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さぬちゃんの麻酔科医生活


小児の扁桃腺アデノイド切除術では、プロポフォールによる麻酔維持がよい!(AmPRAEC試験)

小児の扁桃腺アデノイド切除術において、プロポフォールによる麻酔維持が術後の呼吸器合併症を劇的に減らすことを証明した重要な研究(AmPRAEC試験)が出ました。


気道が敏感な小児が受けるアデノイド・扁桃摘出術においては、術後に激しい咳き込みや酸素飽和度の低下といった「術後呼吸器有害事象(PRAEs)」が頻繁に問題となります。こうした中、2025年に『Anesthesiology』誌に掲載された大規模臨床研究により、静脈麻酔薬であるプロポフォールが、これらのリスクを劇的に低減させる麻酔薬であることが科学的に証明されました。
そこで、AmPRAEC試験[1]のエビデンスを基に、なぜプロポフォールが「良い麻酔薬」として評価されたのかを論点別に考察します。

 

プロポフォール」とは?

プロポフォールは、1980年代(日本では1990年代)から臨床使用されている静脈麻酔薬です。最大の特徴は、「切れの良さ」にあります。作用の発現が速く、体内からの消失も極めて速やかであるため、麻酔の深さを精緻に調節しやすく、手術終了後はスムーズな目覚が得られます。その扱いやすさから、成人の手術においては長年にわたり多くの麻酔科医から絶大な支持を集めてきました。

しかし、子供に対しては少し事情が異なりました。

プロポフォールは、小児のICU(集中治療室)での長期的な鎮静においては使用が禁忌とされています。また過去には、不適切な使用による事故が報道された経緯もあり、小児領域では「あまり良いイメージがない」あるいは「慎重にならざるを得ない薬」という側面があったのです。近年では小児麻酔でも使用されるケースが増えてきましたが、その医学的なメリットについては「なんとなく良さそう」という曖昧な評価に留まっていました。

本当に子供に使って安全なのか? メリットはあるのか?

今回の研究は、そんな長年の疑問に終止符を打ちました。プロポフォールは小児患者において、単なる「使いやすさ」を超えた「安全性における圧倒的な優位性」を持っていることを見せつけたのです。


論点1:術後の呼吸器トラブルを「75%」も抑制する
2025年に発表されたAmPRAEC試験[1]は、中国の12の医療機関が参加した大規模な多施設共同ランダム化比較試験です。
研究チームは、アデノイド・扁桃摘出術を受ける0歳から12歳の小児729名を以下の3グループに分け、麻酔維持の方法による術後トラブルの差を検証しました。
* IV群(完全静脈麻酔):プロポフォールのみで維持
* IVIH群(併用麻酔):プロポフォール + 吸入麻酔薬(セボフルラン)
* IH群(吸入麻酔):吸入麻酔薬(セボフルラン)のみで維持


【衝撃の結果:トラブル発生率の差】
術後の回復室(PACU)における呼吸器系トラブル(酸素低下、激しい咳、気道閉塞など)の発生率は、プロポフォール群では圧倒的な結果となりました。

グループ 麻酔方法 トラブル発生率 リスク比(対 吸入麻酔)
IV群 プロポフォール単独 18.80% オッズ比 0.25(激減)
IVIH群 併用 28.50% オッズ比 0.44(半減)
IH群 ガス麻酔(セボフルラン) 43.40% 基準

吸入麻酔のみでは4割以上の子供に何らかの呼吸器トラブルが起きましたが、プロポフォール単独に切り替えることで、そのリスクは半分以下(約75%減)にまで低下しました。
統計学的には、3人の子供をガス麻酔からプロポフォールに変えるだけで、1人のトラブルを未然に防げる(NNT=3)という、非常に高い予防効果が示されました。


論点2:なぜプロポフォールだと咳が出ないのか?(メカニズムの解説)
なぜこれほどまでに差が出るのか? 論文の考察では、薬理学的なメカニズムの違いが論点として挙げられています。

1. 喉の反射をブロックする力が強い
手術終了時、気管チューブを抜く刺激は非常に強く、通常であれば体は「異物だ!」と反応して激しく咳き込んだり、喉頭が痙攣します。プロポフォールには、この喉頭反射を強力に抑制する作用があるため、抜管時の反応を穏やかにし、物理的に気道を守ることができます。

2. 気道の「興奮」を避ける
比較対象となった吸入麻酔薬(セボフルラン)も気管支を広げる作用はありますが、覚醒の過程で一時的に気道が過敏になる「興奮期」が長引く傾向があります。一方、プロポフォールは気管支平滑筋の収縮を抑えつつ、穏やかに覚醒させる特性があるため、気道過敏性の高い子供の手術に非常に適しています。
論点3:覚醒の質を高め、早期回復を促す
プロポフォールの利点は呼吸器系だけではありません。本研究では、術後の「目覚めの質」と「効率」についてもその優位性が示されました。
* 覚醒時興奮(Emergence Delirium)の減少
麻酔から覚める際、子供がパニックになって泣き叫んだり暴れたりする「覚醒時せん妄」は、小児麻酔で特に問題となる合併症です。今回の研究では、吸入麻酔群の発生率23.8%に対し、プロポフォール群では12.1%と、発生率が約半分に抑えられていました。
* 回復室滞在時間の短縮
プロポフォールを使用したグループは、吸入麻酔群に比べて術後回復室(PACU)での滞在時間が有意に短いことも示されました。質の高い覚醒は、結果として早期の退室と回復につながります。


結論:エビデンスに基づく「より安全な麻酔」へ

今回の研究が突きつけた事実は、シンプルかつ強烈です。 プロポフォールを使えば、術後の呼吸トラブルは確実に減らせる」。これに尽きます。

これまで小児麻酔の主流は「マスクでガスを吸入する吸入麻酔」でしたが、少なくともリスクの高い扁桃腺の手術においては、プロポフォールによる完全静脈麻酔(TIVA)こそが、科学的に裏付けられた「最も安全な第一選択であると言えます。かつては「子供には使いにくい」と敬遠された薬が、今や「子供の安全を守る強力な味方」へと、その評価を完全に覆したのです。

しかし、この安全性には「絶対的な条件」があります。

それは、高度な設備とモニタリング環境および麻酔科医のTIVA技術です。 小児のTIVAを安全に行うためには、以下のような専門機器による厳密な管理が欠かせません。

  • 静脈麻酔薬を精密に投与する「シリンジポンプ」

  • 体内の薬物濃度を予測・制御する「PK/PDシミュレーションソフト」

  • 子供の脳の活動を測る「小児用処理脳波モニター」

  • 筋弛緩薬の効果を正確に監視する「筋弛緩モニター」

はっきり言えば、これらの設備が十分に整っていない施設で安易にTIVAを行うことは、かえって危険であると私は考えます。

優れた薬剤」と「万全の設備」、そしてそれを使いこなす「専門医の技術」。 これらが揃った環境でこそ、プロポフォールはその真価を発揮し、子供たちの未来を安全に守ることができると考えます。


参考文献
[1] Shen F, et al. Effect of Intravenous, Inhalational, or Combined Anesthesia Maintenance on Postoperative Respiratory Adverse Events in Children Undergoing Adenotonsillectomy (AmPRAEC): A Multicenter Randomized Clinical Trial. Anesthesiology. 2025; 143:1484-96.

