。

さぬちゃんの独り言として、お付き合いください。

1. まず、声帯ってどこにあるんだったっけ?

挿管の話を始める前に、地図をみておきましょう。

口の中から覗き込んで、見えるものの順番です。

舌 → 軟口蓋 → 口蓋垂 → 中咽頭 → 喉頭蓋谷(vallecula)
                            ↓
                    喉頭蓋(epiglottis)
                            ↓
                  声門(vocal cords / glottis)
                            ↓
              披裂軟骨(arytenoid cartilages)── 後方に左右一対
                            ↓
                          気管

声帯は、甲状軟骨の内面の前方(前交連)から後方に伸びて、披裂軟骨の声帯突起に付着しています。だから声門を上からのぞき込むと、

  • 前端(前交連)=甲状軟骨の内側、舌から見て「奥のほう・上のほう」
  • 後端(後連合)=披裂軟骨、舌から見て「手前・下のほう」

喉頭展開時の見え方


ここで一つ大事なポイントがあって、ビデオ喉頭鏡の画面では、上が前方(甲状軟骨側)、下が後方(披裂軟骨側)になります。

Macintoshで肉眼直視していたときは、もっと空間的に直感的に「奥にあるな」とわかったんですが、ビデオ画面だと「あれ、上下どっちだっけ」って一瞬迷う研修医が必ずいます(耳鼻科の喉頭ファイバー所見とは上下が逆になりますから)。

最初に「画面の下が披裂軟骨」と一言かける。これだけで、その後の手の動きが変わりますから。

 

2. 声門の見え方を、どう記録するか ── CormackとPOGO

Cormack-Lehane分類

1984年、CormackさんとLehaneさんが、産科の困難挿管論文の中でぽろっと提唱した4段階分類です。

Cormack RS, Lehane J. Difficult tracheal intubation in obstetrics. Anaesthesia 1984; 39: 1105–1111.

Grade 1(声門全部見える)から Grade 4(喉頭蓋すら見えない)まで。世代を超えて愛されてきました。

ただ、長年使っているうちに、評価のばらつきが大きいことが見えてきたんです。とくにGrade 2(一部だけ見える)の判定が、人によって全然違う。

Arkala A, et al. Reliability of the Cormack-Lehane Classification: A Scoping Review. Cureus 2025; 17(3):e81159.

POGO(Percentage Of Glottic Opening)

そこで1998年、Levitanという救急医が「もっと連続的に測ろうよ」と提案したのがPOGO。

Levitan RM,  et al.
Assessment of airway visualization: validation of the percentage of glottic opening (POGO) scale. Acad Emerg Med 1998; 5: 919–923.

前交連から披裂間切痕までの全声門長を100%として、見えてる割合を%で表す。とてもシンプルです。

  • 100%:前交連〜披裂間切痕まで全部見える
  • 50%:半分見える
  • 25%:下1/4見える
  • 0%:声門が一切見えない(Cormack Grade 3〜4相当)

Cormackよりも観察者間の信頼性が高いことが古典的に示されていて、最近でも「POGOは連続スケールで使いやすい」と評価されています。

ビデオ喉頭鏡時代の新分類(2025)

つい最近、こんなレビューが出ました。

Perin D, et al. Imaging classification in videolaryngoscopy: are we on the right track?  2025 (PMC12410471).

Blade type(Mac vs Hyperangulated)× POGO(0–25%/50–75%/>75%)× Intubation difficulty の三つで記録しよう、という提案です。「見える」と「通せる」を分けて記録する流れになってきている。

これ、私はとてもしっくりきます。

さぬちゃんの実感:
研修医の記録、Cormack Grade 2aと2bでもめてる時間がもったいない。最初からPOGOで「今日は60%」と書かせる。それだけで、教育効果がぜんぜん違いますよ。

 

3. McGRATH MAC、本当に「Macintoshと同じ」?

3-1. 視野は確実に良くなる、これは本当

2025年のメタアナリシス(19本のRCTを統合)では、はっきり差が出ています。

Wang M, et al. McGrath video laryngoscope versus Macintosh laryngoscope: systematic review and meta-analysis BMC Anesthesiol 2025; 26: 53. doi:10.1186/s12871-025-03498-w (PMC12831246).

Cormack-Lehane Grade 1 取得率:RR 1.47(95%CI 1.14 – 1.89)

つまり、視野はMcGRATHのほうが圧倒的によい!これは明らかに視野改善です。

 

ところが、同じメタアナリシスのもう一つの結果がこれ。

  • 初回挿管成功率:RR 1.01(95%CI 0.96–1.07)── 有意差なし
  • 挿管時間:SMD 0.35(95%CI -0.14–0.85)── 有意差なし
  • 咽頭痛発生率:RR 1.00(95%CI 0.71–1.42)── 有意差なし

「えっ、視野は良いのに、初回成功率は変わらないの?」と思いますよね。私もそう思いました。

3-2. でも、「初回成功率」は条件次第

ここが本当に面白いところで、Kriegeらの大規模多施設RCTを見るとまた違う絵が見えてきます。

Kriegeらの大規模多施設RCT(2023, 予定手術 N=2092):

Kriege M, et al. A multicentre randomised controlled trial of the McGrath™ Mac videolaryngoscope versus conventional laryngoscopy. Anaesthesia 2023; 78: 722–729. doi:10.1111/anae.15985.

予定手術 N=2092のRCT:

  • McGRATH 初回成功率 94%(987/1053)
  • 直接喉頭鏡 82%(848/1039)
  • 絶対リスク減少 12.1%(95%CI 10.9–13.6%)
  • Cormack Grade ≥3 の出現率:8% → 0.7%

予定手術でこれだけの差が出るんです。これは「視野が良いから成功率が上がる」という、わかりやすい結果。

 

さらにKriegeら(2024, RSI設定):

Kriege M, et al. A comparison of the McGrath videolaryngoscope with direct laryngoscopy for rapid sequence intubation. Anaesthesia 2024; 79. doi:10.1111/anae.16250.RSIにおいても

 

 

McGRATH群で初回成功率・合併症ともに有意に良好。食道挿管・歯牙損傷・低酸素血症すべて減らした。ところが、別の系統的レビュー(11 RCT, 1379例の通常症例)では──

Sansone P, et al. Comparison of McGrath Videolaryngoscope versus Macintosh Laryngoscope in Tracheal Intubation: An Updated Systematic Review. J Clin Med 2023; 12(19): 6168 (PMC10573091).
  • 全体成功率:McGRATH 648/655(98.9%)vs Macintosh 620/629(98.6%)── ほぼ同等
  • 血行動態変化・有害事象も差なし

「両者は equivalent(同等)で、互いに補完し合うデバイスである」と結論しています。

「あれ、Kriege RCTと違うじゃん」と思いますよね。 何が違うんでしょう。

 

これは、こういうことだと思うんです。

通常の予定手術症例では、麻酔科医が無意識に「視野が悪そうな患者にはMcGRATHを使う/問題なさそうならMacintoshで十分」と事前選別している

たとえRCTでランダム化しても、もともと挿管難易度が低い母集団では、差がつきにくい。

でも、RSI、緊急、困難気道という「逃げ場のない状況」になった瞬間、McGRATHの「視野の優位性」が「成功率の優位性」に転換される。Kriege 2023の予定手術RCTでも有意差が出たのは、Kriegeのチームが「視野が悪そうな患者を除外しなかった」からだと思います。

3-3. つまり、McGRATHは「Macintoshの上位互換」じゃない

「視野が良い」と「挿管が成功する」の間には、チューブを声門に通すという手技が挟まる。ここに、ビデオ喉頭鏡固有の落とし穴が潜んでいると思うんです。

 

4. 喉頭蓋、上にかける?下にかける?

4-1. 教科書通りのMacintosh法:喉頭蓋谷に置く(間接挙上)

McGRATHのブレードはMacintosh形状なので、教科書通りなら

  1. ブレード先端を喉頭蓋谷(vallecula)に置く
  2. 舌骨喉頭蓋靭帯(hyoepiglottic ligament)にpressureをかける
  3. 喉頭蓋が間接的に持ち上がる
  4. 声門が開く

これが間接挙上。Macintosh先生(1943年 Lancet)の設計思想そのものです。

4-2. 直接挙上:Miller的な使い方

ところが、ビデオ喉頭鏡では、ブレード先端を喉頭蓋の下に滑り込ませて直接持ち上げるほうが視野がよくなる、ということがけっこうあります。

そして、これを定量化した論文があるんですよ。

Wünsch VA,  et al.  Hyperangulated blades or direct epiglottis lifting to optimize glottis visualization in difficult Macintosh videolaryngoscopy.