ビデオ喉頭鏡の評価はVCIスコア (Video Classification of Intubation)へ

ビデオ喉頭鏡(VL)が標準装備となった現在、皆さんは挿管記録をどのように残していますか? Cormack-Lehane分類 グレード1 と書いて終わりにしていないでしょうか。

実は、VLの普及に伴い、従来の分類では表現しきれない「画面では声門が丸見えなのに、チューブが入らない」というジレンマが現場で課題となっていました。

そこで2025年末、英国麻酔科学会誌(BJA)にて新たな国際標準指標「VCIスコア (Video Classification of Intubation)」が発表されました。

なぜ今、VCIスコアなのか?

従来の直視型喉頭鏡では、「見える=入る」が概ね成立していました。しかし、ビデオ喉頭鏡(特に強弯曲型ブレード)では、カメラ越しに声門がPOGO 100%(丸見え)あっても、角度がきつくてチューブ操作が難航するケースが多々あります。

この「Look good, Do bad(視野は良好、操作は困難)」という現象を、従来のスコアでは「グレード1(良好)」としか記録できず、難易度が正しく伝わらない(天井効果)という問題がありました。

これを解決するのが、以下の3要素を組み合わせたVCIスコアです。

VCIスコアの3つの構成要素

VCIスコアは、①ブレード形状、②視野、③操作性の3つをセットで記録します。

1. Blade shape(ブレード形状)

どのタイプのビデオ喉頭鏡を使ったかを記録します。形状によって挿管のテクニックが全く異なるためです。

  • M (Macintosh):標準的なマッキントッシュ型(C-MAC, McGrath MACなど)

  • H (Hyperangulated):強弯曲型(GlideScope, McGrath X bladeなど)

  • S (Straight):ストレート型(Miller型など)

2. POGO(Percentage of Glottic Opening)(声門視認率)

View(視野)の評価には、おなじみのCormack-Lehaneではなく、POGOスコアを採用します。

  • 0%, 25%, 50%, 75%, 100% の5段階で評価

  • 【重要】 「最もよく見えた瞬間」ではなく、「実際にチューブを通そうとした瞬間(at tube delivery)」の視野を記録します。

3. Tube delivery(チューブ操作性)

ここがVCIスコアの肝です。「チューブを通すのが簡単だったか、苦労したか」を評価します。

  • E (Easy):メーカー推奨の手順通り、追加の器具なしでスムーズに入った。

  • D (Difficult):視野はあったが、ブジーの使用や外部圧迫などの追加の工夫が必要だった。

    • ※カルテには D (Bougie) のように内容を併記します。

  • F (Failed):挿管できず、デバイス変更や手技の中止に至った。

実際の記録例:違いは歴然!

例えば、「強弯曲型ブレードを使って画面では100%見えていたが、チューブが当たらずブジーを使って何とか挿管した」という症例の場合。

  • 従来の記録

    👉 「Cormack Grade 1」

    • これでは「すごく簡単な症例」に見えてしまい、次回の担当医が油断するリスクがあります

     

  • VCIスコアでの記録

    👉 「H - 100 - D (Bougie)」

    • 強弯曲型(H)を使用し、視野は完璧(100)だったが、操作はDifficult(D)でブジーが必要だった、と正確に伝わります

     

まとめ:正確な記録は、患者の安全につながる

2026年現在、VCIスコアはビデオ喉頭鏡時代の「新しい共通言語」として定着する予感がします。

「見えたかどうか」だけでなく「どう入れたか」までを記録に残すこと。それが、再挿管や将来の手術麻酔における患者さんの安全に直結します。

ぜひ明日からの臨床で、「ブレード・POGO・操作性」の3点セットを意識した記録を始めてみてはいかがでしょうか。

 

表. VCIスコア (Video Classification of Intubation)

評価項目

記号

定義・内容

判定基準・ポイント

Blade shape
 (
ブレード形状)

M

Macintosh
(
マッキントッシュ)

標準的なカーブのブレードを使用

(例: C-MAC, McGrath MAC)

H

Hyperangulated
(
強弯曲型)

屈曲が強いブレードを使用

(例: GlideScope, McGrath X blade)

S

Straight
 (
ストレート型)

直型のブレードを使用

(例: Miller型)

POGO
 (
声門視認率)

%

0, 25, 50, 75, 100
(5
段階)

「チューブを入れる瞬間」の視野
声門開口部(前交連〜披裂間切痕)が見えている割合。
※最もよく見えた時ではなく、実際の操作時の視野とする。

Tube delivery
(
チューブ操作性)

E

Easy (容易)

追加器具なし
メーカー推奨の手順通り、追加の器具や工夫なしにスムーズに挿管できた場合。

D

Difficult (困難)

追加器具あり

挿管のために追加の器具(ブジー等)や手技(外部圧迫等)が必要だった場合。

※詳細は ( ) に記録する。

F

Failed (失敗)

挿管不成功

追加処置を行っても成功せず、手技を中止・変更した場合。

※詳細は ( ) に記録する。

 

記録の記載例

カルテには3つのコードをハイフンで繋いで記載する。

  • M - 100 - E
    意味:マッキントッシュ型を使用、視野は100%良好、操作も容易だった。

  • H - 100 - D (Bougie)

    意味:強弯曲型を使用、視野は100%見えていたが、チューブが入らずジーを追加して挿管した。
    ※ビデオ喉頭鏡で頻発する「画面では見えているが入れにくい (Look good, do bad)」症例を正確に記録できる。

【参考文献】

Halliday C, et al. VCI Study Group. The Video Classification of Intubation (VCI) score for videolaryngoscopy: a multicentre international feasibility study. Br J Anaesth. 2025 Dec 11:S0007-0912(25)00802-5. doi: 10.1016/j.bja.2025.11.007.