Front Med 2023; 10: 1292056. PMID 38098848.

 

Macintoshビデオ喉頭鏡で視野が悪い129症例で:

  • 直接喉頭蓋挙上に切り替えるだけで POGO +49.7%(95%CI 41.4–58.0)
  • Hyperangulated強弯ブレードに機器ごと交換した場合 +43.7%(95%CI 34.1–53.3)
  • 両方併用で声帯非可視率 0%(全例で声帯が見えた)
  • 直接挙上は、機器交換に対して非劣性

これ、すごい結果です。

つまりMcGRATH MACで視野が悪いとき、機器を変えなくても、「喉頭蓋の下にかけ直す」だけで激変する可能性がある

「あー、確かに」と思わず声が出ました。経験的にやっていたことにエビデンスが追いついた感じ。

4-3. 頸椎不安定症例では、直接挙上が有利

Choi S, et al. Direct versus indirect epiglottis elevation in cervical spine movement during videolaryngoscopic intubation under manual in-line stabilization: a randomized controlled trial.
BMC Anesthesiol 2023; 23: 303. (PMID 37679737)

直接挙上 vs 間接挙上(C-MAC D-blade、MILS下、N=102):

  • 後頭骨–C1 の頸椎可動:3.9° vs 5.8°(P=0.011)
  • 必要な挙上力が少ないため、頸椎への力の伝達が減る

頸椎症やC1-C2不安定症の患者では、意識的に直接挙上を選ぶ理由がここにあります。「直接挙上のほうが乱暴そう」と思いがちですが、実は力学的にはやさしい。これも目から鱗でしたね。

4-4. さぬちゃんの使い分け(独断と偏見および経験から)

状況 第一選択 補助手技
通常症例 谷部に置く(間接挙上) 必要なら下に滑らせる
POGO 0–25% で視野悪い 直接挙上に切り替え BURP併用
頸椎不安定 直接挙上 MILS下で愛護的に
喉頭蓋が大きい・垂れ下がり型 最初から直接挙上

「視野が悪い、機器を変える」前に、「喉頭蓋の下にかけ直す」を試してみる。

これだけで救われる挿管、結構あります。

 

5. 喉頭蓋脱臼と被裂軟骨脱臼─ビデオ時代の「隠れた」リスク

5-1. 「画面では見えてるのにチューブが入らない」とき、何が起きてるか

ビデオ喉頭鏡で声門がきれいに見えているのに、チューブだけが入らない。
このとき、披裂軟骨の前方脱臼が始まっていることが、けっこうあります。

ブレード先端、または進めているチューブやスタイレットが、披裂軟骨を腹側かつ尾側(前下方)へ押し込む。披裂軟骨は輪状軟骨の上縁に滑膜性の輪状披裂関節を作っていて、反復する前下方圧によって関節血腫・滑膜ヒダ損傷を生じ、二次的に脱臼様の固定が生じうると考えられます。

▶ 披裂軟骨前方脱臼の機序(声門の上方視)

       【画面の上=前方(甲状軟骨側)】

              /\  ←前交連
             /  \
       声帯/      \声帯
           /        \
          /  声 門   \
          \          /
           \        /
            \      /
             ●─●  ←披裂軟骨
       ━▶│押す│      ① ETT/スタイレット先端が
             │     │         披裂軟骨を腹側へ押す
             ●─●      ② ブレード先端が披裂軟骨後面を圧迫

       【画面の下=後方(披裂軟骨側)】

   矢印(━▶)= 前下方への押し込み
                 = 輪状披裂関節の前方脱臼の発生機序

チューブ・スタイレット先端の方向が画面下方(後方)に偏ると、披裂軟骨を直撃します。

5-2. 発生頻度と機序

気管挿管に関連する披裂軟骨脱臼の発生率は、0.009–0.097%(複数の単施設研究)、メタ解析でのプール推定 0.093%(95%CI 0.045–0.14%)とされています(Wu 2018, Xing 2024, Alalyani 2024)

気管挿管に関連する披裂軟骨脱臼の発生率は、0.009–0.097%(複数の単施設研究)、メタ解析でのプール推定 0.093%(95%CI 0.045–0.14%) とされています(Wu 2018, Xing 2024, Alalyani 2024)。

ただし、これは「明らかに診断された脱臼」の数字で、私の臨床感覚では「無症候の亜脱臼」を含めるともっと多いはず。術後の長引く嗄声を耳鼻科に相談すると、しばしば「軽い脱臼っぽい」と返ってきます。

 

機序:

  • 前方脱臼(多数派):喉頭鏡ブレードや挿管チューブが直接披裂軟骨を腹側に挙上
  • 後方脱臼(少数派):チューブの進入方向が後方に偏ることで生じる

5-3. 喉頭蓋自体の損傷

Takenaka I, et al. Malposition of the epiglottis after tracheal intubation via the intubating laryngeal mask. Br J Anaesth 1999; 83: 962-963 
Otsuki et al. Downfolding of the epiglottis into the laryngeal inlet after tracheal intubation using the McGRATH™ MAC videolaryngoscope: a case report. JA Clin Rep 2020 (PMC7275101)

盲目的にチューブを進めると、喉頭蓋を喉頭入口部に巻き込むことがあり、喉頭蓋浮腫を引き起こします。

ビデオ喉頭鏡でも、ブレードを深くしすぎて画面に喉頭蓋が映らなくなった瞬間、「あ、巻き込んでるかも」を見逃します。

予防:チューブが声門を通過するまで、画面に喉頭蓋を映し続ける(目を離さない)


意識的に「喉頭蓋を画面の上に置いて見ておく」だけで、巻き込み事故はかなり減ります。

 

6. スタイレットの曲げ方──60°か90°か、それとも...

6-1. なぜスタイレットが要るのか

McGRATH MACのブレードはMacintosh形状(弱弯曲)なので、強弯曲の(GlideScopeのような60°湾曲)ほど急峻じゃありません。でも、カメラはブレード先端寄りについているので、肉眼直視と違って口腔内軸・咽頭軸・喉頭軸が完全には一直線にならない!(ここ大事)

このため、Macintoshで使う「肘から先まで真っ直ぐ」のチューブだと、画面で声門が見えていてもチューブの先端が画面下方(後方)に向かってしまい、披裂軟骨を直撃するんですよ。

これが「見えてるのに入らない」の正体の一つです。

6-2. 60° vs 90°、答えはちゃんと出ている

Lee JH, et al. Stylet angulation for routine endotracheal intubation with McGrath VL: 60° vs 90°.
Medicine (Baltimore) 2017; 96: e6045. PMC5319538.

N=140(McGRATH MAC、無作為化、ASA I–II):

  • 挿管時間:60° 29.3±6.4秒 vs 90° 32.5±9.4秒(P=0.022)─ 60°が有意に速い
  • 声門グレード・挿管困難度:両群で有意差なし
  • 口腔咽頭出血:有意差なし

結論:60°くらいが至適(90°では曲げすぎ)

私自身、McGRATH MACでは約60°ブレードの後面の形状にして使っています。90°だとチューブ先端の方向転換が急すぎて、声門通過後に気管前壁を擦りやすい(前壁衝突)。

6-3. さぬちゃんのスタイレット作法(McGRATH MAC用)

  1. チューブにスタイレットを通す
  2. スタイレット先端をチューブのカフより手前で止める(先端を絶対に突出させない)
  3. カフから2〜3cm口側で約60°屈曲
  4. それより口側は完全に直線
  5. 声門通過したらスタイレットを2〜3cm引き抜きながらチューブを進める(前壁衝突解除のため)

5番目が大事なんですよ。「スタイレットを引きながらチューブを進める」。

これ、研修医は言わないとやらないんです。スタイレットが入ったままぐいっと押し込んで、結果、気管前壁をスタイレット先端で擦る。あれが術後の咽頭痛・嗄声の隠れ要因になっていることが多いと思っています。「引きながら進める」を口癖にして指導してます。

7. まとめ──McGRATH MACは骨董鏡と「同じじゃない」

長くなったのでまとめます。

McGRATH MAC、Macintoshとここが違う

項目 Macintosh McGRATH MAC
視軸 肉眼直視(直線) 画面(先端カメラからの間接視)
軸合わせ スニッフィング体位で3軸合わせ 完全に合わせなくても見える
喉頭蓋操作 谷部に置く(間接挙上)が標準 状況により直接挙上を積極選択
スタイレット ストレート〜軽度カーブ 約60°屈曲形状
視野⇔成功 ほぼ一対一 解離しやすい
視野が悪いとき BURP・体位再調整 直接挙上に切替も考慮
披裂軟骨脱臼リスク 過剰挙上で発生 チューブ・スタイレット先端の前方圧で発生
術後嗄声・声帯損傷 喉頭鏡の力学が主因 チューブ通過時の機械的ストレスが主因