 

 

IVリドカインはなぜ効く? 鎮痛を超えた「臓器保護薬」としての役割

手術室で古くから使われている局所麻酔薬、リドカイン(キシロカイン®)。通常は神経周囲に注射して痛みをブロックするために使われますが、近年、これを全身麻酔中に点滴静注」する手法が、術後回復強化プロトコル(ERAS)の切り札として広まっています。

「なぜ今さら、リドカイン?」

その答えは、単なる鎮痛を超えた「抗炎症作用」と「臓器保護効果」にあります。本記事では、IVリドカインが術後鎮痛の「主役」に躍り出た歴史的経緯と科学的根拠について考察します。

  1. IVリドカイン復活の経緯:オピオイドからの脱却

実は、リドカインを点滴で鎮痛に使う試みは1950年代から存在しました。しかし、当時は硬膜外麻酔が全盛であり、一度は廃れてしまいました。

風向きが変わったのは、ここ10年ほどの「ERAS」と「オピオイド・フリー」の潮流です。かつては「痛ければ麻薬(オピオイド)を使えばいい」という考え方が主流でしたが、2000年代以降、「オピオイドは吐き気や腸管麻痺(イレウス)、呼吸抑制を起こすから極力減らしたい」というニーズが高まりました。この流れの中で「オピオイドを使わずに痛みを抑え、しかも腸を動かす薬」として、古い薬であるリドカインが再発掘されたのです。

  1. なぜ効くのか?鎮痛を超えた3つのメリット

IVリドカインには、局所麻酔薬としての作用以外に、全身投与に特有のメリットがあります。

強力な抗炎症作用(Anti-inflammatory 手術侵襲によって活性化する好中球の遊走や炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6など)の産生をブロックします。これが腸管のむくみや、肺の炎症を防ぐ中心的なメカニズムと考えられています[1]。

腸管蠕動の促進 交感神経反射を抑制し、腸管麻痺(術後イレウス)からの回復を早めます。これにより、「早期に食事が摂れる」「早く退院できる」というERASの目標達成に貢献します[2]。

痛覚過敏抑制(Anti-hyperalgesic 神経が痛みに対して敏感になる(感作される)のを防ぎ、術後のしつこい痛みを予防します[3]。

  1. 具体的な用法・用量:どう使うのか?

IVリドカインの投与方法は、施設や手術内容によって多少異なりますが、国際的なコンセンサス[4]や多くの臨床研究[3]で推奨されている標準的なプロトコルは以下の通りです。

投与フェーズ

投与量

ポイント

初回ボーラス

1.5
mg/kg

麻酔導入時に、10分程度かけてゆっくり投与します。急激な血圧低下や中毒症状を防ぐためです。体重は実測体重ではなく理想体重で計算することが推奨されます[4]。

術中維持

1.5 – 2
 mg/kg/時

初回投与に続き、手術終了まで持続静注します。

術後持続

1 - 1.5
 mg/kg/時

施設や患者の状態によりますが、術後24時間まで継続することがあります。
安全性の観点から、術中のみで終了する施設も増えています[4]。

安全使用のための注意点

中毒症状の監視: 初期症状として、耳鳴り、めまい、口周囲のしびれなどがあります。これらの兆候を見逃さないことが重要です。

禁忌: 重度の肝機能障害や心伝導障害(完全房室ブロックなど)のある患者には原則禁忌です。

他剤との併用: 神経ブロックなど他の局所麻酔薬と併用する場合は、総投与量に注意し、中毒リスクを避ける必要があります。国際コンセンサスでは、IVリドカイン中止後、少なくとも4時間は他の局所麻酔薬の投与を控えることが推奨されています[4]。

  1. 「効く手術」と「効かない手術」:PROSPECTガイドラインの視点

すべての手術に漫然と使えば良いわけではありません。手術別の術後疼痛管理ガイドラインであるPROSPECTでは、IVリドカインの推奨度は手術の種類によって大きく異なります。

手術の種類

PROSPECTの推奨度

理由・背景

開腹大腸手術

推奨

硬膜外麻酔が使用できない場合の代替として推奨されています[6]。

腹腔鏡下大腸手術

推奨なし

2024年の最新ガイドラインでは、エビデンスが一貫していないため、コンセンサスが得られず推奨されていません[7]。

胸腔鏡手術(VATS)

推奨なし

2022年のガイドラインでは、鎮痛効果に関するエビデンスが不十分として推奨されていません[8]。しかし、近年の肺合併症予防に関する研究[5]により、今後見直される可能性があります。

開腹前立腺摘出術

推奨

開腹手術においては推奨されています[9]。

帝王切開

推奨なし

オピオイド削減効果が限定的であるため、推奨されていません[10]。

このように、PROSPECTでは特に開腹手術において、硬膜外麻酔が使えない場合の「次の一手」として位置づけられています。一方で、腹腔鏡手術や胸腔鏡手術では、まだその地位は確立されていません。

5.安全性の再評価

IVリドカインの有効性が広く認知される一方で、2025年頃からその普及に伴う局所麻酔薬中毒(LAST)のリスクが、専門家の間で改めて警鐘が鳴らされています。特に、過量投与や長時間投与は中毒のリスクを高めるため、国際コンセンサス[4]で示された用法・用量を遵守し、中毒の初期症状(耳鳴り、口周囲のしびれ等)の監視を徹底することが、これまで以上に重要視されています。

まとめ

IVリドカインは、もはや「硬膜外麻酔が失敗したときの代打」ではありません。「炎症をコントロールし、合併症を減らすための攻めの薬」として、特に開腹手術での地位を確立しています。

その歴史は古いですが、ERASとオピオイド削減という現代的なニーズによって再評価され、今や周術期管理に欠かせない薬剤の一つとなっています。ただし、その使用にあたっては、最新のガイドラインと安全性に関する知見に基づき、適切な患者に適切な用法で用いることが不可欠です。

 

参考文献

[1] Hollmann MW, Durieux ME. Local anesthetics and the inflammatory response: a new therapeutic indication? Anesthesiology. 2000;93(3):858-75.