「同じように使えばいい」は違うんです

McGRATH MACは、Macintoshが提供する「視野」をはるかに凌駕します。Kriegeらの2023年RCTでも、CL Grade ≥3が8% → 0.7%まで激減することが示されました。これは事実です。

でも、チューブを通す手技は別物なんです。視野が良いことに油断して、

  • 喉頭蓋を間接挙上のままにして谷部から外せない
  • スタイレットを真っ直ぐのまま使う
  • 披裂軟骨に向かってチューブを直進させる
  • カフ圧管理・体位を軽視する

これを続けていると、「初回挿管は成功した、でも術後嗄声が長引く」「綺麗な声門視野下で被裂軟骨脱臼」という、ビデオ喉頭鏡時代に固有の合併症を量産することになると思っています。

 

さぬちゃんの処方箋

  1. POGOで記録する。CL Grade 2aで時間を使わない
  2. 視野が悪いとき、機器を替える前に「直接挙上」を試す(POGO +49.7%)
  3. スタイレットは60°ブレードに沿わせた形状に曲げる
  4. 声門通過したらスタイレットを引きながらチューブを進める
  5. 画面に喉頭蓋を映し続ける(巻き込み防止)
  6. 「見える」と「通る」は別次元の話だと自覚する

McGRATH MACは Macintoshの「後継」じゃなくて、別の楽器です。
ヴァイオリンとビオラくらい違う。形は似てるけど、奏で方が違う。

そのつもりで、もう一度、指導する側ももう一度、明日からの挿管を見直しませんか。

Reference

  1. Cormack RS, Lehane J. Difficult tracheal intubation in obstetrics. Anaesthesia 1984; 39: 1105–1111.
  2. Levitan RM, et al. Assessment of airway visualization: validation of the percentage of glottic opening (POGO) scale. Acad Emerg Med 1998; 5: 919–923.
  3. Arkala A, et al.  Reliability of the Cormack-Lehane Classification: A Scoping Review. Cureus 2025; 17(3): e81159. doi:10.7759/cureus.81159.
  4. Perin D, et al.   Imaging classification in videolaryngoscopy: are we on the right track?  Braz J Anesthesiol 2025. doi:10.1016/j.bjane.2025.844671 (PMC12410471).
  5. Wang M, et al. A comparison of McGrath video laryngoscope versus macintosh laryngoscope for intubation undergoing general anesthesia: a meta-analysis. BMC Anesthesiol. 2026 26: 53. doi: 10.1186/s12871-025-03498-w (PMC12831246):
  6. Kriege M, et al. A multicentre randomised controlled trial of the McGrath™ Mac videolaryngoscope versus conventional laryngoscopy. Anaesthesia 2023; 78: 722–729. doi:10.1111/anae.15985.(PMID 36928625)
  7. Kriege M, et al. A comparison of the McGrath videolaryngoscope with direct laryngoscopy for rapid sequence intubation. Anaesthesia 2024; 79. doi:10.1111/anae.16250.
  8. Sansone P, et al.  Comparison of McGrath Videolaryngoscope versus Macintosh Laryngoscope in Tracheal Intubation: An Updated Systematic Review (10 RCTs, 1284 patients). J Clin Med 2023; 12(19): 6168. doi:10.3390/jcm12196168 (PMC10573091).
  9. Wünsch VA,  et al.   Hyperangulated blades or direct epiglottis lifting to optimize glottis visualization in difficult Macintosh videolaryngoscopy: a non-inferiority analysis of a prospective observational study. Front Med 2023; 10: 1292056. doi:10.3389/fmed.2023.1292056 (PMID 38098848).
  10. Choi S,  et al. Direct versus indirect epiglottis elevation in cervical spine movement during videolaryngoscopic intubation under manual in-line stabilization: a randomized controlled trial. BMC Anesthesiol 2023; 23: 303. doi:10.1186/s12871-023-02259-x.(PMID 37679737)
  11. Takenaka I, et al. Malposition of the epiglottis after tracheal intubation via the intubating laryngeal mask. Br J Anaesth 1999; 83: 962-963.
  12. Otsuki et al.. Downfolding of the epiglottis into the laryngeal inlet after tracheal intubation using the McGRATH™ MAC videolaryngoscope: a case report. JA Clin Rep 2020 (PMC7275101)
  13. Wu L, et al.  Association between the use of a stylet in endotracheal intubation and postoperative arytenoid dislocation: a case-control study.  BMC Anesthesiol 2018; 18: 59 (PMC5984477).
  14. Xing L, et al.   A case of arytenoid dislocation after ProSeal laryngeal mask airway insertion: A case report. Int J Surg Case Rep 2024; 124: 110372 (PMC11471643).
  15. Alalyani NS, et al.  Incidence and Risk Factors of Arytenoid Dislocation Following Endotracheal Intubation: A Systematic Review and Meta-Analysis.  Cureus 2024; 16(8): e67917 (PMC11425767).
  16. Lee JH, et al. Stylet angulation for routine endotracheal intubation with McGrath videolaryngoscope: 60° vs 90°. Medicine (Baltimore) 2017; 96: e6045. PMC5319538.
  17. Boulton AJ, et al. Tracheal tube introducer-associated airway trauma: a systematic review. Anaesthesia 2024; 79(10): 1091–1101. doi:10.1111/anae.16379.(PMID 39073144)
  18. Paulsen FP,  et al. New insights into the pathomechanism of postintubation arytenoid subluxation. Laryngoscope 1999 (PMID 10485775).

全身麻酔中のベンチレーターモード攻略【後編】覚醒時のPSV、ただの「おまかせ」ではありません

こんにちは、さぬちゃんです。

最終回はこれまた研修医に不評なPSV の話です。

「PSVって、患者さんが自発で呼吸してくれるから、適当でいいんでしょ?」―いえいえ、それが大きな誤解なんです。

ここを極めるかどうかで、抜管がスムーズに運ぶか、バッキング&血圧乱高下の地獄絵図になるかが決まります。最後まで気を抜かずにおつきあいください。

 

8. PSV(Pressure Support Ventilation)とは何か

PSVは自発呼吸を補助するモードです。前編の図④に立ち戻ってみてください。VCやPCが持つ「機械主導の整った矩形」とは異なり、PSVは患者さんの吸気努力から始まり、患者さんのリズムで終わる、人間味のある波形です。

  • 患者さんがトリガを引くと、設定した吸気圧(サポート圧)でアシスト
  • 吸気の終わりは、吸気流量がピーク流量の一定割合(たとえば25%)に落ちたところで切り替わる(フローサイクリング

要するに、患者さんの吸いたいリズムに合わせて、息をラクに吸わせてあげるモードなんですね。優しい仕組みです。

 

PSV(Pressure Support Ventilation)

図④で注目してほしいポイントは2つ。

  • 流量カーブの冒頭に小さな下振れがある(患者さんの吸気努力=トリガ)
  • 流量がピーク後に減衰し、約25%まで下がったところで吸気が打ち切られる(フローサイクリング)

麻酔器では「PSV Pro」や「SIMV+PS」として提供されることが多く、PSV Proはバックアップ換気がついていて、SIMV+PSはSIMVがバックアップ換気替わりになって、呼吸が止まっても安心の設計になっています。バックアップ換気とは、自発呼吸が一定時間なかった場合に強制換気を行ってくれるものです。

 

9. 覚醒時にPSVを使う3つの理由

① 筋弛緩の回復を見逃さない

自発呼吸のトリガがかかるということは、横隔膜や呼吸筋が働いている証拠です。TOFが戻ってきているかどうか、換気の様子そのものから読み取ることができます。

② 鎮静を浅くなってもスムーズに覚醒できる

麻酔を切ったとたんアシストなしの自発呼吸に放り出すと、呼吸仕事量が急増して患者さんが苦しがります。PSVでそっとアシストしてあげれば、交感神経の爆発や頻脈・高血圧を防ぐことができます。これが一番大きな利点かもしれません。

③ 抜管の準備体操

サポート圧を徐々に下げていけば、「この患者さんはVtをきちんと維持できるか」のリハーサルになります。PSV 5〜8 cmH₂O + PEEP 5 cmH₂Oでで呼気Vt 5 mL/kg以上、
RR <25/分、SpO₂≧95%(FiO₂≦0.4)、ETCO₂安定 を確認できれば、
抜管OKのゴーサインですね。
これに加え、TOF比≧0.9、意識レベル、嚥下・咳嗽反射、循環の安定 も
セットで判断してください。

10. PSVの具体的な設定方法(覚醒チャート)

項目

目安

始めるタイミング

筋弛緩が切れてきて、自発呼吸の兆候(横隔膜の動き、ETCO₂波形の変化)が出始めたら

初期設定

PEEP 5、サポート圧(PEEP上/above PEEP)10〜15 cmH₂O

目標

呼気Vtが5〜8 mL/kgになるよう調整

モニタリング

呼気Vt、呼吸回数、ETCO₂、SpO₂

ウィーニング

サポート圧 5〜8 cmH₂O、PEEP 5 cmH₂Oで2〜3分程度様子みる

抜管GOサイン

頻呼吸(>25/分)やVt低下(<5 mL/kg)がないこと

注意点: PSV中に呼吸数が増えすぎる場合は、鎮痛が不足していたり、麻酔が浅すぎる可能性があります。覚醒後に使用する鎮痛薬やプロポフォールを少し足して整えるのが正解です。慌てて筋弛緩を追加打ちしてはいけません。原因究明が先です。

 

11. PSVを使ってはいけないとき

  • 筋弛緩が完全に残っている(TOFカウント0など)→ 呼吸がトリガできず、アプニアアラーム地獄に!抜管に向けては、定量モニタリングでTOF比(TOF ratio)≧0.9を確認することが現在のスタンダードです。
  • 上気道閉塞や喉頭痙攣のリスクが高い局面 → チューブが入っているのでPSV自体は有効ですが、自発呼吸が暴れると危険。まず深麻酔か筋弛緩で鎮める
  • 肺コンプライアンスが極端に低い(ARDSでΔP>15cmH2Oなど)→ 無理にPSVにせず、ΔPを最小化した調節換気のままICUへ搬送

PSVは万能ではありません。「自発呼吸に頼れるとき」専用の道具だと覚えておいてください。

 

12. まとめ ── さぬちゃん流「鉄板方針」

長丁場、お疲れさまでした。最後にエッセンスをぎゅっとまとめます。

  1. 基本はPRVCメーカーによってはVC-AFPCV-VG で、VtとΔPの両方を見張る。これがどんな手術・体位でも応用できる万能守護神
  2. 腹臥位食道手術+片肺換気でも、VC-AFに低容量設定+PEEP+ΔP監視で、安全かつエビデンスに基づく管理ができる。PCオンリーは無理ゲー感があるので、PRVCに慣れ親しんでおきましょう
  3. 覚醒時はPSVを「ただの呼吸練習」と侮るなかれ。アシスト量を段階的に落としながら、患者の呼吸ドライブと筋力を評価するツールとして使いこなしてください
  4. そして何より、「駆動圧(ΔP)を制する者が、肺を制す」

これさえ頭に入れておけば、明日からあなたもベンチレーターフリークです。

 

それでは、また。

 

References

[1]Sung S (2023). Pressure Support Ventilation. In StatPearls. StatPearls Publishing.

[2]Gentile, MA (2011 ). Cycling of the mechanical ventilator breath. Respiratory Care, 56(1), 52-60.

[3]Tassaux D, et al. (2005)Impact of expiratory trigger setting on delayed cycling and inspiratory muscle workload. Am J Respir Crit Care Med.172(10):1283-9.

[4]Capdevila, X., et al. (2014). Effects of pressure support ventilation mode on emergence time and intra-operative ventilatory function: a randomized controlled trial. PLoS One, 9(12), e115139.

[5]Boles JM, et al. (2007). Weaning from mechanical ventilation. European Respiratory Journal, 29(5), 1033-1056.

[6] Epstein SK. (2009). Weaning from ventilatory support.  Current Opinion in Critical Care, 15(1), 36-43.

[7]Thilen SR, et al. (2023). 2023 American Society of Anesthesiologists Practice Guidelines for Monitoring and Antagonism of Neuromuscular Blockade. Anesthesiology, 138(1), 13-41.

[8]Amato MB, et al. (2015). Driving pressure and survival in the acute respiratory distress syndrome. New England Journal of Medicine, 372(8), 747-755.

[9]Chatburn RL (2007). Classification of ventilator modes: update and proposal for implementation. Respiratory Care, 52(3), 301-323.

文献AIツール、結局どう使い分ける? Elicit、EndNote、scite、SciSpaceの役割整理

こんにちは、さぬちゃんです。

昔は、麻酔科以外の領域の先生から「あのEndNoteの先生ですか?」と確認されることが、けっこうありました。 最近でも、年配の先生には、たまにそう言われることがあります。

もちろん私はEndNoteの開発者ではありませんし、Clarivate社の人でもありません。

ただ、EndNote X8までは、克誠堂出版から

www.kokuseido.co.jp

 というEndNoteの活用本を執筆・出版していた著者でして、その界隈ではそれなりに名前が出回っていた時期があります。

当時はまだ、EndNoteの日本語マニュアルが今ほど整っていなかった頃で、医学系の研究者がEndNoteの使い方で困ってブログや本にたどり着いてくれる、という時代でした。 研修医の先生からベテランの教授まで、ずいぶん幅広い読者にお世話になりました。

なので、EndNoteの話には、ちょっとだけ思い入れがあります。 そんな私が、最近のAI文献ツールについて整理してみる回です。


最近、文献検索まわりのAIツールが増えすぎて、

「Elicitって何に使うの?」 「sciteとSciSpaceは何が違うの?」 「EndNote 2025にもAI機能があるなら、もう他はいらないの?」みたいな状態になりがちです。

結論からいうと、これらは全部同じ役割のツールではありません。

さぬちゃん的には、こう分けます。

  • Elicit:文献を探す・候補を表にする
  • SciSpace:論文PDFを読む・理解する
  • scite:その論文が支持されているか、反証されているかを見る
  • EndNote:文献を管理して、Wordで正確に引用する

つまり、

  • Elicitで探す
  • SciSpaceで読む
  • sciteで疑う
  • EndNoteで引用する

です。

これが一番覚えやすいです。


まず、EndNoteは「文献管理の本丸」

EndNoteは昔からある文献管理ソフトですが、やっぱり論文を書くときは強いです。

何が強いかというと、

  • 文献を一元管理する
  • PDFを保存する
  • Wordに引用を入れる
  • 参考文献リストを自動で作る
  • 投稿先ジャーナルの形式に合わせる

このあたりです。

EndNote 2025では、PDFに対して質問するKey Takeawaysで要点を出すFind a Journalで投稿先候補を探すCite from PDFでPDF中のハイライトから引用を挿入する、といった機能も追加されています。

ただし、ここに知っておきたい注意点が2つあります。

ひとつ目は、AI Key Takeawayは出力言語が英語のみということです。

日本語論文のPDFを入れても、要約は英語で返ってきます。 和文文献を多く扱う方は、ここでちょっと拍子抜けするかもしれません。

ふたつ目は、Find a Journalはデスクトップ版Wordでは使えないということです。

Google DocsWord OnlineのCite While You Write(CWYW)プラグインでしか使えません。 普段デスクトップWordでゴリゴリ原稿を書いている派の先生は、現状この機能の恩恵をほぼ受けられないので要注意です。

EndNoteはあくまで文献を管理して、原稿に正しく引用するための母艦です。

なので、EndNoteだけで「この論文は後続研究で支持されているのか」「反証論文はあるのか」まで見ようとすると、少し役割が違います。


Elicitは「読む前に、読むべき論文を絞る」ツール

Elicitは、AIを使って文献を探したり、複数論文からデータを抽出して表にしたりするツールです。

PubMedのようにキーワードで検索するというより、研究疑問を英文(日本語も可)で入れる感じです。

たとえば麻酔科なら、

Does intraoperative dexmedetomidine reduce postoperative delirium in adult surgical patients?

とか、

全身麻酔中、レミマゾラムはプロポフォールと比較して低血圧を軽減するか?

みたいに入れます。

すると、関連論文を拾って、研究デザイン、対象患者、介入、比較、アウトカム、結果などを表っぽく整理できます。

Elicitは、Research reports、Systematic Review、Library、Alertsなどの機能を持ち、システマティックレビューではスクリーニングやデータ抽出を自動化・補助できると説明されています。 また、Extract Data ではPDFをアップロードして表を作り、カラムを追加して論文群を整理できます。

さぬちゃん的には、Elicitは読む前の交通整理に向いています。

  • このテーマ、主要論文はどれ?
  • RCTはある?
  • メタ解析はある?
  • 対象患者は成人?小児?
  • 主要アウトカムは何?
  • 結果はざっくりどっち向き?