[2] Weibel S, et al. Continuous intravenous perioperative lidocaine infusion for postoperative pain and recovery. Cochrane Database Syst Rev. 2018;6(6):CD009642. [3] Dunn LK, Durieux ME. Perioperative Use of Intravenous Lidocaine. Anesthesiology. 2017;126(4):729-737.

[4] Foo I, et al. The use of intravenous lidocaine for postoperative pain and recovery: international consensus statement on efficacy and safety. Anaesthesia. 2021;76(2):238-250.

[5] de la Gala F, et al. Effect of intraoperative paravertebral or intravenous lidocaine infusion on postoperative complications and inflammation after lung resection surgery: a randomised controlled trial. Br J Anaesth. 2025;134(1):134-143.

[6] Uten T, et al. Pain management after open colorectal surgery: An update of the systematic review and procedure-specific postoperative pain management (PROSPECT) recommendations. Eur J Anaesthesiol. 2024;41(5):337-350.

[7] Lirk P, et al. PROcedure-SPECific postoperative pain management guideline for laparoscopic colorectal surgery: A systematic review with recommendations for postoperative pain management. Eur J Anaesthesiol. 2024;41(3):198-218.

[8] Feray S, et al. PROSPECT guidelines for video-assisted thoracoscopic surgery: a systematic review and procedure-specific postoperative pain management recommendations. Anaesthesia. 2022;77(3):311-325.

[9] Lemoine A, et al. PROSPECT guidelines update for evidence-based pain management after prostatectomy for cancer. Best Pract Res Clin Anaesthesiol. 2021;35(4):543-554.

[10] Roofthooft E, et al. PROSPECT guideline for elective caesarean section: updated systematic review and procedure-specific postoperative pain management recommendations. Anaesthesia. 2021;76(5):665-680.

「Aラインがマンシェットより低い?」 プロポフォール+レミフェンタニル麻酔で“ポパイ現象”が消失する理由

手術室で、こんな「逆転現象」に遭遇したことはありませんか?

「導入前(覚醒時)は、Aライン(橈骨動脈圧)の方がマンシェット(上腕血圧)より高かった。 しかし、TIVAで麻酔が安定した途端、Aラインの方が低くなってしまった……」

「回路がダンピングし(なまっ)ているのかな?」「ゼロ点がずれた?」 そう疑ってフラッシュしても、波形は鋭利で正常。それでもマンシェット(NIBP)は110 mmHgあるのに、Aライン(IBP)は90 mmHgしかない

実はこれ、機器の不具合ではなく、生理学的な「ポパイ現象」の消失と、血圧測定法の特性が組み合わさって起きる必然的な現象なのです。

そこで、プロポフォールとレミフェンタニルによる全身麻酔中に起きるこの「血圧逆転」の謎について考察します。

1. そもそも「ポパイ現象」とは?

Popeye phenomenon(ポパイ現象)とは、「上腕(二の腕)の血圧よりも、前腕(橈骨動脈)の収縮期血圧の方が高くなる現象」のことです[1]。 アニメのポパイが、上腕(力こぶ)よりも前腕(肘から先)が太く発達していることに由来して名付けられました。

なぜ覚醒時は「末梢」の方が高いのか?

健康な成人の覚醒時において、動脈圧は心臓から末梢へ向かうにつれて収縮期血圧が高くなります(末梢脈波増高:Peripheral Pulse Amplification)。 これは、末梢に行くほど血管壁が硬くなることに加え、末梢血管抵抗によって跳ね返ってきた「反射波」が、心臓からの前進波に乗っかる(加算される)ことで生じます。

かつてはこの現象が「測定誤差ではないか?」と疑われ、"Fictional Popeye phenomenon"(架空の現象)と揶揄された歴史もありましたが、2019年のArmstrongらの研究により「覚醒時は橈骨動脈圧が上腕動脈圧より平均して高く、時には15mmHg以上の差がある」とが実証されました[2]。

つまり、「覚醒時は Aライン > マンシェット」となるのが生理的には正常なのです。

2. なぜ、ポパイ現象は麻酔中(プロポフォール+レミフェンタニル)に消失するのか?

では、なぜTIVA(全静脈麻酔)中にはこの関係が崩れ、逆転してしまうのでしょうか。 その犯人は「血管拡張」です。

① メカニズム:反射波の消失

脈波増高(ポパイ現象)は、血管の「張り」と「反射」によって維持されています。 しかし、プロポフォールとレミフェンタニルを使用した麻酔では以下のことが起こります。

  1. 強力な血管拡張: プロポフォールの血管平滑筋弛緩作用と、レミフェンタニルの交感神経抑制作用により、体血管抵抗(SVR)が低下します。
  2. 反射波の減弱: 血管が土管のように拡張すると、壁からの「跳ね返り(反射波)」がなくなります。
  3. 増幅の消失: 結果として、手首(橈骨)での血圧のかさ上げ効果がなくなり、橈骨動脈圧は中枢(大動脈)の圧と同レベルまで低下します。

de Witらの研究では、プロポフォール麻酔が末梢血管抵抗を低下させ、動脈圧を用量依存的に低下させることが示されています[3]。この強力な血管拡張作用こそが、脈波の「反射」を減弱させ、覚醒時に見られた脈波増幅(ポパイ現象)を消失させる直接的な原因となるのです

② 逆転の決定打:マンシェットの過大評価

さらに厄介なのが、マンシェット血圧計(NIBP)の特性です。 オシロメトリック法(自動血圧計)は、低血圧時や血管抵抗低下時に、実際の動脈圧よりも数値を高く表示する(過大評価する)傾向があります[4]。

  • Aライン (IBP): 血管拡張を正直に反映して数値が下がる(ポパイ現象消失)。
  • マンシェット (NIBP): アルゴリズムの特性で高めの数値を出す。

この2つが同時に起こるため、「Aラインの方が低い」という逆転現象が完成するのです。これをOccult Hypotension(隠れた低血圧)と呼びます。

3. 臨床での正解はどっち?