こういう確認が速いです。

ただし、Elicitが作った表をそのまま信じるのは危険です

Elicit公式は「データ抽出精度99.4%」と主張していますが、独立した検証研究では精度・再現率・F1スコアいずれも92%程度という報告もあります。 別のSR比較研究では、「intervention effects(介入効果)」のような複雑な変数では、95%が「部分的に正しい」止まりだったとも報告されています。

麻酔科の論文って、まさに「介入効果」とか「アウトカム」が命だからです。

  • 症例数
  • p値
  • 95%信頼区間
  • 主要評価項目

このあたりは、必ず原文で確認します。 AIがちょっと飛ばしたり、混同したりすることがフツーにあります。


SciSpaceは「PDFを読むときの相棒」

SciSpaceは、論文PDFを読んでいるときに便利です。

ざっくりいうと、論文PDFに質問できるAI読解ツールです。

たとえばPDFを開いて、

  • この論文のPICOを教えて
  • 主要アウトカムを表にして
  • limitationを抜き出して
  • この統計結果を臨床的に説明して
  • 麻酔科医向けに要約して

みたいに聞けます。

SciSpaceは、科学文献の理解・分析を支援するAI research assistantとして紹介されており、専門用語、略語、複雑な段落、数式、表などをハイライトして説明したり、追加質問したりできると説明されています。

なので、SciSpaceは1本1本の論文を読むときに便利です。

特に英語論文で、

  • AbstractはわかるけどMethodsがしんどい
  • 統計のところで眠くなる
  • Table 2が情報量多すぎる
  • limitationを拾い忘れそう

みたいなときに助かります。

ただし、SciSpaceも原文確認の代わりではありません

AIが主要評価項目と副次評価項目を混同することもあります。 麻酔科領域だと、低血圧、徐脈、昇圧薬使用量、覚醒時間、術後せん妄など、アウトカムの定義が論文ごとに違うので、ここは必ず自分で確認する必要があります


sciteは「その論文、本当に引用して大丈夫?」を見るツール

sciteは、個人的にはかなり好きなツールです。

普通の文献検索では、引用数が多いか少ないかを見ます。 でも引用数が多い論文が、必ずしも「支持されている論文」とは限りません。

  • 有名だから引用されている
  • 反論するために引用されている
  • 背景説明として雑に引用されている

こういうことがあります。

sciteは、論文が後続研究からどのように引用されているかを見せてくれます。 具体的には、引用を

  • Supporting:支持している
  • Contrasting:対立・反証している
  • Mentioning:単に言及している

のように分類します。 sciteは、引用数だけでなく、引用された文脈、引用箇所、支持・対立・言及の分類を表示するツールとして説明されています。

これは論文を書くときにかなり大事です。

たとえば、あるメタ解析をIntroductionで強く引用したいとします。 そのときにsciteで見ると、後続研究でContrasting citationが多いことがあります。

そうすると、

  • この論文をメイン根拠として使うのは危ないかも
  • Discussionで反対結果にも触れた方がよいかも
  • 対象患者が違う研究では結果が異なるのかも

といった判断ができます。

さぬちゃん的には、sciteは「引用前の安全確認」です。

引用数を見るだけではなく、 どう引用されているかを見る。

これがsciteの価値です。

ただし、sciteの分類も完璧ではありません

scite自身が公開している統計では、全citationの平均で「Mentioning」が約93%、「Supporting」が約6.5%、「Contrasting」が約0.8%です。 つまり、ほとんどがMentioningに分類されます。

しかも、人間レビュアーがsciteの自動分類を再評価したところ、Mentioningと分類されたうちのかなりの割合が、本来はSupportingやContrastingだった、という研究もあります。

なので、sciteで「Contrasting citationが多い」と見えたら、その時点でアラートとして使うのは正解ですが、最終的には実際のcitation statement(引用文そのもの)を読みに行くのがおすすめです。

sciteも、AIに最終判断を任せるのではなく、自分で目視確認するための「気づきツール」として使うのが安全です。


4つの使い分けを表にするとこんな感じ

ツール 一言でいうと 得意なこと 苦手なこと
Elicit 文献探索と表作成 研究疑問から論文候補を探す、複数論文を表にする 最終的な正確性確認
SciSpace PDF読解アシスタント 論文を読む、要約する、表や統計を説明する 文献管理、引用挿入
scite 引用文脈チェック 支持・反証・言及を確認する PDF管理、Word引用
EndNote 文献管理の母艦 PDF管理、Word引用、参考文献リスト作成 反証論文の把握、引用文脈評価

さぬちゃん的おすすめワークフロー

実際に使うなら、こんな流れがよいと思います。

  1. PubMedでまず普通に検索する
  2. Elicitで関連論文を広めに拾う
  3. 重要そうな論文をEndNoteに入れる
  4. PDFをSciSpaceで読む
  5. 主要論文をsciteで確認する
  6. sciteで反証・撤回・懸念がないか見る
  7. EndNoteでWord原稿に引用する

シンプルにすると、

  • 探す:PubMed + Elicit
  • 読む:SciSpace
  • 評価する:scite
  • 管理・引用する:EndNote

です。

この順番にすると、ツール同士がケンカしません。


麻酔科での具体例

たとえば、 「レミマゾラムはプロポフォールより低血圧が少ないのか?」 を調べたいとします。

さぬちゃんなら、こうします。

  1. PubMedで remimazolam propofol hypotension anesthesia を検索
  2. ElicitでRCTやメタ解析を拾う
  3. Elicitで study design / population / intervention / outcome / adverse events の表を作る
  4. 重要論文をEndNoteに保存する
  5. PDFをSciSpaceで読む
  6. 主要RCTとメタ解析をsciteで確認する
  7. 反証論文や異なる結果があればDiscussionに入れる
  8. Word原稿ではEndNoteで引用する

これだけで、かなり効率が上がります。

特にDiscussionを書くときは、sciteが便利です。 「この研究ではこうだったが、別の研究ではこうだった」という論点を拾いやすくなります


追加で使えるツール

この4つ以外にも、便利なものがあります。

NotebookLM

複数のPDF、ガイドライン、スライド、Webページなどをまとめて入れて、その資料群に質問できるツールです。 GoogleのNotebookLMは、PDF、Webサイト、公開YouTube URL(字幕付き)、音声ファイル、Google Docs、Google Slides、Microsoft Word(.docx)、画像などをソースとして追加できると説明されています。

各ソースは最大500,000語または200MBまで、1ノートブックあたり50ソース(無料版)/ 300ソース(Plus版)が上限です。

SciSpaceが「論文PDFを読む相棒」なら、NotebookLMは複数資料をまとめた研究ノートに近いです。

  • ガイドライン3本
  • RCT 5本
  • メタ解析2本
  • 自分のメモ

を入れて、まとめて質問するような使い方に向いています。 50ソース上限内なら、ひとつの研究テーマや学会発表準備にはまず足ります。


Consensus

Consensusは、研究疑問に対して、論文ベースでざっくり答えを見たいときに便利です。 Consensusは査読文献を検索・分析するAI research search engineで、2.2億本以上の研究論文を対象にしていると説明されています。

たとえば、

Does dexmedetomidine reduce postoperative delirium?

みたいに聞くと、関連論文をもとに方向性を見せてくれます

ただし、これは最初の見取り図用です。 正式な文献レビューや論文執筆では、PubMed、Embase、Cochrane、原著確認が必要です。


ResearchRabbit

ResearchRabbitは、関連論文を地図のように広げて探すツールです。 論文や著者のつながりを可視化して、関連論文、引用関係、研究トレンドを追えると説明されています。

使い方としては、

  • この1本の重要論文から、周辺の論文を広げたい
  • この研究テーマの主要グループを知りたい
  • 引用関係で取りこぼしを減らしたい

というときに便利です。

Network view(ネットワーク図)とTimeline view(時系列図)の2種類があり、Similar work(類似研究)/ Earlier work(先行研究)/ Later work(後続研究)の3方向に広げていけます。


Rayyan

Rayyanは、システマティックレビューやメタ解析のスクリーニングに使うツールです。 タイトル・抄録スクリーニング、除外理由の管理、共同レビューなどに向いています。 Rayyanは、systematic reviewやliterature reviewで時間を節約するためのツールとして紹介されています。

普通の総説や症例報告では不要ですが、SRやメタ解析をやるなら候補になるでしょう。


注意:AIツールは便利だけど、最終確認係ではない

AIツールは本当に便利です。

でも、医学論文で大事なところは、最後は必ず自分で確認します。

  • 対象患者
  • 除外基準
  • 主要評価項目
  • 投与量
  • アウトカム定義
  • 統計手法
  • 95%信頼区間
  • p値
  • 有害事象
  • limitation