結論:波形に問題がなければ、低い方の値(Aライン)を信じるべきです。

マンシェットの数値を見て「血圧は保たれている」と安心していても、実際の臓器灌流圧(Aライン/IBP)は危険域にある可能性があります。

Dauvergneらの最新の研究(2024)でも、TIVA中の患者においてNIBPはIBPよりも有意に高く表示され、低血圧を見逃すリスクが高いことが警告されています[5]。

麻酔導入後にAラインとマンシェットの乖離が生じた場合、安易に「Aラインがおかしい」と疑う前に、「血管拡張によってポパイ現象が消え、真の血圧が露呈した」と捉え、循環作動薬の使用や輸液負荷を検討するのが安全な管理になると思います。

【引用文献リスト】

  1. Adji A, O'Rourke MF. Brachial artery tonometry and the Popeye phenomenon: explanation of anomalies in generating central from upper limb pressure waveforms. Journal of Hypertension, 2012;30(8), 1540–1551. 
    ポパイ現象という言葉の起源と、当初は懐疑的であった議論についての文献
  2. Armstrong MK, et al. Brachial and Radial Systolic Blood Pressure Are Not the Same: Evidence to Support the Popeye Phenomenon. Hypertension. 2019; 73(5), 1036–1041.
    覚醒時において橈骨動脈圧が上腕動脈圧より有意に高いことを実証した重要文献

  3. de Wit F, et al. The effect of propofol on haemodynamics: cardiac output, venous return, mean systemic filling pressure, and vascular resistances. Br J Anaesth. 2016;116(6):784-9.
    プロポフォール麻酔が末梢血管抵抗を低下させ、動脈圧を用量依存的に低下させることが示されています

  4. Wax DB, et al. Invasive and concomitant noninvasive intraoperative blood pressure monitoring. Anesthesiology. 2011;115(5):973-8.
    術中においてNIBPはIBPよりも低血圧を過小評価=数値を高く出す傾向があることを示した文献

  5. Chapalain, X, et al. Continuous non-invasive vs. invasive arterial blood pressure monitoring during neuroradiological procedure under general anesthesia. Perioperative Medicine. 2024;13(1), 42.
    TIVA麻酔中においてNIBPとIBPの乖離が頻発し、NIBPは低血圧を見逃しやすいことを示した最新報告

 

術中血圧管理のパラダイムシフト: 末梢からの希釈ノルアドレナリン持続投与

パラダイムシフトが起こった周術期血圧管理

術中低血圧(Intraoperative Hypotension: IOH)は、もはや「よくある麻酔合併症」ではなく、「避けられる重篤な有害事象」として認識されるべき時代に突入しています[1,2]。

近年の大規模観察研究により、MAP<65 mmHgの「深さ×時間」が急性腎障害(AKI)や術後心筋梗塞(MINS)と用量反応的に関連することが明確となりました[3,4]。これにより、従来の「血圧が下がったら対処する」という受動的管理から、「低血圧を起こさない・長引かせない」能動的管理へのパラダイムシフトが加速しています。

INPRESS試験では、術前血圧の±10%内を目標とした個別化血圧管理により、主要臓器障害の複合エンドポイントが有意に減少することが示され[5]、低用量ノルアドレナリン(NE)の早期持続投与は「輸液は節度、圧はNEで維持する」というERAS(Enhanced Recovery After Surgery)の理念とも完全に合致します[6]。

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血管アクセスの新常識:2025年ガイドラインの「15の教え」

2025年に発表された「Association of Anaesthetists guidelines: safe vascular access 2025」は、従来の「とりあえずルートを取る」から、患者の「生涯にわたる静脈の健康」(Lifetime Vein Health)を最優先する包括的なアプローチへと大きく舵を切りました[7]。

15の包括的リコメンデーションの中でも、特に注目すべきは以下の項目です:

 プロセス・チーム

R1/R2:専門チーム体制
- 血管アクセス専門チームを確立し、迅速な対応を保証する重要業績評価指標(KPI)を設定すること
- 麻酔科医は多職種連携を主導するのに適任です

R3/R4:包括的ケア
- 長期的な静脈の健康維持を目指した包括的なアプローチを徹底すること
- DVA(困難な静脈アクセス)患者は専門チームに早期に関与させるべきです

挿入・デバイス

R5:安全基準
- 血管アクセス手技に際し、ガイドワイヤー遺残防止策を含む局所安全基準(LocSSIPs)を組み込むこと

R6:超音波ガイド穿刺
- 中心静脈アクセスや、適用可能な他の部位に対しては、リアルタイム超音波ガイドを常に利用すること
- 超音波ガイド下で末梢血管カニュレーションを行う場合は、浸潤損傷リスク軽減のため、短針よりも長い末梢カテーテルまたはミッドラインを検討すること

R7:3分の1ルール
- 「3分の1ルール」を理想とし、カテーテルが血管断面積の3分の1を超えないようにすること
- 刺激性の薬剤(ノルアドレナリンなど)を投与する場合は、血管壁損傷を最小限に抑えるために、血液希釈比を3:1以上(血液3に対して薬剤1)に保つこと

R8:CVC先端位置
- 上部体幹の中心静脈カテーテル(CVC)先端は、最大血流と希釈を確保するため、上大静脈の下3分の1、房室接合部、または高位右心房に配置すること

特殊な管理

R11:CKD患者での静脈保護
- 腎代替療法が必要な慢性腎臓病患者では、将来の動静脈瘻造設に必要となる静脈(特に尺側皮静脈、橈側皮静脈)の保護が極めて重要です

R13:末梢昇圧薬投与
- ノルアドレナリンなどの強力な末梢血管収縮薬は、適切に留置された短末梢カテーテルから、施設プロトコルに従い希釈された濃度(例:16μg/mL)、適切な部位・ゲージ・頻回観察の下で短時間(多くの施設は24−48時間以内)に限り容認される
- この際、厳格なプロトコルに従う必要があります

レーニン

R14/R15:教育・研修
- すべての医療従事者に対し、カテーテル挿入後管理、メンテナンス、早期合併症認識に関するトレーニングを必須とすること
- 専門的な血管アクセス訓練制度を開発すること

R13の革新性は、これまで「禁忌」とされがちだった末梢からの昇圧薬持続投与を、適切な条件下で積極的に容認した点にあります。これにより、中心静脈確保を待つことによる「昇圧の遅れ」を防ぎ、IOH暴露時間の最小化が可能となります。

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 末梢静脈からノルアドレナリンを投与する際の「超」重要チェックリスト

ガイドラインR13でも明記されている通り、末梢からの昇圧薬投与は血管外漏出のリスクを最小限に抑える厳格なルールを守る必要があります[7,8]。

以下に実践的なチェックリストを示す

# 1. 部位の選定

手背や足背の小さな静脈は絶対NG!

穿刺部位は、前腕から肘窩(肘の内側)の太く流量の多い静脈を選択すること[9,10]。肘窩より中枢側にある太い静脈は、血液による希釈効果が高まり、血管壁への刺激を大幅に軽減します。

可能な限り20G以上の太いカテーテルを使用し、確実な静脈還流(逆血)が得られることを確認してください。

# 2. 濃度と希釈比

血管壁への刺激を減らすため、できるだけ薄い低濃度(例:4 mg/250 mL = 16 μg/mLを末梢上限の目安)を使用し、希釈比3:1以上を保つこと[7,11]。

この「3:1ルール」は、血液3に対して薬剤1の割合で希釈されることで、血管内皮への直接的な薬理学的損傷を最小化します。

注)臨床現場では16-20 µg/mLの範囲で調整可能。20 µg/mL(1mg/50mL)は調製の利便性と安全性のバランスから実用的な濃度として許容される

# 3. 期間と用量

短期間(24時間未満)の投与に限定すること[8,12]。

中心静脈確保までの「つなぎ」として考え、高用量(例:0.2 μg/kg/min以上)が必要な場合や、24時間以上投与が予想される場合は、速やかに中心静脈ルートへ移行させること[11]。

# 4. 監視体制

患者が痛みや違和感を報告できる状態であることを確認し、穿刺部を1〜2時間ごとに頻繁に視触診して確認すること[8,10]。

発赤、硬結、疼痛、浮腫といった血管外漏出の初期兆候を見逃さないことが重要です。

# 5. 血管外漏出時の対応

漏出が疑われたら、直ちに投与を中止し、可能なら残存薬液をカテーテルから吸引後、カテーテルを抜去します[12]。

フェントラミン(α遮断薬)5−10 mgを10 mLの生理食塩水で希釈(0.5mg/mL)し、12

時間以内に漏出部位周囲数カ所に分散注射する[8]。

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なぜフェニレフリンよりノルアドレナリンなのか?

術中低血圧を是正する際、ノルアドレナリン(NE)がフェニレフリン(PE)よりも持続投与において優位性が高い理由は、主にその薬理作用の違いにあります[13,14]。

 

 薬理作用の比較

薬剤 主な作用 心臓への影響 持続投与時の特徴1
フェニレフリン
(PE)
選択的α₁作用 強いα作用により血管収縮
→血圧急上昇→反射性徐脈
→心拍出量(CO)一回拍出量(SV)低下
ボーラス投与に適す
持続投与では心機能抑制リスク
ノルアドレナリン
(NE)
α作用メイン
+弱いβ作用
β作用により心収縮力・心拍数を比較的保持
→心拍出量低下を防ぐ
→徐脈発生がPEより少ない
持続投与に最適、
微量滴定で精密管理可能

半減期の長いPEより短いNEの方が持続投与に向いている!

 

 持続投与における優位性の詳細解説

① 心機能の維持

麻酔薬や脊椎麻酔により末梢血管抵抗が低下した状態では、PEは血管を収縮させますが、反射性徐脈による心拍出量の低下が問題になりやすいです[15]。

これに対し、NEは弱いβ作用により心拍出量を保ちやすいため、低用量で持続投与することにより、低血圧を予防しつつ、心臓への負担を抑えた安定的な循環維持に優れています[13]。

② 冠灌流圧の維持

心筋灌流(冠血流)は、主に拡張期血圧(dBP)によって規定されます[16]。

もしPEが徐脈を引き起こし心拍数を低下させると、拡張期時間が長くなりすぎる場合があります。一方で、NEは心拍出量と心拍数を適切に維持しやすいため、低血圧を回避しながら適切な冠灌流圧を保つのに適しています。

③ 微量持続投与による精密な血圧管理

NEは微量持続投与(予防的持続)による素早い効き目と切れの良さから、目標血圧を正確に維持するための細かな滴定管理に適しています[5,17]。

PEはボーラス投与も可能ですが、持続投与においては心拍出量低下を引き起こすリスクがあるため、低用量NEの予防的持続投与が「下げない管理」のパラダイムシフトを推進しています。

④ ERAS/GDFTとの整合性

NEの早期持続投与は、輸液だけで血圧を上げようとする過剰輸液を回避し、「輸液は適正に、圧はNEで維持する」という最新のERAS/GDFTの流れとも完全に整合性が取れています[6]。

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エビデンスに基づく周術期血圧管理

 IOHの定義と臓器障害リスク

近年の大規模研究により、MAP≤65 mmHgの発生率は19.3%、≤55 mmHgは7.5%であり、IOHは術後の心血管系合併症(MACCE)の推定オッズ比をそれぞれ12%、17%、26%増加させることが明らかになりました[3]。

「深さ×時間」の概念

IOHによる臓器障害リスクは、「どれだけ低いか(深さ)×どれだけ続くか(時間)」の積で規定されます[1,4]。

MAP≦65 mmHgが最も一貫して有害事象と関連し、MAP≦55 mmHgでは短時間でもMI/MINSやAKIのリスクが上昇します[18]。

低用量ノルアドレナリン持続投与の有効性

INPRESS試験では、個別化群(術前血圧±10%を目標とした低用量NE持続投与)が標準群と比較して、主要複合アウトカムを38.1% vs 51.7%(相対リスク0.73、95%CI 0.56-0.94、P=0.02)と有意に改善しました[5]。

特に腎機能障害と意識障害で顕著な改善が認められました。

 過剰輸液回避の重要性

RELIEF試験により過度な輸液制限がAKI増加と関連することが示され[19]、現在はバランス晶質液+必要最小限のボーラス+低用量NEによる圧サポートという戦略が標準的となっています[6]。

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まとめ:実践への応用

末梢低濃度ノルアドレナリンの位置づけ

末梢からの低濃度NE投与は、中心静脈確保までの「つなぎ」ではなく、IOH予防のための積極的な初期治療選択肢として位置づけるべきです[7,20]。

適切なプロトコルに従えば、重篤な合併症は稀であり、血圧安定化による臓器保護効果の方がリスクを大きく上回ります。

 

安全な投与のための3つのポイント

1. 適切な血管選択:前腕〜肘窩の太い静脈、20G以上のカテーテル
2. 厳格な濃度管理:16-20 μg/mL以下、希釈比3:1以上
3. 頻回モニタリング:1-2時間ごとの穿刺部確認、漏出兆候の早期発見

 