このあたりはAI要約を鵜呑みにしない方がよいです。

特に麻酔科領域では、 「低血圧」の定義ひとつでも論文によって違います

  • 収縮期血圧 < 90 mmHg
  • MAP < 65 mmHg
  • ベースラインから20%以上低下
  • 昇圧薬使用を低血圧扱い

など、微妙に違います。

AIが「hypotension was reduced」とまとめていても、定義が違えば臨床的な意味も変わります。


個人情報・未公開データは入れない

もう一つ大事なのは、外部AIツールに何を入れるかです。

患者情報、未公開研究データ、院内資料、倫理審査前の研究計画書などは、安易にアップロードしない方がよいです。

便利さと情報管理は別問題です。

論文PDFや公開済み資料を読む用途から始めるのが安全です。


まとめ

さぬちゃん的な結論はこれです。

  • Elicit:読むべき論文を探して表にする
  • SciSpace:PDFを読んで理解する
  • scite:その論文が支持されているか反証されているか見る
  • EndNote:文献を管理してWordで引用する
  • NotebookLM:複数資料をまとめて研究ノート化する
  • Consensus:研究疑問の方向性をざっくり見る
  • ResearchRabbit:関連論文を地図のように広げる
  • Rayyan:SR・メタ解析のスクリーニングを管理する

最初から全部使う必要はありません。

まずは、

  • EndNote
  • + Elicit
  • + SciSpace
  • + scite

この4つで十分だと思います。

使い分けは、

  • Elicitで探す
  • SciSpaceで読む
  • sciteで疑う
  • EndNoteで引用する

です。

AIツールは、論文を読まなくてよくする道具ではなく、 読むべき論文を早く見つけて、読む精度を上げる道具です。

この距離感で使うと、かなり実用的と感じるとおもいます。では

 

参照URL

EndNote 2025

Elicit

SciSpace

scite

NotebookLM

Consensus

ResearchRabbit

Rayyan

全身麻酔中のベンチレーターモード攻略【中編】片肺換気&気胸にPRVCで立ち向かえ!

こんにちは、さぬちゃんです。前編ではVC、PC、PRVCの基本を整理しました。

今回はお待ちかね、

「腹臥位食道手術で気胸を起こして片肺換気にしたとき、モードをどう考えるか」

に答えます。

4. 片肺換気(OLV)の目標は「優しいガス交換」

まず大原則の確認です。分離肺換気中は、換気側の肺ひとつだけで酸素化とCO₂排出をまかなう必要があります。残された片方は、フル稼働を強いられるブラック企業並みの肺ですね。

そんな肺をいたわるための3つの鉄則があります。

  1. 低容量換気:予測体重あたり 5–6 mL/kg のVt
  2. 適切な PEEP:虚脱を防いで酸素化を改善(5–8 cmH₂O が目安、またはΔPが最小になるよう個別化)
  3. プラトー圧とドライビングプレッシャーの制限:ΔPを 15cmH₂O より低く

この3つこそ、まさに PRVC(VC-AF)がバッチリ使える場面です。

 

5. なぜPCだけではダメなのか

術中の片肺換気では、腹臥位+開胸操作が重なって、換気側肺のコンプライアンスが10分単位でコロコロ変わります

PCで圧を固定していると、こんなことが起こります。

  • コンプライアンスが良いとき → Vtが出すぎて肺を傷める
  • コンプライアンスが悪くなったとき → Vtが出ずに高二酸化炭素血症

「ちょっと圧を下げよう」と手動で調整しているうちに、術者の愛のこもった圧排で再びコンプライアンスが改善 → 過換気…というエンドレスサイクルになりがちです。

つまり、こまめな調整なしにVtを安定させ、同時に圧上昇も防ぎたいならPRVC一択ということです。前編の図③が示す通り、PRVCは呼吸ごとに圧を自動で調整してくれるので、コンプライアンスが変動する場面でも目標Vtを安定して出してくれます。

6. では、純粋なPCが活きる場面は?

「PCはもう使わないほうがいいんですか?」という質問もよく出ます。

そんなことはありません。PCが光る場面もちゃんとあります。

  • 短時間で肺が安定している局面
  • 陽圧換気でガス漏れが増える気管支瘻
  • 圧損傷が怖い新生児

ただし共通して言えることは、「Vt変動ありき」を理解したうえで、ETCO₂を見ながらこまめに調整できる状況に限られるということ。

"とりあえずPC" は研修医の落とし穴です。覚えておいてください。

7. 気胸に気づく武器:ΔP(ドライビングプレッシャー)

腹臥位食道手術で気胸が発生すると、換気側の胸腔内圧がどんどん上がって肺が潰れていきます。怖いですよね。

PRVCを使っていれば、設定Vtを保つために吸気圧が自動的に上昇し、ΔPが急に16、18、20 cmH₂Oと上がっていきます。「あれ? コンプライアンスが急に落ちている?」と、アラームが鳴る前に違和感を持つことができるんです。

PCだけだと、Vtが100 mL台にまで落ちてから「換気できていない!」と気づくことになります。事後対応より、事前察知のほうがずっとラクですね。

実戦例:食道がん、腹臥位、左側臥位での右片肺換気

項目

設定

モード

VC-AF(PRVC)

目標Vt

300〜350 mL
(予測体重60 kgの5〜6 mL/kg)

呼吸回数

14〜16 回/分

I:E比

1:2〜2.5

PEEP

7 cmH₂O(非換気側にもCPAP 3〜5)

上限圧

30 cmH₂O(それ以上は要確認)

そしてモニター表示のΔPを常にチラ見します。

ΔP 12以上なら要注意、14を超えたら原因検索というイメージです。

これで気胸の増悪、チューブ位置異常、分泌物貯留などを早期にキャッチできます。

エビデンスもしっかりあります。

  • Parkら(Anesthesiology 2019)駆動圧を最小化するPEEP設定を行うことで、術後肺合併症が半分以下(12.2%→5.5%)に減少
  • Puら(Int J Clin Exp Med 2014
    PCV-VGのほうがVCより有意に気道内圧が低く、酸素化も良好

感覚論ではなく、ちゃんと裏付けがあります。

まとめ(中編)

  • 片肺換気の合言葉は「低容量・適正PEEP・ΔP制限
  • PRVC(VC-AF)なら、Vtを保ちながらΔPを最小限に抑えられる
  • 気胸の早期発見にも、ΔPは最高の武器になる
  • PCは使い所を選ぶプロ仕様。初手で振り回す道具ではない

ここまでで「片肺換気のモードどうする?」の答えはわかりましたね。

References

[1]Park M, et al. Driving Pressure during Thoracic Surgery: A Randomized Clinical Trial. Anesthesiology. 2019;130(3):385–393.

[2]Ahn HJ, et al. Driving pressure guided ventilation. Korean J Anesthesiol. 2020;73(3):194-204.

[3]Pu J, et al. Applications of pressure control ventilation volume guaranteed during one-lung ventilation in thoracic surgery. Int J Clin Exp Med. 2014;7(4):1094-1098.

[4]Batchelor TJP, et al. Guidelines for enhanced recovery after lung surgery: recommendations of the Enhanced Recovery After Surgery (ERAS®) Society and the European Society of Thoracic Surgeons (ESTS). Eur J Cardiothorac Surg. 2019;55(1):91-115.

[5]Braïk R, et al. Comparison of low vs high tidal volumes in one-lung ventilation during thoracic surgery: a propensity-weighted cohort study. Sci Rep. 2025;15:16171.

[6]Campos JH, Sharma A. What is the Ideal Tidal Volume During One-Lung Ventilation? J Cardiothorac Vasc Anesth. 2023;37(10):1993-1995.

[7]Yin Y, Du J. Higher versus lower positive end-expiratory pressure during one-lung ventilation for thoracic surgery: a systematic review and meta-analysis. Front Surg. 2026;13:1838287.

全身麻酔中のベンチレーターモード攻略【前編】VC・PC・PRVC、結局どれを使う?