中心静脈ルートへの移行基

以下のいずれかに該当する場合は、速やかに中心静脈ルートへの移行を検討してください[8,11]:

- 投与開始から24時間経過
- 0.2 μg/kg/min以上の高用量が必要
- 血管外漏出の兆候
- 長期間(24時間以上)の投与が予想される場合

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おわりに

周術期血圧管理の新たなスタンダードとして湧き上がった、血管を守りながら低血圧を高速で阻止するアプローチが、患者の予後改善に直結することが大きく寄与すると考えます。

2025年ガイドラインの登場により、末梢からの低濃度ノルアドレナリン投与は「禁忌」から「推奨」へと大きく転換しました。適切なプロトコルと厳格なモニタリング体制のもとで、この革新的なアプローチを日常診療に取り入れることで、より安全で質の高い周術期管理が実現できると確信しています。

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### 参考文献

  1. APSF Intraoperative hypotension: a public announcement for anesthesia professionals. 2024.
  2. Sessler DI, et Perioperative Quality Initiative consensus statement on intraoperative blood pressure, risk and outcomes for elective surgery. Br J Anaesth. 2019;122(5):563-574.
  3. Salmasi V, et Intraoperative Hypotension Is Associated With Adverse Clinical Outcomes After Noncardiac Surgery. Anesth Analg. 2021;132(6):1654-1665.
  4. Walsh M, et al. Relationship between intraoperative mean arterial pressure and clinical outcomes after noncardiacsurgery: toward an empirical definition of Anesthesiology. 2013;119(3):507-515.
  5. Futier E, et Effect of Individualized vs Standard Blood Pressure Management Strategies on Postoperative Organ Dysfunction Among High-Risk Patients Undergoing Major Surgery: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;318(14):1346-1357.
  6. Thacker JK, et Perioperative fluid utilization variability and association with outcomes: considerations for enhanced recovery efforts in sample US surgical populations. Ann Surg. 2016;263(3):502-510.
  7. Association of Association of Anaesthetists guidelines: safe vascular access 2025. Anaesthesia. 2025;80(1):1-23.
  8. Royal Alexandra Peripheral Noradrenaline Guidelines. NHS Greater Glasgow and Clyde. 2023.
  9. Gandhi ZJ, Dugar S, Sato R. Do I always need a central venous catheter to administer vasopressors? Cleve Clin J Med. 2024;91(5):287–291. 

  10. Blenkinsop P, Pachucki M. Department of Critical Care: Peripheral Noradrenaline (Norepinephrine) infusion—The use of peripheral intravenous infusion of noradrenaline in adult critical care patients. Version 1.1. Gloucestershire Hospitals NHS Foundation Trust; 2023 Apr 6. Review due 2025 Apr 1.

  11. Lamontagne F, et Effect of reduced exposure to vasopressors on 90-day mortality in older critically ill patients with vasodilatory hypotension: a randomized clinical trial. JAMA. 2020;323(10):938-949.
  12. Cleveland Clinic Journal of Peripheral vasopressor administration: a comprehensive review. CCJM. 2024;91(3):163-172.
  13. Ngan Kee A random-allocation graded dose-response study of norepinephrine and phenylephrine for treating hypotension during spinal anesthesia for cesarean delivery. Anesthesiology. 2017;127(6):934-941.
  14. Onwochei DN, et al. Norepinephrine intermittent intravenous boluses compared with phenylephrine infusionfor treating arterial hypotension during spinal anaesthesia for caesarean section: a randomised controlled trial. Anaesthesia. 2017;72(3):340-348.
  15. Carrick MM, et Comparative hemodynamic, metabolic, and renal effects of phenylephrine and norepinephrine in septic shock. World J Crit Care Med. 2020;9(1):1-10.
  16. Hoffman Adrenergic receptor-activating & other sympathomimetic drugs. In: Katzung BG, ed. Basic & Clinical Pharmacology. 14th ed. McGraw-Hill Education; 2018:131-149.
  17. Maheshwari K, et Hypotension Prediction Index for prevention of hypotension during moderate- to high-risk noncardiac surgery. Anesthesiology. 2020;133(6):1214-1222.
  18. Ahuja S, et Associations of Intraoperative Radial Arterial Systolic, Diastolic, Mean, and Pulse Pressures with Myocardial and Acute Kidney Injury after Noncardiac Surgery: A Retrospective Cohort Analysis. Anesthesiology. 2020;132(2):291-306.
  19. Myles PS, et Restrictive versus Liberal Fluid Therapy for Major Abdominal Surgery. N Engl J Med. 2018;378(24):2263-2274.
  20. Khanna AK, et al. Association between mean arterial pressure and acute kidney injury and a composite ofmyocardial injury and mortality in postoperative critically ill patients: A retrospective cohort analysis. Crit Care Med. 2019;47(7):910-917.

麻酔科医としての「一人前」を考える

麻酔科専門医という資格を取得すれば、一人前なのか?

 

まずは、これから考えてみたい。

医師としての「一人前」とは、どのような状態を指すのだろうか。この問いに明確な答えを出すのは難しく、一人前の定義は非常に曖昧である。しかし、多くの医師がこの目標に向かって努力している中で、麻酔科専門医の資格取得が一人前の基準の一つとみなされることが多い。本稿では、麻酔科専門医資格の意義と、それが本当に「一人前」を意味するのかについて考えてみたい。

麻酔科専門医とは

現在、日本で麻酔科専門医資格を取得するには、厳しい条件をクリアする必要がある。日本専門医機構による麻酔科専門医研修プログラムで 4年以上の研修を修了し、以下の基準を満たすことが求められる。

  • 臨床経験の充実
    特定の症例経験数が求められる。例えば、小児麻酔25例、心臓血管手術麻酔25例など、多岐にわたる分野で経験を積む必要がある。

  • 知識と技術の検証
    筆記試験、口頭試問、実技試験の全てに合格しなければならない。

  • その他の条件
    研究実績やACLSのプロバイダーカード取得も必要である。

これらをすべて達成し、麻酔科専門医資格を取得できるのは最短で卒後7年目。これは決して簡単な道のりではない。

一人前を測る尺度としての麻酔科専門医

麻酔科専門医は、「一人前」を証明する資格と見なされることがある。それもそのはず、この資格を持つ医師は一定の知識と技術を有することが保証されているからである。しかし、果たして資格取得だけで一人前と認められるのだろうか。

麻酔科専門医の実力は一律ではない。「専門医資格を持つ=一人前」と断定するのは早計である。一人前とは、単なる知識や技術だけではなく、臨床での判断力やチームとの連携、自立した働きぶりなど、多面的な要素を含んでいると考えるべきである。

麻酔科専門医という資格は一人前を判断する材料のひとつにすぎない!

 

麻酔科医の「一人前」とは

麻酔科医は、手術室での責任を一人で背負う場面が多い職種である。そのため、「一人前」とされるには、技術だけではなく、的確な判断力と自信を持って対応できる精神力も必要である。これは、単に資格では測りきれない要素である。

「一人前」とは、周囲から信頼され、どんな状況でも冷静に対応できる存在であること。知識・技術に加え、患者やチームと円滑にコミュニケーションを取る能力が求められる。

麻酔科専門医の資格を目指すあなたへ

麻酔科専門医は、確かに「一人前」を目指す重要な一歩である。しかし、その資格をゴールとするのではなく、それを土台にさらなる成長を目指してほしい。資格取得後こそが本当のスタートラインである。経験を重ね、日々学び続けることで、本当の意味での「一人前」に近づくことができる。

「一人前」とは、曖昧なようでいて、実はとても奥深い目標である。

 

麻酔科専門医申請資格

(1) 医師臨床研修終了後,申請する年の 3 月 31 日までに満 3 年以上の機構が定める麻酔科

専門医研修プログラムを修了すること.また,麻酔科専門医研修プログラムで修練して

いる間は,麻酔科関連業務に専従していること.

※ただし 2017 年度開始の研修プログラムは学会認定プログラムのため,(1)の要件を(A)とする.

(A) 医師臨床研修終了後,申請する年の 3 月 31 日までに 満 4 年以上の学会が定める麻酔科

専門医研修プログラムを修了すること.また,麻酔科専門医研修プログラムで修練して

いる間は,麻酔科関連業務に専従していること.

(2) 申請する年の日本麻酔科学会(以下,学会)の会費を完納していること

(3) 申請する年の 3 月 31 日までに 600 例以上の麻酔科管理症例(局所麻酔を含む)を担当医と

して経験し,下記の経験症例数を満たすこと.医師臨床研修期間中に研修プログラム所属機

関で実施した症例についても経験症例として含めることができる.なお,小児と心臓について

は 1 症例の担当医を 2 人までとするが,その他の麻酔症例では 1 症例の担当を主たる担

当医 1 名とする.また,1 症例を重複して申請することは認めない.

・小児(6 歳未満)の麻酔 25 症例

帝王切開術の麻酔 10 症例

・心臓血管手術の麻酔 25 症例 (胸部大動脈手術を含む)

・胸部外科手術の麻酔 25 症例

脳神経外科の麻酔 25 症例

(4) 申請する年の 5 年前の 4 月 1 日から申請する年の 3 月 31 日までの間に,所定の実績(10

単位)があること

(5) 申請する年の 5 年前の 4 月 1 日から申請する年の 3 月 31 日までの間に,AHA-ACLS,ま

たは AHA-PALS プロバイダーコースを受講し,実技試験申請時にプロバイダーカードを取得

していること

http://www.anesth.or.jp/info/certification/pdf/nintei/senmon-new-ikou.pdf

 

麻酔科専門医の矜持

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若い頃のさぬちゃん

麻酔科専門医の先は、どうする?という問いに、みなさんはどう答えるだろうか。

この問いの意味をどうとらえるかによって、その人が、資格に対してどの様に考えているかがわかる。

若い先生に話をするときに、「麻酔科専門医の先は、どうする?」と聞くことにしている。

次の資格取得が大切と考える先生は、次は●●専門医をとりますと答える。では、その先はと問うと、次は●●専門医をという答えが返ってくる。

身の振り方について問うていると思っている先生は、次は、研究や論文を頑張りますとか、指導を頑張りますとか(手術室の麻酔/ICU/ペインクリニック/緩和やもう少し細かい仕事など)をやっていきたいと考えてるいう答えが返る。

仕事内容の充実、スキルを上達させることだととらえている先生は、次は●●の管理ができる様にしますとか、次は●●に関する仕事ができるようになりたいと思いますとかいう答えである。もうすこし、デキる答えは、○○を極めたい!!と具体的に極めたいことを言うのである。

資格を取得することが悪いと言ってるのではなく、麻酔科専門医の取得をゴールだと考えている先生がいるのではないかという老婆心からである。

 

専門医というのはスタートであって、ゴールではない!

 

医師免許の取得と同じで、専門医取得もスタートであってゴールではない。

麻酔科専門医を100人並べれば100段階のレベルの違いがある!専門医というのはとった時点では同じ資格であるが、その後の磨き方でどの程度スキルが上がるか大切である(ドラクエで学ぶw)。

どの方面を伸ばしたいかは、本人の興味や経験症例などによって変わってくるのだが、先の目標なしにやっていると、同学年でもスキルにかなりの差が出てくることに気づかされる(私は気づく)。麻酔科専門医の矜持とは、時間がたっても専門医レベルを維持し続けることである。

専門医といえるレベルでない、(資格上の)麻酔科専門医ほど惨めなものはない。

 

麻酔科専門医のレベルとは

 

専門医のレベルをわかりやすく説明するために麻酔科医の仕事を手術室内での仕事に限定する。

一言で言うと「讃岐塾10ヵ条」 1) を実践できる麻酔科医である。

 

讃岐塾10ヵ条

①目の前の症例に対して、ベストを尽くすこと(守りには回らないこと)

②常に1つの方法だけではなく、複数の選択枝を持つこと

③自分の行っていることに自信を持つこと、その姿勢を貫くこと

④他科の医師やコメデイカルに対して絶対的な信頼を得ること

⑤患者、患者家族、外科医、メディカルスタッフに対して満足が得られるように常に努

力すること、その姿勢が見てとれること

⑥自分の専門領域の状況判断は、緊急事態以外では、すべて1人で行えること

⑦緊急事態の手に負えない症例については、躊躇せず他の医師を呼ぶことがで

きること、その判断に従えること

③新しいことには、患者の安全を確保した上で常に挑戦すること

⑨専門領域の世の動向についての勉強とスキルの維持。向上を継続すること

⑩自分の仕事についての理解が得られるよう、仕事環境を整えるために麻酔科

の仕事を広く啓蒙すること

 

文献

1)やさしくわかる!麻酔科研修 改訂第2版 P.280