こんにちは、さぬちゃんです。

「先生、ベンチレーターのモード、多すぎて何がなんだかわかりません」

手術室でキラキラした眼差しで聞いてくる研修医くん。

この、よくある質問をまとめて整理します。

「PCは最初だけ?」「PRVCって何?」「そもそもVCとの違いは?」

今回はそこから出発して、腹臥位食道手術で気胸+片肺換気になったときの考え方、さらには覚醒時のPSVまで、3回にわけて解説します。少し長丁場になりますが、お付き合いください。

 

まずはモード別の波形を1枚にまとめた図を見てみましょう。これから説明する4つのモード(VC・PC・PRVC・PSV)の圧と流量パターンを、わかりやすい図にしてみました(エッヘン)。

人工呼吸モード別の圧・流量パターン比較

図:各モードでは 圧(青)と 流量(赤) のかたちが対照的に変わる
① VC:流量を矩形波で送るので、圧が直線的に上がる
② PC:圧を矩形波で当てるので、流量は減速波になる
③ PRVC:見た目はPCと似ているが、目標Vt達成のため呼吸ごとに圧を自動調整
④ PSV:患者がトリガしてからサポート圧、流量がピークの約25%まで落ちたところで呼気に移る

 

ではひとつずつ整理していきましょう。

 

1. まずは基本モード:量規定(VC)圧規定(PC)

昔ながらの麻酔器のモードは、おおむねこの2つに集約されます。

■ Volume Control(VC:量規定換気)

「1回換気量(Vt)を〇〇 mLに決めて送る」モードです。設定したVtを強制的に送り込むので、肺が硬くなってもお構いなしにガスが入っていきます。図の①VCを見てください。流量は矩形波(一定流量)、それに伴って圧は直線的に上昇していますね。

・メリット:Vtが保証される → PaCO₂の管理がしやすい
・デメリット:肺コンプライアンスが落ちたとき(気胸や腹臥位で胸郭が硬くなったとき)に気道内圧が跳ね上がって圧損傷リスクがある。アラームが鳴り始めて、ヒヤッとする

■ Pressure Control(PC:圧規定換気)

「吸気圧をここまで!」と上限を決めて、あとは患者さんの肺におまかせするモード。図の②PCのとおり、圧は矩形波で一定に保たれ、流量は減速波(最初にドバッと入って徐々に減る)になります。

・メリット:圧を制限できるので、気道内圧を上げたくない場面(新生児や肺が漏れそうなとき)に安心
・デメリット:Vtが保証されない。術中に肺が硬くなると、設定圧では十分なVtが出なくなり、分時換気量が落ちてCO₂がうなぎ登りになることも

ここで質問の核心です。「PCは最初はいいけれど、ずっと同じ圧で換気が維持できるわけではないですよね?」――まさにその通り!

とくに腹臥位の食道手術のように、手術操作や気胸でコンプライアンスがコロコロ変わるとき、PCだけではVtが安定せず、こまめに設定圧を調整する必要が出てきます。忙しい術中、これは地味にストレスですよね。

 

2. そこで登場するのがハイブリッド救世主 PRVC(VC-AF)

PRVC(Pressure Regulated Volume Control) とは、ひと言で言うと

目標Vtを決めたら、それを達成できるギリギリの低い圧を自動で調整してくれる、ありがたいモード

 

ドレーゲル社の麻酔器ではVC-AF(Volume Control – AutoFlow)、GEでは  PCV-VG(Pressure Control Ventilation - Volume Guaranteed)、その他VC+などと呼ばれています。名称はバラバラですが、中身はだいたい同じ仲間です。

仕組みはこんな感じです。

1. 1回目の呼吸はVCで換気して、気道抵抗やコンプライアンスを測定
2. 次の呼吸からはPCのように 減速波で圧をかけていく
3. Vtが足りなければ次の呼吸で吸気圧をわずかに上げ、多すぎれば下げる

つまり「肺の状態に合わせて必要最低限の圧で目標Vtを届ける賢いモードなんです。図の③PRVCを見てください。定常状態に入った後のPRVC(呼吸ごとに圧が変化する様子)を描いています。波形そのものはPCに似ていますが、1呼吸目と2呼吸目で圧の高さが違うことに注目してください。これが「呼吸ごとに自動調整」の正体です。VCのいいところとPCのいいところを合体させたモードです。

肺が硬くなっても自動で圧を調整してくれるのでVtが安定します。しかも上限圧を設定しておけば、異常な高圧にはならない安心設計です。

 

3. PRVC(VC-AF)で何を監視するのか

私が強くお勧めしたいのが、ドライビングプレッシャー(ΔP)の監視です。

> ΔP = プラトー圧 - PEEP

これは肺の「真の硬さ」を反映する指標で、極めて重要です。

  • Amato 先生の有名な論文(N Engl J Med 2015)[1] をはじめとする近年の研究から、ARDS の患者さんでは ΔP を 15 cmH₂O 未満に保つことが重要とされています
  • 麻酔中の人工呼吸全般でも、駆動圧が高いほど術後肺合併症が増えることが、Serpa Neto先生らの大規模個別患者データメタ解析(Lancet Respir Med 2016)[2] で示されました(17のRCT・2250例で、駆動圧が1単位上がるごとに術後肺合併症のオッズが1.16倍)
  • そして片肺換気下の胸部外科でも、駆動圧最小化PEEP戦略をとった群で術後肺合併症が有意に減ることを、Park先生らがランダム化比較試験で証明しました(Anesthesiology 2019)[3]

PRVCやVC-AFは、設定Vtを送るのに必要な圧が自動で変わります。だからこそモニターに表示される ΔPを見れば「いま、肺にどれだけ負担がかかっているか」が一目瞭然になるわけです。

たとえば気胸が悪化してコンプライアンスが落ちたとき、ΔPはじわじわ上昇します。「あ、これはまずい」と早期に気づくことができ、胸腔ドレーンを確認したり、術者に手を止めてもらったりといった対応が打てます。PCだけだとVtが減るだけなので、気づくのがワンテンポ遅れると考えています。

 

まとめ(前編)

- PCオンリーは一見肺保護的に見えますが、肺が硬くなると換気不全になるため一手間が必要
- PRVC(VC-AF)は目標Vtを保証しながら、必要最低限の圧で換気してくれる
- ΔPを日常的に監視することで、肺に優しい管理ができ、トラブルの早期発見にもつながる

 PRVCやVC-AFを使ってドライビングプレッシャーを監視する方針は、文献的にも理にかなった現代的な戦略です。

文献 

[1] Amato MBP, et al. Driving pressure and survival in the acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med. 2015;372(8):747–755.
DOI: https://doi.org/10.1056/NEJMsa1410639
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25693014/

[2] Serpa Neto A, et al. Association between driving pressure and development of postoperative pulmonary complications in patients undergoing mechanical ventilation for general anaesthesia: a meta-analysis of individual patient data. Lancet Respir Med. 2016;4(4):272–280.
DOI: https://doi.org/10.1016/S2213-2600(16)00057-6
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26947624/

[3] Park M,  et al. Driving Pressure during Thoracic Surgery: A Randomized Clinical Trial. Anesthesiology. 2019;130(3):385–393.
DOI: https://doi.org/10.1097/ALN.0000000000002600
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30664548/

ESAICも日本麻酔科学会も推奨!「NEWS」から「NEWS2」への進化——術後管理で何が変わったのか?

こんにちは。さぬちゃんです。

最近、週末ごとにMac miniとBeelink GTR9 Proを並べてローカルLLM(大規模言語モデル)環境を構築する沼にどっぷりハマっておりまして、気がつけばデスクの上がちょっとしたデータセンターみたいになってきました(笑)。AIの進化スピードにはまったく目が離せませんが、よく考えてみれば——私たち麻酔科医が日々向き合う「医療のスタンダード」も、同じくらいのペースでアップデートされ続けているんですよね。

そこで今日のお話です。術後病棟管理で、いま世界的なスタンダードになりつつある早期警告スコア、NEWS(National Early Warning Score) のアップデートについて、麻酔科医の視点から整理してみようと思います。

「NEWSって、病棟管理の話でしょ?麻酔科には関係ないんじゃないの?」と思われた方、ちょっと待ってください。これ、実は私たち麻酔科医の日常業務にも、がっつり関わってくる話なんです。


日本麻酔科学会とESAICのガイドラインにおけるEWSの位置づけ

まず押さえておきたいのが、NEWSやNEWS2に代表される早期警告スコア(EWS: Early Warning Score)は、すでに国内外の重要なガイドラインにしっかり組み込まれているという事実です。

🇯🇵 日本麻酔科学会のガイドライン

日本麻酔科学会の
抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン

https://anesth.or.jp/files/pdf/safe_airway_management_extubation_early_postoperative_period.pdf?var=20260418125738

をご覧になったことはありますか? この中で、手術室からの退室基準として、明確にEWSの評価が推奨されているんです。

同ガイドラインの「ステップ5:退室前確認」では、まずおなじみの 「4つのMUST」——つまり、

  • 筋収縮の回復
  • 自発呼吸の回復
  • 従命可能
  • 抜管後の上気道維持

——の達成を確認した上で、さらにEWSの評価が求められています。

ここがポイントなんですが、「4つのMUSTがクリアできたからOK」と安心するのではなく、EWSが5点や7点など高値を示している場合には、病棟に対して厳重な申し送りを行うなど、具体的なアクションにつながる指標としてEWSが機能しているわけです。退室「基準」というより、退室後の「リスク評価」に使っている、というイメージでしょうか。

🔗  日本麻酔科学会『抜管から術後早期までの気道管理ガイドライン』(本編PDF)

🇪🇺ESAICの動向

一方、海の向こう——欧州麻酔集中治療学会(ESAIC)のガイドラインや公式声明でも、術後病棟で起こる予期せぬ急変、いわゆる Failure-to-rescue(救命失敗) を防ぐための「Track and Triggerシステム」として、EWSが強力に推奨されています。

そして現在、世界的に旧版のNEWSから 「NEWS2」 への移行が進んでいます。

🔗  ESAIC Guidelines 公式ページ

 

では、旧NEWSから「NEWS2」になって、一体何がどう変わったのでしょうか? 麻酔科医の視点から、私が「これは押さえておきたい!」と感じた変更点を3つにまとめてみました。

【変更点①】
意識レベル評価が「AVPU」から「ACVPU」へ進化

個人的に、周術期管理において最もインパクトが大きいと感じている変更点がこれです。

従来の意識レベル評価は「AVPU(Alert, Voice, Pain, Unresponsive)」というシンプルな4段階でした。しかしNEWS2では、ここに 「C(New Confusion:新たな意識混乱)」 が追加され——

  旧 NEWS NEWS2
意識レベル A V P U A C V P U

「ACVPU」 へと進化したんです。

なぜ「C」が追加されたのか?

これ、非常に重要です。

ESAICは近年、術後せん妄(POD: Postoperative Delirium)や術後認知機能障害(POCD) の予防を、極めて重要な臨床課題として位置づけています。NEWS2では、この「新たな意識混乱(C)」が観察された時点で、血圧や呼吸などのバイタルサインが安定していても即座に「最高リスクの3点」が加算される仕組みになっています。

これが何を意味するか——単に生理学的な破綻(血圧低下や低酸素血症など)だけでなく、術後の脳機能障害(せん妄の兆候)を病棟看護師がいち早くスクリーニングし、麻酔科医や主治医にアラートを上げる仕組みが、スコアの中に取り入れられたんです。

私たちが全身麻酔を担当した患者さんが、術後にせん妄を起こしてしまうことは決して珍しくありません。「C」が加わったことで、そのキャッチが少しでも早くなる——これは現場にとって本当にありがたい進化だと、私は感じています。

【変更点②】
SpO₂の評価スケールが「2つ」に分かれた

もう一つの大きな変更点は、慢性呼吸器疾患をもつ患者さんへの配慮です。

旧NEWSではSpO₂の評価基準はひとつしかなく、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などで普段からSpO₂が低め(88〜92%程度)の患者さんに対しても、一律に「低酸素」として高いスコアがついてしまっていました。

これでは病棟で不要なアラートが鳴り続け、いわゆる アラーム疲労(alarm fatigue) の問題が起きてしまいます。鳴り続けるアラームは、やがて無視されてしまう(アラーム慣れ)——これ、医療安全上とても怖いことですよね。

そこでNEWS2では、SpO₂のスケールが 2種類 用意されました。

✅ スケール1(通常用) SpO₂ 96%以上を正常(0点)とする、従来どおりの基準。

✅ スケール2(高炭酸ガス血症性呼吸不全のリスクがある患者用) あらかじめターゲットSpO₂を「88〜92%」に設定し、88〜92%を正常(0点)として評価。さらに——ここが秀逸なのですが——酸素を投与しすぎてSpO₂が93%以上になった場合にもスコアが加算される仕組みになっています。

つまり、不用意な酸素投与によるCO₂ナルコーシスを防ぐ仕組みが、スコアの中にきっちり組み込まれているんです。これにより、基礎疾患に応じたより精度の高いトリアージが可能になりました。まさに画一的な評価(one size fits all)からの脱却です。

【変更点③】
「酸素投与の有無」のスコア化がより明確に

旧版でも酸素投与の有無は評価されていましたが、NEWS2では評価フローの中でより明確な位置づけとなり、「ルームエアーか、酸素投与か」という項目で、酸素を使用していれば 「2点」が加算される仕組みが整理されました。

「酸素を使っている=何かしらの呼吸サポートが必要な状態」ということで、リスクが一段階上がると解釈されます。これは、直感的にも理解しやすいと思います。


【参考】NEWS2 スコアリング一覧表

ここまでの変更点を踏まえた、NEWS2の全体像を一枚の表にまとめました。

📋 NEWS2 スコアリングチャート

生理学的パラメータ 3点 2点 1点 0点 1点 2点 3点
呼吸数(回/分) ≤8 9–11 12–20 21–24 ≥25
SpO₂ スケール1(%) ≤91 92–93 94–95 ≥96
SpO₂ スケール2(%)
※高CO₂血症性呼吸不全リスク患者用
≤83 84–85 86–87 88–92
(またはroom airで≥93)
93–94
(酸素投与中)
95–96
(酸素投与中)
≥97
(酸素投与中)
酸素投与の有無 酸素投与中 room air
収縮期血圧(mmHg) ≤90 91–100 101–110 111–219 ≥220
脈拍(回/分) ≤40 41–50 51–90 91–110 111–130 ≥131
意識レベル(ACVPU) A(Alert) C / V / P / U
(意識混乱・呼名反応・痛み刺激反応・無反応)
体温(℃) ≤35.0 35.1–36.0 36.1–38.0 38.1–39.0 ≥39.1

🔸 ポイント①:旧NEWSからの大きな変更は、意識レベルに「C(New Confusion/新たな意識混乱)」が追加、そしてSpO₂に スケール2 が新設された点。 🔸 ポイント②:酸素投与中は、それだけで +2点 が加算される(スケール1・2のSpO₂スコアとは別途)。 🔸 ポイント③:「新たな意識混乱(C)」が1つでも該当すると、その項目だけで 3点 が加算される。

📋 NEWS2 トリガー値と臨床対応の目安

合計スコアから、病棟ですべきことが決まります。

合計スコア リスク分類 観察頻度 対応レベル
0 低リスク 最低12時間ごと 通常観察
合計1〜4 低リスク 4〜6時間ごと 看護師による評価
いずれか1項目で3点
(Redスコア)
低〜中リスク 最低1時間ごと 医師へ緊急コール
合計5〜6 中リスク 最低1時間ごと 医師による緊急評価
(クリティカルケア能力のあるチームが望ましい)
合計7以上 高リスク 持続モニタリング 緊急対応チーム招集
HCU/ICUレベルのケアを検討

※RCP(Royal College of Physicians)のNEWS2推奨プロトコルを参考に作成。各施設でのローカライズ(救急コール基準や申し送りルール)と組み合わせて運用するのが現実的です。

術後申し送りの場面で、「合計スコア◯点、そのうちC(新たな意識混乱)で3点上乗せ」といった形で伝えられると、受け手の病棟看護師も次のアクションを即座にイメージできる——こういう「共通言語」として、NEWS2はとても優秀なツールだと思います。


まとめ

NEWS2は「術後病棟の安全網」をより強固にする

ESAICがNEWS2(およびそれを用いた持続モニタリング)を推奨する背景には、「病棟での間欠的なチェックだけでは、患者の急変サインを見逃してしまう」という強い危機感があります。

NEWS2へのアップデートは、単なる数字の変更ではありません。

  • 術後せん妄(C)の早期発見
  • 呼吸器疾患患者における誤検知の防止(SpO₂スケール2)

——という、臨床現場で私たちがまさに直面している課題をクリアするための、とても実用的な進化なんです。

さらに付け加えると、2026年(令和8年)の診療報酬改定に向けて、手術室の稼働率アップや効率化がますます求められていく中、早期に患者さんを安全に病棟へ帰室させ、かつ急変を防ぐためのツールとして、もはやNEWS2の概念は麻酔科医にとっても必須の知識と言えるでしょう。

自施設の電子カルテの看護記録や退室基準が、まだ旧NEWSや独自の基準に留まっているようでしたら、ぜひこれを機に「NEWS2」の導入やアップデートを検討してみてはいかがでしょうか。周術期チームで共通言語を持つ——これは立派なチーム医療の形だと思っています。